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私の愛用品

 佳多山大地さんから指名され、二つ返事でこのエッセイを引き受けたはいいが、むむむ、愛用品? あれやこれやと考えてみたけれど、しっくり来るものはなかなか思い浮かばない。はて、困った。「これじゃなきゃダメ! それがないと生きていけないんだ!」というこだわりの逸品なんて、どうやら僕にはまったく存在しないようだ。うーん、うーん、どうしよう? 「やっぱり万年筆は、モンブランのマイスターシュティックに限るねえ。18金のペン先がとてもしなやかだし、なによりもその軽さに驚きだよ。今にも羽が生えて飛んでいってしまうんじゃないかと錯覚することもあるね。あはははは」と、仕方がないからデタラメを書くことも考えたのだが……締切間際になって持病が再発したことで、ようやく「これぞ!」という愛用品を見つけた。
 温水洗浄便座である。

 つい先日のことだが、派手な尻餅をつき、臀部に大きな擦り傷を作った。ヒリヒリするのとは別に、なにか妙な痛みがあるなあと、夜になって風呂場で確認してみると、うわあ、肛門の周りがぱんぱんに腫れあがっている。翌日医者に行ったら、「血栓性外痔核です」と診断された。俗にいう《イボ痔》である。
 イボ痔とのつきあいは長い。忘れもしない──今から8年前の12月24日。突然お尻が痛み出したため、慌てて病院へ行ったところ、「こりゃ、ひどい。すぐに切りましょう」といきなり手術をする羽目に。当時つき合っていた彼女とのデートは、当然キャンセル。その日は座ることさえろくにできず、一人寂しくトイレでガーゼを取り替え続けた。最悪のクリスマス・イヴ。今思い出しても、涙がこぼれる。
 それからというもの、長時間歩き回ったり、激しい運動を続けたりすると、すぐに肛門の周囲が腫れあがるようになってしまった。経験者ならわかってくれると思うが、痔になったときの排便は本当にツライものだ。指先でほんの少しさわっただけでも激痛が駆け抜ける。トイレットペーパーなどあてがえるはずもない。そんなわけで、温水洗浄便座は僕にとって絶対欠かせないアイテムとなった。

 温水洗浄便座といえば、やはりTOTOのウォシュレットが有名だろう。最近の商品は、ノズルが前後に動いてまんべんなくお尻を洗ってくれるムーブ洗浄だけでなく、弾丸のように水玉を連射するワンダーウェーブ洗浄、1秒間に170回の旋回水流を吐き出すワンダースピン洗浄など、様々な機能がついている。どれも、プロのマッサージを受けているような心地よさ(なんのプロだ?)。一度体験してしまうと、もうこの快感からは逃れられない。
 外泊先のトイレに温水洗浄便座がついていないと、それだけでひどく憂鬱な気分に陥ってしまう。といっても、温水洗浄便座が設置された公共施設はまだまだ少ない。そこで、最近は携帯用ウォシュレットの購入を考えている。使い心地がよければ、たぶん僕の一番の愛用品になると思うのだが、結構値の張る商品なんだよなあ。誰かプレゼントしてくれませんか?(おい)


掲載誌不明 2004年 

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