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私の愛する本格ミステリ

 優柔不断な性格のため、ベスト3はなかなか決められそうにありません。やむを得ず、僕の人生に多大な影響を与えた三作品を選ぶことにしました。題して、「黒田研二の作り方」。これであなたも黒田研二になれる!(なりたくありません)

一.遭遇編
 幼い頃から読書は好きでしたし、子供向けに翻訳されたミステリ小説も数多く読んできたつもりですが、なぜかそれらはほとんど記憶に残っていません。思い出すのは、映像作品ばかり。
 小学生のときに見た〈刑事コロンボ〉は、多少難解な部分はあったものの、思いがけないところから手がかりを見つけ出すコロンボの活躍が面白く、親に夜更かしを注意されながらも夢中になっていました。とくに、「二枚のドガの絵」のラストシーンは衝撃的で、小学六年生のときに、そのネタをパクった自作小説まで書いているくらいです。

二.熱中編
 小学時代から中学時代にかけては、ちょうどクリスティー原作の映画が立て続けに公開された時期でもありました。テレビで見た〈ナイル殺人事件〉にいたく感動し、〈地中海殺人事件〉を観るために、劇場へ走った少年黒田。アニメ以外の映画を劇場で観たのは、このときが初めてでした。
 映画からクリスティー作品にはまり、ならば原作も読んでみようかと手に取った小説が『アクロイド殺し』。予備知識ゼロでこの作品を読めたことは、本当に幸運だったと思います。「こういうトリックもありなのか!」と興奮し、家族や友人にストーリーをべらべらとしゃべりまくった記憶が。よく考えてみたら、ものすごい大罪を犯していたんですね。あのとき、ネタばらしをされた皆さん、本当にごめんなさい。

三.立志編
 井上夢人さんの『ダレカガナカニイル…』は、ノンジャンルオールタイムのベスト作品。何度読んでも心が突き動かされる、僕にとっては麻薬みたいな一冊です。読み始めた途端に主人公と同化してしまい、あれよあれよという間に破壊力抜群のラストへ。初読のときは、あまりの後味の悪さに三日間ほど鬱な気分を引きずりました。
 僕もこういう小説を書いてみたい! ──高校の頃から、漠然と作家になりたいとは思っていましたが、本気で将来を決意したのは、たぶんこのときからです。

 これら三作品と出会っていなければ、おそらくもっと、真っ当な人生を歩んでいたことでしょう。いえ、決して後悔はしていませんけどね。「四.堕落編」に続く。続かないって。

〈ジャーロ〉2005年秋号 掲載

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