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0歳6ヵ月次女、誤飲。後悔と教訓。

 その日、僕は知人との打ち合わせが長引いて、夜9時頃に帰宅した。

「ただいま。遅くなってごめんね」
と言ったものの、何だか家の様子がおかしい。すぐに長女が駆け寄ってきた。

「パパ~!!」
「ただいま。どうしたの?」
「あのね、次女ちゃんがね、ぷらすちっくたべちゃったの」
「え?!」


 妻を見ると、目に涙が溜まっている。


 あー、、、なるほど。誤飲だ。一体何を食べてしまったんだ?長女が話を続ける。

「それでわたしがママをまもってたの」
「ママを守ってくれてたんだ。ありがとうね」

健気に妻の心を支える長女に感動し、ぎゅっと抱きしめる。


「たべちゃったけどね、うんちででてくるんだよ」
「そうなの?」
「うん!」

 妻に聞くと、食べてしまったものはプラスチックのトレイ。お魚やお肉をのせてスーパーで売っているやつだ。長女が工作にはまってから、そういった材料を箱の中に集めていた。しかし長女が遊ぶ中で管理が煩雑になり、家の中に転がってしまっていたようだ。

 そして次女は、ずりばい(体を引きずりながらハイハイすること)をする。しかも下の歯が2本生えている。トレイを嚙みちぎることができてしまったのだ。

 その時、家の中の大人は妻一人。家事をしていて少し目を離していたら、次女の泣き声がしたそうだ。すぐに駆け付けるも、次女の手にはプラスチックのトレイが。むりやり口を開き確認すると、すでに白い破片が喉の奥の方へいっている。引っ張り出すことを試みたが、無情にも破片は体の中に飲み込まれてしまったのだそう…。


 それから妻は、プラスチックを誤飲してしまったときの対処法、体への影響、緊急病棟にかかるべきかなど、調べに調べまくった。

 ネット情報によると、プラスチックは体内で消化される物質ではなく、喉の奥を通過したのなら、あとは便として出されるのを待つしかないとのこと。飲み込んでしまった後の次女は、いつも通り呼吸をしているし、機嫌もよくなっている。息苦しさやチアノーゼの症状も見られないので、このまま様子を見て便として出されるのを待つことにした。


 目に涙を浮かべながら話す妻は、まだ気持ちの整理がつかないでいるようだった。目の前で異物を飲み込ませてしまったことが本当にショックだったのだろう。ネットには対処法とともに「誤飲は飲み込ませてしまった親の負け。100%親の責任」という言葉が並ぶ。僕の帰りを待つ間、ずっと自分を責め続けていたに違いない。

そんな思いを巡らせている僕に、長女が言った。

「わたし、次女ちゃんまもれなかった」

言葉が出ない。こんなに小さい子が責任を感じている。長女のこんな姿、初めて見た。

「私も守れなかった」

と妻が長女に続いた。妻だって手いっぱいだったのだろう。僕も帰宅が遅くなってしまったことをとても後悔した。

「でもママとやくそくしたの。ママもたいへんだからみんなで次女ちゃんをまもろうって。つぎはわたしがまもるね」

 何て優しいことを言ってくれるんだろう。この半年ですっかりお姉さんらしくなったじゃないか。こんな時なのに長女の頼もしさを嬉しく感じる。子どもに支えられてしまった。僕がしっかりしないといけないのに。

「パパも次女ちゃんを守れなかった。これからはみんなで次女ちゃんを守っていこうね」

 それから、家の床に小さなおもちゃや次女が嚙み切ってしまうものを絶対に置かないことを家族みんなで約束した。その様子を横で次女が笑って見ていたのが救いだった。



 翌日以降、次女の便からプラスチック破片の大捜索が始まった。ありがたいことに次女は快腸で、ほぼ毎日うんちを出してくれた。

1日目、出ない。

2日目、出ない。

3日目、まだ出ない。

4日目、うんちすら出ない。


 あれ?出てこないぞ?どこに行ってしまったんだ?食べ物の消化時間は長いって理科で教えたことがあるけど、こんなにも出ないものなのか?それとも消化されて消えたのか?でも「プラスチックは消化されない」って読んだしな…。

 待っても待ってもなかなか出てこない。6日目のうんちでも出てこなかった。

 なんだかこれはまずいのか?うんちに出てこなかったらどうなるんだろう?体内は見えないから恐さが倍増する。この6日間次女に変わった様子はない。いつも通りご機嫌だ。でも出てこないならどうなるんだろう?さすがに1週間はまずい気がする。明日病院に連れて行こうか…。


 妻とそんな話をしていたところ…。


「うー…。うーーん」

 なんと次女に本日二度目のうんちがやってきたのだ。緊張と不安が入り混じる中オムツを開けてみると…


「出た~!!!」


 ついに出た!うんちの中から便と同じ色をした、でもしっかりと形が残ったプラスチック片が出てきました。大きさは5円玉ぐらい。出すの大変だったろうな。ごめんね。そしてありがとう。本当にありがとう、次女ちゃん!よかった…。

 家族みんなで次女に何度もお礼を言いました。


 それから僕たち家族は、あの日約束したことを忠実に守り続けている。次女が大きくなるまでみんなで次女を守ろう。でも本当に守らないといけないのは親だ。誤飲は100%親の責任。今回は幼い二人に救われた。親がもっとしっかりしないといけない。

 僕が復帰したら。どうしても幼い2人を妻がひとりで見る時間が増えてしまう。今回の件で、うまくやっていけるのか妻もかなり不安になっただろう。ワンオペ育児の人は、家事や子育ての大変さだけじゃなく、そういう不安とも常に戦っているのだと思う。だから僕にできることは、妻が一人で育児をしているという感覚にさせないことだ。たとえ子どもと顔を合わす時間が短くなっても、できることはたくさんある。床に落ちているゴミや誤飲しそうな危険物を拾っておく。次女の手が届くところにモノを置かない。少しでも家事の負担を減らしておく。家の中が雑多になっていると、どうしても妻のやることが増えてしまう。

 妻が子どもたちから目を離さなくても済むように、僕にできることをやっておこう。それが今回の件で学んだ僕の教訓だ。

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