真摯な一冊『躁うつの波とうまく付き合いながら働く方法』感想
いやー、よかった。いい本に出会えた。今日は本の感想と紹介です。
簡単にまとめると、双極性障害の当事者によって書かれた本で、病気とうまく付き合いながら、フルタイムで働いていくコツが詰まった一冊です。
僕も一応、双極性障害の当事者なので、すごく共感しながら読めました。なぜ「一応」なのかは、後で書きますね。
軽く自己紹介すると、30代男性、教員です。メンタルダウンを経験し、3年間休職しました。その後復職し、「5年後も再発せず笑って働く」を目標にしております。よろしくお願いします。
ちなみに、著者の方と面識はなく、ファンではありません。割とフラットな目線での感想になると思います。それでもよければ。
どんな人が書いた本なの?
著者は松浦秀俊さん。双極性障害の当事者で、双極はたらくラボの編集長をされています。精神保健福祉士、公認心理師の資格もお持ちです。
「会社で働く双極性障害の当事者だからこそできる」とWebで情報発信をされながら、さまざまな活動をされています。詳しく知りたい方は、noteをお読みください。
この本の強みはどこなの?
双極性障害の当事者による体験談だけでなく、病気と付き合いながら学んださまざまなライフハックが詰まっているところが、強みだと感じました。
双極性障害とは、簡単に説明すると、躁状態(気分がハイになって活動的になる)とうつ状態(気分が落ち込んで活力がなくなる)をくり返す病気です。
僕も当事者なのですが、軽躁状態に入ると、「アイデアがたくさん湧いてくる」「気分が大きくなる」「予定を詰め込もうとする」「買い物欲が止まらなくなる」「人(異性)に話しかけやすくなる」など、状態異常になります。
その後、調子に乗って活動をしていると、ずーんとうつ状態に移行するのです。身体が動かなかったり、気分が落ち込んだり、自信を失くしたり。この反動がつらいんですよね。
この本は「躁状態とうまく付き合うコツ」「うつ状態とうまく付き合うコツ」の両方を提示しています。著者の松浦さんが試行錯誤をしてこられたからこそ、書ける内容だと感じました。
この本の独自性はどこなの?
いやー、めっちゃ真摯で仕事ができる方なんだろうなと思いました。個人的にすばらしいと思ったのは、各章に参考文献が書かれていたことです。巻末ではなく、各章にです。
僕も文章を書いていて、当事者本をたくさん読んで思ったのですが、自分の個人的な経験談を語り、そこからの学びをライフハックに落とし込んでいくというのは、言ってしまえば、誰にでもできる作業です。
もちろん、そこに個性や想いが滲み出て、それが面白いんですけどね。
松浦さんは、体験談、ライフハックに、様々な参考文献を加えている。説得力と安定感がさらに乗っかっている。
心理書だけでなく、様々なデータも紹介してあって、そういう意味で「真摯だなぁ」という感想を持ちました。
その上、各章には導入のマンガが入っていたり、コラムには双極性障害の当事者のエピソードが描かれていたり、読みやすい構成にもなってる。
巻末コラムには精神医学講座教授のコメントも添えられている。信頼できる一冊に仕上がっています。
この本は誰に向けられている?
この本のいちばんの読者は「双極性障害を抱えながら、働く人」です。双極性障害を抱えながら休職や療養をしている方には、ダイレクトには響かないかもしれません。もちろん、復帰した後の参考になると思います。
また、「双極性障害ってつらいよね〜」という共感を期待すると、ちょっと裏切られるかもしれません。そこはミスマッチに注意したほうがいいかも。
どちらかと言えば、病気を受け入れつつ、どんな工夫をしたらフルタイムで働くことができるか、そのコツとノウハウが詰まった一冊です。
双極性障害でない人が読んでも参考になる?
一言で言うと、参考になると思います。
メンタルダウンには様々な症状がありますが、回復のために共通しているのは「自分との付き合い方がうまくなろう」という部分です。
この本にも紹介されていますが、双極性障害と生きていくには、観察が大事です。自分の体調や気分、行動などを記録しながら「あー、今危険な状態に入りつつあるな」と把握する。その上で対処法をやってみる。
「双極トリセツ」を作って、自己理解を深め、周りの人の協力を仰ぎながら生きていくのはとても大切です。
このような試行錯誤は、違う病名でも参考になります。よかったら読んでみてください。
いちばん面白かったところは?
「衝動買いしないように提案書を作成して判断する」が面白かったです。
僕は軽躁状態で購買欲が上がったときは「100円ショップで大量にお菓子を買って発散する」という対策をとっています。散財を防ぐために。
でも、働いているとパソコンとか、モニターとか、経費で大きな買い物をしちゃうんでしょうね
しかも、アイデアが湧くから、購入する理由を瞬時に作ってしまう。いや、ちょとわかる…!!
そこで、提案書を作成して、上司に説明する。「なぜそれが必要なのか」を書くことで少し落ち着く。これは面白いライフハックだと思いました。
最後にちょっと自分の話を
僕が「一応」双極性障害の当事者だと言っているのは、躁状態がひどく出るのは、大きなストレスがかかったときだけだからです。メンタルダウンの前後は特に躁状態になりがちで、これまで3回経験しています。
仕事のアイデアが止まらなくなり、夜中まで書き出してしまうこともありました。大切な人を傷つけたり、黒歴史を作ったりと、軽躁状態でいくつかやらかしてしまいました。
今はそこまで苦しんでいませんが、時折やってくる躁状態には自己観察と対処法で対応しています。もちろん、うまくいかないこともありますが。
双極性障害を抱えてオープンに働いている方が、少しうらやましく思うこともあります。僕は症状を隠して対処しているから。
調子がいいのか、躁状態なのかが自分でもわからないことが苦しいんですよね。でも、ひとりでなんとかしようと頑張っています。
病気に飲み込まれないようにコツコツと対処していますが、時々「いつまでこれを続けるのか」と思うこともあります。解放されたほうが楽なのかな、と。ただ、それをすると周りに迷惑をかけるのはわかっています。
こうやって日々折り合いをつけながら生きていく。病気とうまく付き合いつつ、幸せな人生も諦めたくないですね。
最後は自己開示が多くなってしまいました!『躁うつの波と付き合いながら働く方法』は本当に良書です。ぜひ手に取ってみてください。
読んでいただき、ありがとうございました。
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