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私も、マブイ(魂)、落としちゃってたんだ
野木亜紀子さん脚本の『フェンス』を観ている。
第4話の「マブイ」で、松岡茉優さん演じる雑誌ライターが、新垣結衣さん演じる精神科医に、過去の傷を話すところで、私は今までモヤモヤしていた心の傷を、言語化してもらった。
父は母に、ここでは書けないような酷いことをたくさんしてきた。
私も、母ほどではないけれど、父から酷い言葉を言われたし、父親らしいことは一切してもらえなかった。
母からの愛情は感じていたし、母は私を大切にしてくれた。
だから私は大丈夫だと思っていた。
でも、自分の心を探っていくうちに、幼い頃の私は、想像以上に傷ついていたことを知る。
ひどい目に合っているのは母であって、自分ではない。
けれど、その光景を日常的に目の当たりにしたり、父にされた酷い話を母から聞くだけでも、私の心は、深く傷ついていたのだ。
母と一緒に、私も魂を落としてしまっていた。
私は、愛されたかったのだ。
あんなに憎くてたまらない、大嫌いな父親であっても。
愛されなかったことが悲しかったと気付いたときは、かなりのショックを受けた。自分が気持ち悪かった。
だって、心の底から大嫌いなのに、思い出すだけでも苦痛なのに、そんな人に、愛されたいって思ってたなんて。
でも、子どもなら誰しも、親に愛されたいって思うことは、何も間違ってないよね?
自分は生まれてきて良かったんだって、思いたいよね?
それって、当たり前の感情だよね?
私は、つい最近になるまで、自分を大切にできていなかったことに気づいていなかった。
人に嫌われることが怖くて、嫌なことがあっても嫌と言えずに我慢してきた。
人が落ち込んでいたら、元気にしなくちゃと思うし、そのために頑張るし、傷ついていたら慰めたいと思うし、それは決して悪いことじゃないけれど、言いたいことを言わずに我慢したり、自分の身を削ってまですることではなかった。
自分だって苦しいときは助けてと言っていいし、しんどいときは逃げたっていい。
でも心のどこかで、それを良しとしない、何ならそんな自分は悪い自分と思ってしまう心理は、小さい頃に、傷ついた母親をなんとかしなくちゃ、助けてあげなきゃ、それができるのは私しかいないと、刷り込まれていたからなんだ。
夫婦仲が悪い家庭で育つと、親の顔色ばかりを窺うようになる。
自分が愛されていないことがわかると、親に捨てられないようにと必死にいい子になろうとする。
母のためにと思ってした選択だったはずだけど、あのとき自分のための選択をしていればよかったんじゃないか、という後悔さえ、心の中で、「そうだ!」と肯定する自分と「なんて冷たいことを考えるの?」と否定してくる自分がいて、ずっと苦しい。今も苦しい。
あの頃の私に「自分の好きなように生きていいんだよ。だって自分の人生なんだから」と言ってくれる人がいたら、私はどんな人生を歩めただろう。
なんて、今度は「タラレバ」思考が始まる。
何度も言うけど、どんなに考えても過去は変えられない。
ただ、過去の自分を知ることで、これからの自分は幸せになるための選択ができるようになる。自分の内側にある本当の声を聞くことができるようになる。
だから私はこれからも、しんどいけど、過去の自分と対話していきたいと思う。
これが、落としてしまったマブイ(魂)を、もう一度丁寧に掬い上げる作業なんだと思う。
母が生きているうちにマブイを落としたことに気づけていたら、二人で一緒に拾えたのかな……。
もう落とさないように、大切にしていこう。
なんの前情報もなく、大好きな野木亜紀子さんのドラマだからと観始めたら、めちゃめちゃ心を抉られている。
苦しいけれど、たくさんの学びがある。
さすが野木さん……
次が最終回。
最後まで、しっかり見届けたいと思います。