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【取次制度黙示録③-5】なぜ新刊書店は総合書店ばかりで、専門書店はほとんど存在しないのか?

前話回想

みんながそこそこに興味も好感も持っているのに、その良いイメージをビジネス的に全く活かせず、絶滅危惧種的な立ち位置の僕らの書店業界。

特にダメな書店にありがちなのは、
『読者の興味を一切掻き立てられない、画一的でつまらない品ぞろえ』
どうして、つまらない品ぞろえになってしまうのか?
CASE.1では、そもそも書店が自ら注文をしない、品ぞろえの概念すらないダメ書店の話。
CASE.2では『POSレジ』という文明の利器を使いこなせず、むしろ同調圧力による予定調和的な凡庸な品ぞろえが拡大するきっかけになり、全国的に同じような品ぞろえの書店が増える遠因になってしまった残念な書店群の話。
CASE.3では業界全体の思考停止と自己都合から、ほぼ無意味な『新刊』偏重の品揃えが普遍化し、先人たちの大いなる遺産ともいえる『既刊』をビジネスとして活用できていない、残念過ぎるビジネスセンスを指摘した。
CASE.4では、書店の粗利向上を図って『文具』『雑貨』等の書籍外商材を扱い始めるも、その短絡的&稚拙な手法により却って傷口を拡げた無残な顛末を紹介した。
品揃え編、一旦の最終回となる今回は、そもそもの問題原因となる書店売り場主観での品揃え、売場作りの実態を追いつつ、今後生き残るに値する書店の品揃えを考察する。

CASE.5 書籍・雑誌は生活必需品?娯楽?それとも??

ここまで、4回にわたって、つまらない品ぞろえの書店になるパターンを幾つか考察してきた。

取次配本、POSレジの誤用、無意味な新刊偏重。

実はどのパターンでも行きつく先は画一的で、誰にも好かれない、誰も驚かすとこのない品揃え。
販売ランキングに準拠し、現在のトレンドに合わせて、過去の類書の売上を加味して、無駄を少なくして、世間で売れているものだけを集中して効率良く販売することを目指した。ロジック的には間違っていない筈、、

そしてその結果、書店の売り場はとても詰まらなくなった。

読書に興味がある人は結構いるのに、その期待にほぼ応えられない。
悪循環から抜け出せない。
どーして、こーーなった!!!(byターニャ・デグレチャフ)

書店員の正しい問題解決手法

この件に限らず、書店での仕事は日々様々な問題に溢れている。
シフト管理作成、人員配置の最適化、人件費管理、在庫管理&返品処理、逆送品管理、バイト採用&教育、客注対応、クレーム対応、電話対応等々。。

書き手は学生時代のバイト勤務から契約社員→社員→役職者へと店舗勤務のみで働きづめだったので、フォーマルなビジネス研修教育等は受けていない。日々の業務での困りごとをどのように解決していくか??

時に西暦1999年10月。
まだ、札幌の書店でバイト上がりの20代、契約社員時代の書き手。
スキルも経験も十分ではなかった時代には閉店後の店内で、
閉店業務の片手間日々の業務での困りごとを
どのように解決していくか考えていたものだ。
そして、ふと閉店後のビジネス書コーナーを眺めていて目が点になった。
※当時の書き手の担当ジャンルはコミックサブカル書籍。

あれ、ビジネス書の中にまんま、『問題解決』ってジャンルがあって、愉しそうな本が幾らでもあるよ(笑)

そう、書き手はこの時初めて、必要な情報やスキル、先人の思考を『読書』によって摂取する経験を体得した。
必要があって求めて探して見つける体験。
リアル書店ならではの体験と実務上の成功体験の一挙両得であった。

その後も問題解決は書き手のお気に入りのジャンルとなり、都度様々な本を読み続けているが、特にお勧めは下記の2点だ。


外部環境の変化に起因する、書店の役割の変質

さて、問題解決の手法を用いて、ダメな書店の売り場問題に立ち戻る。
現在はダメダメの書店業界だが、ダメになる直前までは絶好調で最高売り上げを叩き出していた。
ならば、この時期にあった環境変化について、もうし少し深く考えても良いのでは?

 本連載の初回でも触れたが、

  • 1997年に消費税税率アップ(3%→5%)に伴い初めて、売上比前年割れ※(以降ほぼずっと売上現象を継続)

  • 特に雑誌はインターネット(1990年代半ば~)、スマートフォン(2010年代~)の普及から売上激減

雑誌は言わばテキスト情報のDX化によって、その役目をネットに譲ることになった。それは同じく紙媒体の情報伝達手段の新聞も同じで、ほぼ同じ時期から減少している。

そう、見方を変えると、ネット普及以前はテキスト情報の流通は、新聞ルートと雑誌ルートしかなかった。
それは単なる商流にとどまらず、プラットフォームでありインフラとして機能していたのだ。
したがって書店もネット普及以前はインフラの一部であったと言える。


インフラとしてのかつての書店

かつての書店がインフラの一部だったとすると合点するポイントもある。
雑誌がインフラの一つだった時代の書店の売上は良かった。
品ぞろえは画一的で現在よりも、もっと工夫もなかったのに。。

しかし、この時代は『生活必需品』としての書店である。
寧ろある程度、紋切り型の店づくりが求められていたはずだ。
現代に当てはめるとコンビニがわかりやすい。

立地や建物の構造により若干の差異はあるものの、どこのコンビニも基本的な売り場フォーマットが定められていて、全国どの地域でも同じような店舗売り場構成になっている。
故にどこのコンビニに入っても迷う事無くいつも通りの必要な商品をピックアップ出来る。
これが『インフラ』に求められる機能性だ。
書店業界は無意識のうちにインフラの一部になり、インフラ的な物流網を形成し、店舗づくりを行っていたのだろう。あくまでも無意識の内にだが(笑)
これが1997年迄の書店業界のお話。

因みにこのインフラ、プラットフォーム、更にメディア、コンテンツの関係性の話は、最近公開された元日経BPの敏腕編集者で現東京科学大学教授のnoteがとても参考になる。

インフラではなくなったこれからの書店

さてここからは問題の1997年以降の書店の話だ。
無自覚な内にインフラの一つとなり、ネットの普及により現在では完全にインフラではなくなった書店業界。
先ずは今の書店業界の立ち位置はどのようなものなのか?
先述の柳瀬氏のメディア論で考えるとしっくりくるのは『コンテンツ』となるが、書店そのものをメディアと定義することも可能だ。

『生活必需品』ではなくなり、
自ら何らかの情報を発信する『メディア』としての機能をこれからの書店は求められている。

書店員諸氏は『メディア』になれ!と言われても、、、
途方に暮れる人もいるかもしれないが、心配する必要は何もない。
『メディア』といってもxに山ほど投稿したり、インスタに映え写真上げたり、有〇堂みたいにYouTubeを始めなければならない訳ではない。
※勿論、これらのツールでいろいろ情報発信するのも全然アリだけど。。

もっと書店ならではの、とっておきの『メディア』ツールがあるでしょ。
どの書店にも絶対幾つもある、、、
毎日心ある書店員が魂を込めて品出し陳列をしている、、

そう、書店の売り場自体、書棚の一本一本をメディアとして機能させる
ことが出来るでしょ!!

メディアとして機能するための品揃え

勿論、いままで通りの漫然とした流れ作業や本社指示のヤラサレ業務では話にならない。
各書店員が、訴求したい本、作家、ジャンル、現象等にフォーカスした売り場作り棚作りを行い、読者に刺さった瞬間にその棚はメディアとなる。
勿論マスメディアではないので、その訴求力は最初は小さなものだろう。
ただ継続したり、品揃えを充実したり、ネット上で拡散させたりするうちにその価値は雪だるま式に大きくなっていく。
その展開方法に一工夫があったり、寧ろ狂気を感じさせる展開だったら、更に反響は大きくなるかもしれない。

更に書店を店舗を丸ごとメディア化するのも、実はそんなに難しい事でもない。
※もちろん組織や各書店員にやる気さえあればだが。。
下記は日本最大級を誇る〇伊国屋書店本店の売り場(フロア)ガイドである。

書店での扱いジャンルは本当に多彩で世の中のほとんどの事象を扱い対象としている。こんな感じで全てのジャンルを網羅して品揃えしてる書店を『総合書店』と呼ぶが、実は日本の書店のほぼほぼ全てが品ぞろえ的には『総合書店』となる。

駅前の十坪書店やレンタル商品も併売するチェーン書店でも、上記〇伊国屋書店本店とほぼ同じジャンルを扱っている。
※例外として専門医学、看護書はごく一部の有力書店のみの扱いである。でも介護の本は大抵の書店で在庫がある。
勿論、すべての書店で〇伊国屋書店本店のような、素晴らしい品ぞろえな訳はない。
専門書や力の入っていないジャンルは僅か数冊程度の在庫しかない事も良くある。逆に数冊だけなのになぜ在庫しているのか??

これは先述の書店がインフラだった時代の名残といえるし、取次配本があるのでなんとなく在庫してるだけ、とも言える。
ここで発想を転換して、扱いジャンルを大きく減らしてみるのはどうだろうか??

文藝、文庫、漫画しかないフィクション専門書店。
犬猫、鳥、虫、植物等、動植物の本だけの書店。
将棋、囲碁、ポーカー麻雀等ゲームの本専門店。
文庫新書だけのポケットブック書店。

上記のように扱いジャンルを絞るだけで書店自体がメディアと化す。
因みに以下は実在する数少ない専門書店?たちだ。

切り口も規模も様々だが、すべて唯一無二の存在でそれぞれがメディアと言える機能と発信力を持っている。
そして専門書店は書籍以外の商材にも困る事もない。取り扱いジャンルに関連するグッズ雑貨は違和感なくムリなく展開が可能。実際の上記の専門書店では、じつに多くの書籍外商材が全く違和感なく、展開されていて収益源になっている。また専門性が高いが故に店頭での各種イベント企画も立案も容易になる。
そもそも、Amazonが日本に進出した際には、その対策として書店の専門化が進むのでは?との声もあった位だ。

今更感があるかもしれないが、今後必要とされる書店にはある程度の専門性独自性が求められるのは間違いない。
フツーの総合書店としては、〇伊國屋書店と丸〇ジュ〇ク堂+Am〇zonだけで必要十分でり、上記3社以外には何らかのオリジナリティ部分が必須になるのではないだろうか。

他業界の参考事例

この専門化の現象は書店だけの固有のものではない。
例えば百貨店業界。
インフラ時代の書店と同じく、幅広い商材を扱っていたが、独自性を維持するために商材ではない部分を絞り込んだ。
それは顧客だ。
誰でもではなく、明らかに富裕層とインバウンド客に狙いを絞り込んでいる。※デパ地下以外。

書店では、応用が難しいがこれも立派な独自化戦略と言える。

最後に書店と同じく、衰退系コンテンツと思われているラジオ業界から。
粋の良い女性DJのラジオに対する熱い言葉が、今後のメディア化する書店にも共通する課題を喝破する様が痛快な気分にさせてくれる。

ラジオがメインストリームだったのって50年代?60年代?くらいまでですかね
じゃあ現代のメディアのメインストリームが何かってすぐ出てきますか?
テレビもオワコン言われ始めて久しいし
インターネット…と一口で言ってもサイトやサービスは星の数ほどありますよね
年代ごとに圧倒的なシェアのあるサービスはありますけどかつてのテレビのような支配的なメディアってないじゃないですか

総ニッチ時代ですよ
あらゆるメディアあらゆるサービスが時代の主役になるためにしのぎを削っている… そういう時代です
だからこそ逆にラジオにも分がある時代じゃないんですかね
だからまあ、何て言うか
嘆いてるだけの老害は大人しく見ててくださいって事で

波よ聞いてくれ 11巻 鼓田ミナレ


次回以降は品揃え以外からの角度で、書店業界の課題を明確にしていく。
では、また。


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