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トーキョー書店めぐり
七時十七分の列車に乗ると、色とりどりの雛飾りがぶらぶら揺れていてちょっとびっくりした。どうやら地元PRの車両に当たったらしい。特産品である鯛のあしらわれた座席が窓に向かって配置され、まるで観光列車だ。そんな華やかな車内に揺られるサラリーマンや学生の姿がなんかシュールだ。
さて、平日の朝っぱらから愉快な電車旅を満喫している私であるが、今回の目的地は我らが首都トーキョーである。
実は、上京するのは二七年の人生で二度目(TDLをカウントに入れなければ)。前回は中学の修学旅行なので、十三年ぶりということになる。機会がなかったというよりは、おそらく自分がこの大都会を敬遠していたのだろう。今だって正直めっちゃ怖い。新宿とか渋谷とか、自分に似合わない街トップ3に入るんじゃないか。自分なんて(津市の)丸の内ぐらいがちょうどいいんですよ……。
しかしまあ、せっかく首都へ二時間の場所にいるのだし、一度ぐらいは行ってもええやろ。そんな思いを募らせることひと月。ようやくこの機会がやってきた。ぶっちゃけ本が買いたいというより、東京と、そこで営む書店の空気を味わいたいというのが大きい。などと余裕のあることを言いつつも、いつもの悪い癖で今回も詰め込みの分刻みスケジュールを組んでしまった。
〇〇〇
小田急、中央線と乗り継いでやってきたのは三鷹。まず訪問するのはTwitterでたびたびお見かけする『スズメベース』だ。貸本棚にまちライブラリー、雑貨屋などを有志たちで運営されている。ダイソーなども入った横長ビルの一角に入居していて、確かに維持が大変そう。駅前で立地は良い。だが、良すぎるがゆえに「曖昧な場所」を作る大変さが伺える(よく分からない場所に立ち入るのって、結構勇気がいるもんです)。
写真からは分かりにくいが、スペースの奥は穴子の巣のごとく細長い。ここには会員のみが入れる貸本棚が並んでいて、十巻以上のコミックがシリーズで揃っていたりと充実している。これが表に出ていないのは惜しいと感じたが、話を伺うと、都会ならではの難しさ(大人の事情的な)を感じさせられた。ちなみに当日は雑貨屋さんが営業していたので、地元の鳥好きさんのためのお土産を買った。
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店舗情報
スズメベース
東京都三鷹市下連雀3丁目28−23 三鷹センター 1階
冷たい風に凍えながら井の頭公園を突っ切ると、写真集専門店『book obscura』が街並みに溶け込んでいる。入り口のリンゴ箱には古本の雑誌や写真集。引くほど安い。建築知識が百十円……。ブックオフなら倍はするところだが、やはりアート本中心ゆえに、文字中心の本や雑誌はお手頃になっているのだろうか? しかし店内の古本は軒並みお値段低めだった。すげーわ。
あまりにも幸せすぎて片っ端から手に取っていると、時間が押し始めてしまった。慌てて吉祥寺駅へ。一応ブックオフも覗いていく。——うん、さすが品揃え豊かだなぁ。
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店舗情報
book obscura
写真集専門書店
三鷹市井の頭4-21-5 #103
次に訪れたのは『百年』。Twitterで毎日のように書籍情報を発信されているアツい新古書店である。品揃えとしては新三古七といったところだろうか? 入り口やレジ付近にはZINEや小出版社の書籍が並び、オシャレ書店感を強く醸し出している。お客さんもフィルムカメラとかぶら下げた吉祥寺ガールたちで、荷物マシマシ農協職員スタイル(?)のぼくは浮いている。
店中央には文庫や単行本。やはりお客にも「本屋好き」が多いのだろうか、あるいは店主の想いなのか、書店本が所々に点在していた。ここでは話題の読書スペース「fuzkue」オーナーによる『本の読める場所を探して』を購入。自分にピッタシのこんな本が出ていたことに今まで気付いていなかった。店の奥にはアート本を扱う姉妹店の『一日』があり、デカい洋書が存在感を放っていた。じっくり眺めたかったが、時間がなく今回は断念せざるを得なかった。
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店舗情報
古本屋 百年
東京都武蔵野市吉祥寺本町 2-2-10 村田ビル 2F
荷物が嵩張ってきたのでドンキで買ったスーツケースをゴロゴロ転がし荻窪、『本屋Title』へ。個人書店界隈では有名な書店であり、店主の辻山さんは数々の記事や対談にも登場している。
入店してすぐ横にあるのは、東京エリアのファッション誌、文芸誌。そこから左手には食関係、右手には小出版社系やエッセイなどが並ぶ。店内には静かにクラシックが流れ、店の奥から漂うカフェの香りが心を落ち着かせる。
そしてやはりここにもあった。「書店系書籍」棚。「本屋について書かれた本」の書評本……なんて本も取り揃えられ(『あの本屋のこんな本 本屋本書評集』)、本屋愛がひしひしと伝わってくる。そんなTitleでは、本日二度目の邂逅を果たした『ここで唐揚げ弁当を食べないでください』を購入。タイトル買いである。
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店舗情報
Title
東京都杉並区桃井1-5-2
荻窪から新宿、渋谷と南下し、続いて向かったのはフリーペーパー専門店の『Only Free Paper』だ。実はここに来てみたくて、どうせ行くなら本屋巡りもしようということだったのだ。以前フリーペーパーを出した際に設置していただいたご縁もあり、昨今のフリペ事情について色々とお話を伺った(最近はフリペよりZINEの方が人気だとか、五部しかない自家製コピー本でも設置OKだとか、『なんじゃもんじゃ』の次回作が待ち遠しいとか——)。
ちなみにフリペ以外にもZINEや小出版社系の取り扱いもあり、本日三度目の邂逅になる『本屋図鑑』がミシマ社棚に鎮座していた。重そうだからこれはネットでいいや……。アホみたいにフリペをカバンに詰め込んだところで、本日最後の目的地『青山ブックセンター』へ。
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店舗情報
ONLY FREE PAPER
東京都目黒区中目黒3-5-3
店内に入るといきなり海外のアート系ビジュアル雑誌がずらりと並んでいる。なかなか圧巻である。お値段もそこそこ。ただ洋書なので、それぞれどんなジャンルの雑誌なのかがよくわからなくて残念である(英語力の無さ)。
ブックセンターは評判通り建築、アート、デザインなどの棚が充実していたが、「思想」棚もかなりの物量であった。定番の古典というよりは、それらを分かりやすく噛み砕いた本や、若手哲学者の書いたエッセイ系の本が多かった気がする。今もこんなに哲学系の本が出ていることには驚きである。
そして見た感じ、今このお店が推しているのは社会学系の本。松村圭一郎さんや岸政彦さん、斎藤幸平さんといった名前を店内の数カ所で見かけた。たぶん推してる。
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店舗情報
青山ブックセンター
東京都渋谷区神宮前5-53-67 コスモス青山ガーデンフロア (B2F)
こうして書店巡り一日目のぎちぎちスケジュールを完遂した。あとは休むだけ、と新宿のカプセルホテルに向かう。なぜか最寄りを明治神宮と勘違いしていて若干迷ったが無事に到着できた。その後夕食ついでに新宿スナップを撮り歩いていたら、結局トータル24,000歩も歩くことになるのはまた別の話である。
明日は絶対歩かんぞ(フラグ)
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〇〇●
目覚めると、体の痛さにビックリした。普段仕事でそれなりに動いているつもりでも、荷物を抱えて歩くのはまた別の重労働みたいだ。ホテル向かいのセブンで買った弁当を食べつつ、本日の予定を考える。昨日ほどギチギチではないものの、明日の仕事を考えると夜までには帰りたい。神保町と都庁ぐらいで限界だろうか。
午前十時、ラッシュを過ぎた副都心線と半蔵門線を乗り継ぎ、古書の薫り漂う街へとやってきた。古書店街という言葉からは、狭い路地裏にずらっと並んだ本屋さんをイメージしていたが、実際は複数の書店が入った細長いビルが、広い道路に面して並んでいる感じだった。
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まず駅のすぐそばにある『神保町ブックセンター』へ。ここは岩波書店関係のビルに入っていて、壁一面にずらっと並んだ岩波文庫を眺めながらコーヒーが飲める素敵なお店だ。店舗入り口には『世界』を始め、ジェンダーや戦争といった現代的なテーマの本が揃っている。品揃えはいかにも「本好きのための本」。
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店舗情報
神保町ブックセンター
東京都千代田区神田神保町2丁目3−1岩波書店アネックス1F・2F・3F
ブックセンターから西に行くと、文学や学術といった書物を取り扱う店舗がずらっと並んでいる。店の軒先には新しめの文庫や新書が陳列されているが、店内に入るとがっつり古くて厚い単行本……というお店が多い。あちらこちらに岩波文庫の壁がある。講談社文芸文庫などもたくさん揃っている。逆にブックオフでよく見るような雑学系文庫はほとんどない。知識の重みである。
しかしこれだけ本があると、自分の興味の対象を見つけるのはなかなか難しい。まあ、本屋さんって強い目的を持って行くというより、たまに訪れてぶらぶら見る場所だし。個人の意見ですけど。
そしてそんな中から選ばれる本はと言えば、やはりタイトルや著者に馴染みがあったり、どこかで紹介されていたものになる。今回は『疾風怒濤精神分析入門』、『近代の疎外』などを掘り出した。逆に見送った本は『読書について』(kindleにある)、『暮らしのなかの仏教語小辞典』(近年も似たような本がいくつかあり、どれが分かりやすいのか検討したい)などである。
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さて、文芸や人文書、本当に古そうな和綴じの古書などが並ぶ神保町には、数軒ではあるが美術書を取り扱う店もある。並ぶ本は古本屋らしく展示図録や仏教美術といったものが多いが、中には洋書の写真集が埋もれていたりする。そんな中から私が連れ帰ることにしたのは、『土門拳全集8 日本の風景』および『マティス展図録(国立西洋美術館、2004)』である。どちらもそこそこの重みがある本だが、帰りの大変さには目を瞑ることにしました。
○●○
かくして、一泊二日の「トーキョー書店巡り」は終わった。
改めて振り返ってみると、やはり東京の文化度には文句の付けようがない。大型書店にはあらゆる本が並ぶし、個人書店はZINEや小出版社などをカバーしているので無敵である。だが、その一方で「多すぎる」ことが逆に弱点にもなるのでははないか、と思う。そもそも人が多いのだから仕方ないかもしれないが(中には人数制限を表記している店もあった)、あまりにも多様な選択肢は逆に疲れてしまう。時代性もあるだろうが、似た装丁で似た内容の本がズラッと並んでいるのを見ると、ちょっとうんざりしてしまう(たとえそれが「お金なんて無くても生きていける」という内容の本だとしても、たくさん並ぶと背後にお金が見え隠れしてしまうものだ。まあ、小さな書店ではこんなに似た本ばかり出ている出版状況が見えないのだが)。
今回の旅を経て、「本とは何か?」という問いが目の前に迫り上がってきた気がする。世界にはあまりに多くの本があり、当然全ては読めやしない。なら、一体どんな本を読めばいいのか? そもそも、本を読むことに何の意義があるのか?
高く高く積み上がった積読から目を逸らして、「本を買う」ことから快感を得てしまっている情報ジャンキーでは、本当に本と向き合うことはできないのかもしれない。
私はもう少し、本のことを知りたいと思う。ぼーっとして何も分からなくなったり、世界のすべてに疎外感を感じたりしてしまったとき、きっと最後に頼れるのは本だから。願わくは、そんな本に少しだけ近い場所で生きられたら良いな。
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