鰹節を削りながら聴くオペラ 第671話・11.24
「さてと、何を送ってきたんだろう」正義は、知人から送られてきた、贈り物のパッケージを開ける。「ほう、これは」正義が開けて中に入っているのは鰹節だ。「それも、塊できたな。いや削ったものをパッケージにしたほうが、すぐに使えて便利が良いが、この方が削りたての香りが良いに違いない。よしさっそく使ってみよう」
正義は丁寧に包まれた鰹節の塊を見る。「しかし半年ほど滞在したときによく見たモルディブフィッシュに本当に似ているな」何度も眺めながら正義は鰹節を口の前に出す。「かぶれるかな」正義は大きな口を開けてかぶりつこうとした。だが直前になって取りやめる。
「やっぱりやめておこう。鰹節には世界トップクラスの固さがあるとか聞いたことがある。やっぱりそのままかぶりつけないな」
冷静に考えれば当たり前のこと。正義はあきらめが早く鰹節を横に置いた。
「鰹節を削る機械がいるな。さてどうしようか」正義の家には数を武士を削る機械などない。もちろんカンナも。となればネットで購入するしかないと思い、さっそく鰹節削り機を購入した。
「さて、削り器が来るまでお預けだ。それまで鰹節についてもっと勉強しようかな」
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数日後、正義の家に鰹節削り機が到着した。「よし来たぞ!しっかり学んだからな」真新しい鰹節削り機を前に正義のテンションが必然と上がる。「さあ、削るよ鰹節」鰹節を持ってきた正義、表面にはカビがついているがこれは無害であることを知っている。しかし完全ではないが、ペーパータオルで拭きとった。
「えっと」正義は削り方を確認。「鰹節には頭があってそちらから削る。それと、押し削りかふんふん、それから45度に構えて削る。よしやってみよう。
正義は削り器の蓋を開けてカンナ台の刃を出す。「カンナ台を木づちでたたく。木づちはないけどこれで」正義は棒のようなものを持ってきて木づちの代わりに叩く。「本当だ叩く方向で刃が動く。へえ面白い」こうして正義は、カンナの台頭を叩いて刃を下げたり、逆にカンナの台尻を叩いて刃を上げたりして、遊んだ。
「こんなことしている場合じゃない」ようやく飽きたのか正義は、本気で鰹節削りに挑戦。「頭側から押すようにけずるだな」正義は鰹節の頭の部分をカンナ台の刃に接触させる。そしてゆっくりと手で押すように前に流す、そのあとは引っ張るように手前に、それが終わればまた押し出すように前と繰りかえす。
「面ができるまでは粉状態になる言っていたが、頑張ろう」正義はカンナ台を固定しながら何度も削る。しかし鰹部節を持っている方の手が徐々に痛くなってきた。「やっぱり軍手をすればよかった」軍手をはめ直して再び挑戦。それでもなかなか削りぶりのふわりとしたものが削れない。「そもそも刃をあてるのも一苦労だ。うーん、これならパックの鰹節欲しくなるわな」
こうして格闘すること30分、手が疲れたのか、正義はいったん休憩。そして少し苛立っている。「こんなに苦労するとは、気晴らしに音楽でも聴こうか」と音楽を聴くことに。「まてよ、いつもの音楽と違う音楽を聴いてみるか」と、Youtubeを開ける。「さて何がいいかな」正義はどの音楽がいいか迷う。順番に見ると見慣れないキーワードが目に入った。
「オペラ! ほう、聞いたことがないな。聞いてみよう」
こうして正義はオペラの音楽を流し始めた。オペラ音楽が部屋中に響き渡る。
「けっこういいかも、初めて聞くオペラの音楽好きになりそうだ」少し苛立っていた正義は、オペラ音楽の世界にいきなりはまった。心地よく音楽を流す。そのためかいつのまにか少しの休憩が1時間を軽く超えてしまう。
「あ、おい、休憩しすぎだ。鰹節を忘れていた」正義は慌てて鰹節の方に向かう。「その前に音楽を」正義は音楽を止めようとしたが、この時ふと「もしかして、オペラを聞きながら鰹節を削ったらうまくいくんじゃないか」とおもった。
そのため、音楽を流したまま鰹節を削り始める。十分な休息が功を奏したのか、正義の手の疲れは取れていた。こうして鰹節を削る。すると先ほどよりは削りやすくなっているではないか。「いいぞ、オペラの音楽に合わせて」周りから見たら不思議なのかもしれないが、正義はオペラ音楽に合わせるように鰹節を削る。最初の頃の苦労は全くなく、どんどん鰹節が削られていく。
「さて、どのくらいできたかな」正義は、カンナ台の下の箱を開けてみてみる。塊の方の鰹節はずいぶん削れていた。箱を開けると鰹の香りが正義の鼻を通じる。「うまみを感じる香りだ。これぞ鰹節」そして、きれいに薄く透き通るような板状の削り節が完成している。「パックのとは大違い。良かった。鰹節で今晩何食べよう」うまく削れた本当の理由は削る面が広がったからだけなのかもしれない。それでも正義は、オペラの音楽に合わせたから綺麗に鰹節が削れたと信じるのだった。
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シリーズ 日々掌編短編小説 671/1000