究極の焼うどんを求めよう 第630話・10.14
「究極の焼うどんとは何だろうな?」岡本智也は会社から戻ってくるなり、開口一番、結衣に問いただす。
「え、究極? 普通の焼うどんしかわからないわ。でもいきなりどうしたの? 会社で何かあったの」
心配そうな結衣に智也は小さくうなづくと「ああ、ちょっと同期の奴とな」と憮然とつぶやく。
「その人は私が知っている人」「ああ、石川だ。あいつ......」同じ会社の同期、石川と何らかの口論があったことを察知した。「石川さんとね。あの人とは部署が違うのに頻繁に会うほどの仲良しなのに」
「だけど、今日のはな」服を着替えながらも智也の怒りが続く。
「ねえ、その石川さんと焼うどんは関係あるの?」
「そう、あいつ焼きそば派でさ、俺うどん好きだろ」結衣は智也怒っている理由が些細なことだと知り、内心笑う。
「俺が焼うどんのおいしさを説明したらあいつ......」智也は怒りをにじませながら、石川とのやり取りを再現した。
-----
「岡本、わかるけど、焼うどんなんて、焼きそばには絶対に勝てねえぜ」石川はさらりと反論する。その言い方に智也は不快感が沸き起こる。
「おい、何を言うか? 大体さ、そばといっても焼きそばのそばは、日本そばとは違うではないか? 十割そばで焼きそばなんか作るのかよ!」
「だからそこが間違ってんだ!」石川の反論。「焼きそばは、それだけでカテゴリーになっている。日本そばとは別物だ。だって、インスタントのカップ焼きそばは、ラーメンといい勝負だ。お湯を捨てるという手間だけが難点だがな」
「インスタント!」智也は言葉が詰まった。実はインスタントの焼うどんは次のものなどが存在する。だが智也はうどんを買ってきて、それと具材を炒めて食べるから、カップ麺のことは知らなかったのだ。
「だから、諦めな。君が焼うどんが好きなのは認めるが、焼きそばとはもともとの次元が違うんだぞ。ハハハハハハハ!」石川の高笑い。智也はこのとき非常に屈辱的になった。
--------
「それで、究極の焼うどんなの」「そう」結衣は智也の怒りをなだめようと立ち上がるとキッチンに向かう。「確かうどんがあった」とキッチンから聞こえた。
「結衣、焼うどんを作ってくれるのか?」「究極じゃないけどやってみる」そういうと結衣は準備を始めた。
智也はこのとき、焼うどんができる様子を横で見ることに決める。「豚肉があるわ、野菜はっと」すでにうどんは茹でていた。結衣は手際よく豚肉を食べやすい大きさに切った後、キャベツともやし、そしてモロッコインゲンの順に切っていく。
「あとは炒めるだけね」結衣はフライパンに油を入れて、肉と野菜を入れて炒め始めた。フライパンからの弾ける音がキッチンに鳴り響く。そしてもやりとした白い湯気、やがて肉の色が変わるとうどんを入れる。
結衣は醤油を入れて、最後は炙るように炒めた。ここで智也の鼻の中にうまみの入ったにおいが紛れ込む。「おお、いい匂いだ。急に腹減ってきたな」こうしてあっという間に炒め終え、皿に盛りつける。「あとはこれかな」結衣は仕上げに鰹節を載せて完成。
「さ、焼うどん食べて、元気出してね」結衣の笑顔、智也はそれを見るだけで癒された。
--------
「うん、美味しかった」あっという間に智也は焼うどんを平らげる。「良かった。もう焼きそばのことは忘れたら」
ところが真顔になる智也。「よし、来週から土日は鉄道に乗って旅をするぞ」「え?」「究極の焼うどんを探すんだ。これは美味しい。だがこれでは究極とは言えないと思う。絶対に石川をギャフンと言わせる焼うどんがどこかにあるはずだ」「旅って、まさか!仕事を......」結衣の顔色が変わった。
「ああ、基本は日帰りだよ。鉄道に乗って焼うどんの美味しい店をしらみつぶしに当たってやる。あ、俺仕事を辞めるとかはないから、だからできるだけ付き合ってね」と言って智也は笑った。
こちらから「旅野そよかぜ」の電子書籍が選べます。
-------------------
シリーズ 日々掌編短編小説 630/1000
#小説
#掌編
#短編
#短編小説
#掌編小説
#ショートショート
#スキしてみて
#焼うどんの日
#結衣と智也
#鉄道の日
#料理
#レシピ
#とは