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私のコーヒー時間 第1018話・11.10

「しまった。スマホのチェックもすることなく、ベッドに入って眠ったんだ」私はベッドから飛び上がるように起きる。時計を見た。すでに午前10時を過ぎている。
「今日はシフトで休みだからいいけど。あーこれって、どのくらい前からさかのぼらないといけないのかしら」

 複数のSNSをやっている者にとっては、スマホのチェックをせずに寝たことは致命傷だ。いつもなら食事のあと眠る前に必ずチェックをする。それが日課というもの。ところが昨日は友達と久しぶりにごはん会をした。久しぶりだからついついお酒が進んだ。
「ちょっと飲みすぎ、あ、もう見る気しないわ。寝る」と、結局夕方を最後にほとんどチェックできず、翌日の午前中を迎えてしまう。

「さてと」私はいつもよりも2・3倍の時間をかけてスマホのチェックをしようとしたが、これは長丁場になることは確実だ。だからベッドでだらりとしながら見ているとどのくらい時間がかかるかわからない。

「ちゃんと起きてみよ」こうして私はベッドを出た。起き上がって部屋着に着替えると、「せっかくだから美味しいコーヒーでも飲もうかな」となる。
 私はコーヒーに若干のこだわりがあった。それは少しの期間だけコーヒーショップでバイトをしたことがあるから。そのときはさすがに焙煎まではしないが、コーヒー豆を砕き、それをハンドドリップで入れて客に提供した。 
 だから今から入れるコーヒーも、インスタントのような子供だましではない。

「そうそう、これこれ、この前専門店で買った豆よ」私はひとりで呟きながら封を切った。封を切った瞬間にコーヒー豆の香ばしい香りが鼻に入る。「うーん、いいわ。さすがね」私は少し高い目だったけど、この豆を買ったことが正解だと思った。
 コーヒーミルで豆を砕く。さすがに手動では大変だから自動の物を使う。適量の豆を入れてセットし、ボタンを押しづけると高速でカッターが回転し、瞬く間にローストされたコーヒー豆が原型を失う。瞬く間に「木っ端みじん」という言葉がぴったりくる粉に変わった。

「さあ、いよいよね」コーヒー豆を砕いている間にお湯を沸かしている。先の細いコーヒーポットの中ではお湯が煮沸を開始し、呼吸をするかのようにどんどん空気の泡を吹き出している。
 フィルターをセットし、粉状になったコーヒー豆を入れた。「さあて、慌てずに入れましょう」私は豆の周辺からお湯を垂らす。最初にフィルターがお湯により濡れていく。次にコーヒーの周りから泡が立ったようだ。これでコーヒー豆を蒸らしていった。

「さてと」私はいったん深呼吸。いよいよコーヒーをハンドドリップで注ぐことへの気合の意味もある。だがそれ以上に、深呼吸をすることで必然と蒸らしたコーヒー豆の香りが取り込まれるのだ。これで再度コーヒーの香りを味わうと、ゆっくり口から息を吐く。それからコーヒーポットの先をフィルターに向ける。

 コーヒーはお湯が注がれて泡立っていた。その下ではお湯がコーヒーの成分を含んだお湯が、下で支えているコーヒーサーバーに茶色い水滴として落下していく。透明ガラスのコーヒーサーバーには、瞬く間にコーヒーの液体が入っていった。

 私は自分のカップを用意している。少し大きめのマグカップだ。私はブラックで濃厚なコーヒーを飲むのが最も好き。あまり飲みすぎてはいけないけど好きなものは仕方がない。サーバーにたっぷり入ったコーヒーをカップに注ぐ。こうしていよいよ至高のコーヒータイムが始まるのだ。

「いい香りね」私は思わず声に出す。代わりに目をつぶる。鼻から入る香ばしいコーヒーの香りは、起きた瞬間に感じた焦る心を瞬く間に落ち着かせてくれた。スマホからチェックすべきSNSの内容は溜まっている。
「焦る必要はないわ。ゆっくりと時間をかけて読めばよい。その横には至高のコーヒがあるのだから」

 こうして私はまずカップに口をつけると、一口分のコーヒーを口に含む。鼻から入り込んでくるアロマと違い、口の中から広がるフレーバーはさらに気持ちをリラックスさせてくれる。もしかしたらコーヒーの中毒者かもしれないけど、このコーヒーの味わいが好きなのだ。

 もう一口飲んだところでようやくスマホの画面に指を動かす。指がダンスをするように動いているが、私が見ているのは指ではなくスマホ画面から出てくるSNSの書き込み。私はひとつずつゆっくりと時間をかけて読んだ。読んでから、その書き込みに対してリアクションするかどうか考える。ちなみに私は連射するタイプではなく、じっくり読みながら選択する派。

「今日はいい休日ね」私はコーヒーを飲みながらそう思った。ようやく昨夜からのSNSのチェックが終わったときには、お昼になろうとしている。だがコーヒーはあとわずかながら残っていた。
「今日のお昼は抜いて、早い目の夕食でもいいかな。いやちょっとは食べようか?」私は別の悩みを抱えようとしている。だけど、「どうするか、そんなに慌てる必要はない」と頭の中で考えながら、カップに入った最後のコーヒーを味わうのだった。

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シリーズ 日々掌編短編小説 1018/1000

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