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湖以外を回ってみる  第936話・8.18

「滋賀県に来たが、今回は琵琶湖を避けられそうだ」新幹線に乗って滋賀県へ、米原駅で下車した。滋賀県といって思い出すのはどうしても琵琶湖だが、琵琶湖だけが滋賀県ではない。そのことを検証しようとやってきた。
 米原の北には長浜があり、西には彦根と城下町があるが、いずれも琵琶湖に面している。だから今回はどちらもパス。米原からは近江鉄道に乗る。近江鉄道はJRよりも湖の反対側を走るから、ちょうどよいと思った。ところが、いったん彦根駅で合流してしまう。

「まあいいか、それでも途中の鳥居本で降りたおかげで、中仙道の鳥居本宿も見られたし、そこからは彦根城ができる前の拠点だった佐和山城にもこれた。ただ山城の上からは琵琶湖の絶景が見えてしまったが」
 といっても今回は琵琶湖を否定するのではなく、琵琶湖以外のスポットを探す旅。ついでに彦根城も含めた絶景が見られたから来たことは後悔しない。こうして佐和山城を反対側から降りると彦根駅の近くまで来た。

 彦根駅からまた近江鉄道に乗る。今度は正真正銘琵琶湖から外れた東側を鉄道が走った。最初に向かったのは多賀大社。
「7世紀創建の神社で、国造りの神、伊弉諾(イザナギ)命と伊弉冉(イザナミ)命を祭る神社か」一応歴史などを確認しながら参拝する。
 いちど来た道を戻るように列車に乗り、途中の高宮駅で乗り換えた。新幹線と並行した中を列車は走る。後でわかったことだが中仙道も並行してあったようだ。

 こうして次に立ち寄ったのは五個荘というところ。ここは気になっていたところで近江商人の屋敷があちらこちらにある。すでに午後になっていたが、今回は1泊する予定だったので、夕方まで五個荘の街を散策した。

 宿泊するのは、五個荘から少し南にある八日市という宿に決めている。ちなみにこの八日市から近江八幡までも線路があった。
「近江八幡は琵琶湖から離れているだけどな」だが今回は近江八幡も素通りすることに決めている。こうして1日目の夜は駅近くのビジネスホテルで1泊。

 翌日は八日市からまた近江鉄道に乗る。次に向かったのは水口というところであった。どんどん琵琶湖から離れていき、このままいけば三重県に向かいそうなこと路まで来た。どうやら忍者の郷で有名な甲賀のあたりまで来たようだ。
 「小さな城跡があるな」水口の駅からは少し歩いた。水口城跡は見たところ堀が残っていて、門や櫓のようなものはあった。その中にある御殿跡はグラウンドになっているようだ。
 城跡の近くには近江鉄道の駅があったが、そこには寄らずもう少し歩いてみることにした。琵琶湖に向かって流れている野洲川に架かる内観橋は味わい深い橋。橋を渡ると貴生川駅が近い。

 貴生川駅はJR草津線と交差するターミナル駅で、近江鉄道の終着駅でもある。だが、ここから草津線には乗らない。草津に行けば琵琶湖に近づくし、反対方向の柘植に出てしまうと滋賀県を出て三重県になってしまう。
 実は貴生川駅はもうひとつ、ローカル鉄道の起点でもある。それは信楽高原鉄道。

 こうして貴生川駅から信楽高原鉄道の列車に乗り込んだ。途中聖武天皇が造営を命じたという古代の宮「紫香楽宮跡」も気になったが、ここはあえて立ち寄らず、そのまま終点の信楽を目指す。
 列車は終着駅に滑るように到着した。「ようやく来たか、今回の旅の最終目的地に」

 正直に話せば、「琵琶湖以外のスポットを巡る」などと大きなことを言っていながら本当はただ信楽に来たかった。信楽に来るときそれまでのルートを後付けで琵琶湖以外のスポットとして回ってきたわけだ。信楽も滋賀県だが琵琶湖からは遥かに遠く、むしろ三重県や京都府が間近に迫っている。

 さてと、ここでスマホを取り出し、一枚の画像を見た。その画像には信楽焼の狸の画像が見える。確かに信楽はタヌキの焼き物で有名な信楽焼のふるさと。だからタヌキを追加で買いに来たのかといえば微妙に違う。
「限りなく同じものを買うんだ」画像のタヌキの置物は、父が生きていたときに、父が信楽旅行で買ってきたお土産である。このタヌキはそれなりに大きく料金も結構したが、父は「一目で惚れてしまった」と、母も呆れるような理由で購入したという。父親はそのタヌキを本当に大切に扱っていた。実の子もうらやましいほどに......。

 父が亡くなって5年が過ぎたが、父の跡を継ぐようにタヌキを大切にしていた。だが先月一瞬のミスで狸の置物を破損させてしまったのだ。父の思い出の品をこのようなことにしたことはさすがに心苦しく、今回代表品を買いに来たというわけ。

 もちろん以前のもののような大きなものは、予算的に買えない。「でもせめて極力似たタヌキが欲しい。絶対に手に入れよう」と思い、ひとつの焼物屋に入った。しかし、タヌキはどれを見ても非常に表情が似ており、どれが近いかわからない。
「直観しかないか」画像を見ながら、ようやく一体のタヌキを指名。それを購入した。
 大きさは両手で持てるくらいなので、配送ではなくそのまま持ち帰ることに。

「帰りは琵琶湖を見ながらでもよいかな」そう思ったので、信楽からいったん貴生川駅に戻ると、草津線に乗って草津駅を目指した。そこから東海道線を経由し新幹線に乗る。だが東海道線は草津から米原の間は琵琶湖が見えない。それを知るや否や改めて苦笑した。
 列車は米原駅に到着し、新幹線の乗り換える前に駅弁を買う。新幹線に乗り込んでから、カバンを開けると、新しく購入したタヌキの置物を眺める。

「本当は行きもこうやってくれば宿泊する必要なかった。けど初めてのところばかりで楽しかったから良いか」タヌキの顔を見ながらそう思うのだった。

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