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カタカナ語を漢語や和語にするこころみ【二】

 身の周りにあるカタカナ語を漢語や和語にする試みの第二弾です。今回は電算機(電子計算機、コンピューター)分野の語句が多めです。

 第一弾は以下の記事です。

(↓以下に目次が表示されます)


概要

 この記事では、現行ひろくカタカナ語で呼称されている概念について、筆者が思いついた創作漢語、創作和語を紹介しております。
 本記事ではまた、同じ漢字文化圏に属する中文言語の中国語、たいわんではどのように翻訳、呼称されているのかについてもあわせて触れます。

読者「たいわんとはなんぞや。」
 台湾華語は台湾で話されている中文言語、漢語です。中国語とは文法上は意思疎通が可能ですが、使用する文字や発音、語彙が完全に同一ではありません。

読者「中国語と違うんだ。」
 筆者も中国語については中国語を勉強する前からその言語の存在を知っていましたが、台湾華語については中国語をしばらく勉強してから初めて知りました。

 さて、本記事では(記事の主題上、)漢語がたくさん登場するため、それらの語句について以下のように区別することとします。

  • 甲乙丙〈原〉…筆者が思いついた創作漢語、創作和語。

  • 甲乙丙〈原転〉…既存の語句を別の意味で用いたり、別の意味を付加したりすることを提案した漢語、和語。

  • 甲乙丙〈既〉…既にどなたかが作ったり訳したりした漢語や和語。

  • 甲乙丙〈中〉…中国語の語彙[ = 中国語ではこのように言う]。

  • 甲乙丙〈台〉…台湾華語の語彙[ = 台湾華語ではこのように言う]。

 また、本記事について。
(以下四項は読み跳ばしてもかまいません)

  • 本記事で紹介している中国語の語彙、台湾華語の語彙に関しては、訳語が複数種類存在していて統一されていないものもあり、本記事においてはその訳語全てを掲載しているわけではありません。
    なお、中訳には「小学館 日中辞典 第3版(ISBN:978-4-09-515653-8)」、華訳には樂詞網を参考にしました。

  • 筆者は中国語や台湾華語を勉強してはいますが、訳語の創作にあたってはそれらの語彙は参考にせず、自分の頭で訳出、考案するようにしています。ただし、漢籍や漢和辞典などは読んでおります。

  • どの創作語句もみな暫定的なもので、更新、変更の余地は充分にあると考えております。またあらたに創作漢語や創作和語を思いついた場合、本記事には追記せず、また追って別記事にて紹介しようと思います。

  • 読者の皆様が以下の創作語句を使用することを筆者は禁じません。また、読者の皆様が何かの場面で以下の創作語句の語義を述べたり、第三者に説明したりする際などには、本記事のURLを併載していただけるとありがたいです。さらにもし、これらの創作語句を使用して文章などを書き、インターネット上に公開するなどしたことを筆者に連絡してくださった場合は、閲覧に伺うことがございます。

 それでは以下より始めます。



創作語句の一覧

インストール install

→納入(のうにゅう) 〈原転〉

 「納入」と言う語を「インストール」の訳語に充てることを提案します。「ソフトウェアファイルを機器に入れる」と言う意味です。

 英語の「install」は電算機(電子計算機、コンピューター)にソフトウェアを入れることのみならず、外部機器(ハードウェア)を取り付けることをも言うそうですが、日本語の文脈における「インストール」では、単にソフトウェアの導入のみを言うことがほとんどでしょう。

  • 中国語:安装(ān zhuāng)〈中〉

  • 台湾華語:安裝(ㄢ ㄓㄨㄤ / ān zhuāng)〈台〉

 中文言語において「安」の字には「設置」の意味があります。意味の変遷としては、「安んずる→落ち着く→定まる→置く→据える」と言った流れでしょうか。

 「インストール」と併せて、「アンインストール」、「ダウンロード」も訳出してみました。



・アンインストール uninstall

→外却(がいきゃく) 〈原〉

 「ソフトウェアファイルを機器の外に出す」と言う意味の言葉です。「却」の字には「しりぞける、のぞく、さげる、おろす」の意味があります。

 国語辞典を引くと「納入」の対義語は「徴収」とありますが、「アンインストール」の訳語として「徴収」を充てるのは違うと思い、今回造語してみました。

 他の語彙としては「アンインストールする」以外にも、「削除する」、「消す」と言ったりもしますね。

  • 中国語:卸装(xiè zhuāng)〈中〉、卸载(xiè zài)〈中〉、删除(shān chú)〈中〉

  • 台湾華語:解除安裝(ㄐㄧㄝˇ ㄔㄨˊ ㄢ ㄓㄨㄤ / jiě chú ān zhuāng)〈台〉、解安裝(ㄐㄧㄝˇ ㄢ ㄓㄨㄤ / jiě ān zhuāng)〈台〉

 中国語の「删除〈中〉」は「削除する」と言う意味です。また、「卸装〈中〉」にはアンインストールの意味のほかに、「役者が衣装を脱ぎ化粧を落とす」と言う意味もあります。



・ダウンロード download

→・収稿(しゅうこう) 〈原〉
 ・下稿(げこう) 〈原〉

 一つ目の「収稿〈原〉」は「インターネット上に投稿されたものをこちらが収める」と言う意味の言葉、二つ目の「下稿〈原〉」はダウンロードの「ダウン」を「下」と安直に訳した言葉です。

 「アップロード」の訳語に関しては「投稿する」、「上げる」など適当な言葉がありますが、「ダウンロード」に関しては俗に「落とす」と言ったりするものの、それ以外では適当な訳語(漢語)が無いと思い、今回訳出してみました。

 「稿」と言う字は「下書き」と言う意味で、例えば「原稿」は「作品のもととなる下書き」、「投稿」は「原稿を発表媒体に向けて投函する、送る」と言う意味です。今回「ダウンロード」と言う言葉を訳していて、「稿」の字にあらたに「コンテンツ、内容」あるいは「情報ファイル」の意味を付与してもよいのではないか、などと考えてみたりもしました。

  • 中国語:下载(xià zài)〈中〉

  • 台湾華語:下載(ㄒㄧㄚˋ ㄗㄞˋ / xià zài)〈台〉

 ちなみに「アップロード、投稿」は中文言語ではそれぞれ

  • 中国語:上载(shàng zài)〈中〉、上传(shàng chuán、上伝)〈中〉

  • 台湾華語:上傳(ㄕㄤˋ ㄔㄨㄢˊ / shàng chuán)〈台〉

と言います。中文言語において「投稿〈中台〉」の語は、「文章(を書いた原稿用紙)を出版社などに提出、寄稿すること」のみを指し、「上传〈中〉、上傳〈台〉」の方は「インターネット上にファイルなどを投稿すること」を言い、日本語における「投稿」の用法とは少し異なります。一方で、日本の動画サイト「ニコニコ動画」に触発されて設立されたAcFunやビリビリ動画などの中国の動画サイトや、日本語に親しむ台湾人の間では、「上传〈中〉、上傳〈台〉」の意味で「投稿〈中台〉」の語が使われていたりもします。

 「インストール」に関連する語句の訳出はここまで。



インターネット Internet

→伝逓網(でんていもう) 〈原〉

 「伝逓でんてい」は「(次々と)伝える」と言う意味の漢語、「網」は「ネット」の直訳です。

 「てい」と言う漢字には「伝える」と言う意味のほかに、「互いに、かわるがわる」と言う意味もあります。これは英語の「inter」の「~の間、相互に」と言う意味と都合よく対応しています。

 「伝逓」と同義の言葉に「逓伝(ていでん)」があり、今回の「伝逓網」の訳以外に「逓伝網(ていでんもう)〈原〉」との訳も思いつきましたが、こちらの訳は「停電網」なる漢語を容易に連想させやすく、また「停電により逓伝網ていでんもうが一時使用不可能になりました」などのように、聞いただけでは(音だけでは)すぐに意味が取りにくい、場合によっては区別がつかない状況もあるのではないか、と言った懸念があったためボツにしました。
 「でんてい」の方では「電停」、すなわち「路面電車停留場」を連想するかたもいるでしょうが、こちらは意味が対立せずに「棲み分け」できるであろうと判断したため、「逓伝」ではなく「伝逓」の方を訳出に用いた次第です。

 他には「電網(でんもう)〈既〉」と言う訳も見かけたことがあります。

  • 中国語:因特网(yīn tè wǎng、因特網)〈中〉、互联网(hù lián wǎng、互聯網)〈中〉、网络(wǎng luò、網絡)〈中〉

  • 台湾華語:網際網路(ㄨㄤˇ ㄐㄧˋ ㄨㄤˇ ㄌㄨˋ / wǎng jì wǎng lù)〈台〉

 中国語の「因特网〈中〉」の「因特」は「inter」の音訳です。
 台湾華語の「網際網路〈台〉」の「際」は「交わる、会する」、「網路」は「ネットワーク、通信網」の意味で、「網際網路〈台〉」でおそらく「ほかの通信網と接する通信網」、「ネットワーク間ネットワーク」と言う意味の訳であろうと思います。

 「ネットワーク」と「インターネット」との違いについて。
 「ネットワーク」は「通信網」のことを言い、一つの施設や集団内などでやり取りが完結するものを指します。その「ネットワーク、通信網」でのやり取りが一定の範囲を超えて世界規模にまで拡張されたものを、現在では「インターネットワーク、インターネット」と言います。ですので「インターネット」はまた、「世界規模通信網、国際通信網」とも言い換えられます。
 米国で「インターネットワーク」が開発され、また「インターネットワーク」の語が登場した当初は、世界規模での電算機の接続を念頭に置いていたわけではなく、あくまで複数施設での共通規格による通信を想定していたにすぎませんでした。しかし次第に接続する電算機、接続可能な電算機が増え、ついに「インターネットワーク」の一語で「世界規模での通信」と言う意味を有するようになってしまいました。
 今回の訳出において「伝逓網〈原〉」の語に「世界規模」と言う意味合いが含まれていませんが、それはもとの「インターネット」の語も同様なわけであります。



エネルギー Energie(独)

→営能(えいのう) 〈原〉

 「営」は「いとなむ、仕事をする」、「能」は「はたらき、ちから」と言う意味です。

 食べ物や飲み物の包装面にある「栄養成分表示」の欄を眺めている時に、この訳語を思いつきました。栄養成分表示においては「エネルギー」の表記の代わりに「熱量(ねつりょう)〈既〉」と書かれているものもよく見かけます。

 ちなみに「栄養」と言う漢語は、本来は「子供が親を養う、孝行する」と言う意味で、現代日本における「エイヨウ」はそれとは別に「営養えいよう」と言う漢語がその意味を担当していたのですが、なぜか「栄養」表記一本に統一されてしまいました。「滋養、養分」の意味で「エイヨウ」を言う時、中国語や台湾華語では現在でもやはり「营养(yíng yǎng、営養)〈中〉、營養(ㄧㄥˊ ㄧㄤˇ / yíng yǎng)〈台〉」と表記します。

 「得能気(えのうき)〈原〉」や「得能伎(えのうぎ)〈原〉」などの音訳兼意訳も思いつきましたが、ダサいと思ったのでボツにしました。

  • 中国語:能量(néng liàng)〈中〉、能源(néng yuán)〈中〉、能(néng)〈中〉

  • 台湾華語:能量(ㄋㄥˊ ㄌㄧㄤˋ / néng liàng)〈台〉、能源(ㄋㄥˊ ㄩㄢˊ / néng yuán)〈台〉、能(ㄋㄥˊ / néng)〈台〉

 「火力エネルギー」、「位置エネルギー」など、日本語における「○○エネルギー」は中文言語では「○○能」となります。また、「活力、気力」の意味での「エネルギー」は中文言語ではそれぞれ、

  • 中国語:精力(jīng lì)〈中〉、气力(qì lì、気力)〈中〉

  • 台湾華語:精力(ㄐㄧㄥ ㄌㄧˋ / jīng lì)〈台〉、活動力(ㄏㄨㄛˊ ㄉㄨㄥˋ ㄌㄧˋ  / huó dòng lì)〈台〉

などと言います。



(職業における)サービス service

→便務(べんむ)〈原〉

 「相手のために便宜を図ってあげる業務」と言う意味の訳語です。

 この語は仕事関連、労働関連の語彙として用いることを想定しており、例えば「サービス業」は「便務業〈原〉」、「公共サービス」は「公共便務〈原〉」などと訳します。

 日本語における「サービス」は英語の「service」より意味が広く、例えば「おまけ」の意味でも「サービス」と言ったりします。例としては、八百屋さんやパン屋さんの言う「これはサービスだよ。」は「これはおまけだよ。」の意味であって、「これは奉仕だよ。」などと解しては意味が通りません。

 「奉務(ほうむ)〈原〉」と言う語句も思いつきましたが、どこか仰々しい印象があるため、ボツとしました。

 「奉仕(ほうし)〈既〉」や「服務(ふくむ)〈既〉」、「用役(ようえき)〈既〉」、「役務(えきむ)〈既〉」、「所務(しょむ)〈既〉」などの訳語、あるいは類似の概念が存在します。調べてみると思いの外ありました。

  • 中国語:服务(fú wù、服務)〈中〉

  • 台湾華語:服務(ㄈㄨˊ ㄨˋ / fú wù)〈台〉、勞務(ㄌㄠˊ ㄨˋ / láo wù)〈台〉

 「サービス」と関連して、「SNS」も訳出してみました。



・SNS social networking service

→・登録制交流圏(とうろくせいこうりゅうけん) 〈原〉
 ・登交圏(とうこうけん) 〈原〉

 「会員登録をすることで交流できる区域」と言う意味の訳語です。「登交圏〈原〉」は「登録制交流圏〈原〉」の短縮形です。

 SNSは英語の「Social Networking Service」の略で、直訳すると「社交、通信、便務」と言った感じになるでしょうか。しかし日本語の文脈において、例えば「SNSで話題!」を「社通便で話題!」などと訳出するのは何か違うように思え、「巷(ちまた)で話題!」、「海外で話題!」などのように、SNSを「サービス、便務」ではなく「区域、範囲」と捉えた方がより文脈に沿って適当であると判断したため、訳出にあたって「便務」の語は使用しないことにしました。SNS製作者の側からすれば、「たくさんの人々が伝逓網インターネット上で交流できる場を作り、以て皆様の便宜を図るようにしました」と言う感じでしょうけどね。

  • 中国語:社交网络服务(shè jiāo wǎng luò fú wù、社交網絡服務)〈中〉

  • 台湾華語:社群網路服務(ㄕㄜˋ ㄑㄩㄣˊ ㄨㄤˇ ㄌㄨˋ ㄈㄨˊ ㄨˋ / shè qún wǎng lù fú wù)〈台〉

 「サービス」に関連する語句の訳出はここまで。



スーツケース suitcase

→外行李(そとこうり) 〈原〉

 「外に持ち出す行李」と言う意味の言葉です。「行李」は着物を入れる箱のことです。

 「旅行李(たびこうり)〈原〉」と言う訳も思いつきましたが、こちらは字面が「旅/行李(旅する時に使う行李)」以外に「旅行/李(旅行するすもも)」とも解せられるため、ボツとまではゆきませんが先頭には挙げないことにしました。

  • 中国語:旅行箱(lǚ xíng xiāng)〈中〉、手提衣箱(shǒu tí yī xiāng)〈中〉、手提箱(shǒu tí xiāng)〈中〉、行李箱(xíng lǐ xiāng)

  • 台湾華語:手提箱(ㄕㄡˇ ㄊㄧˊ ㄒㄧㄤ / shǒu tí xiāng)〈台〉、行李箱(ㄒㄧㄥˊ ㄌㄧˇ ㄒㄧㄤ / xíng lǐ xiāng)

 台湾華語で「スーツケース」の訳語を探してみると「手提箱〈台〉」と「行李箱〈台〉」との二種類が見つかりましたが、「手提箱〈台〉」は日本語で言うところの「トランク(ケース) = 大型のスーツケース」や「アタッシュケース」、「行李箱〈台〉」の方は特に「スーツケース」を指すと言うような使い分けがある感じがしました。
 ちなみに中文言語で「行李〈中台〉」と言えば、「(旅行の)荷物」の意味となり、日本語の「行李」とは意味合いが少々異なります。



ソフト、ソフトウェア software

→・内応(ないおう/うちこたえ) 〈原転〉
 ・内能(ないのう) 〈原〉
 ・内身(うちみ) 〈原〉

 一つ目の「内応〈原転〉」は「機器の内部からこちらの要求に応ずるもの」と言う意味です。訳出時には思い至らなかったのですが、後で調べてみたところ、実はこの「内応(ないおう)」の語には「内通する、裏切る」、「陰でこっそり援助する」と言う意味がすでにあったため、さらに「ソフト」の訳語を複数考えてみることにしました。
 二つ目の「内能〈原〉」は「機器の内部にて機能するもの」と言う意味の訳語で、三つ目の「内身(うちみ)〈原〉」は「中身」と言う意味の和語です。

  • 中国語:软件(ruǎn jiàn)〈中〉、程序设备(chéng xù shè bèi、程序設備)〈中〉

  • 台湾華語:軟體(ㄖㄨㄢˇ ㄊㄧˇ / ruǎn tǐ)〈台〉

 中文言語では「soft」の訳に「軟」の字を用いたものとなっています。
 台湾華語の訳は「軟體〈台〉」ですが、日本語の「軟体動物」も台湾華語では同様に「軟體動物(ㄖㄨㄢˇ ㄊㄧˇ ㄉㄨㄥˋ ㄨˋ / ruǎn tǐ dòng wù)〈台〉」と言います。
 ちなみに二つ目の訳語の「内能〈原〉」は中文言語においては、熱力学分野での用語である「内部エネルギー」を意味するそうです。

 「ソフト」と関連して、「ハード」の語も訳出してみました。



・ハード、ハードウェア hardware

→・外器(がいき/そとうつわ) 〈原〉
 ・外身(そとみ) 〈原〉

 一つ目の「外器〈原〉」は「ソフトを外から包む器(うつわ)」、また「外部機器、取り付け機器」の意味で、二つ目の「外身(そとみ)〈原〉」は「外見、見てくれ」の意味です。いづれも前項のソフトの訳語と対応するようにして訳出してみました。

 「外構(がいこう)」と言う訳語も思いつきましたが、すでに建築分野にて「(門や柵などの)住宅の外の構造物」と言う意味で存在していました。

 「ハードウェア」と言うと精密機器を覆う箱の部分(「筐体(きょうたい)」と言います)のことのみを指すものとばかり筆者は思っていましたが、それ以外にも、マウスやモーター、入字盤にゆうじばん(「キーボード」の筆者による訳)、印刷器などの機器や部品をも指すそうで、なかなか広汎な概念です。

  • 中国語:电子计算机(硬)部件(diàn zǐ jì suàn jī (yìng) bù jiàn、電子計算機(硬)部件)〈中〉、硬件(yìng jiàn)〈中〉、硬设备(yìng shè bèi、硬設備)〈中〉

  • 台湾華語:(電腦)硬體((ㄉㄧㄢˋ ㄋㄠˇ) ㄧㄥˋ ㄊㄧˇ / (diàn nǎo) yìng tǐ)〈台〉

 中文言語においては「soft - 軟」の時と同様、「hard」に「硬」の字を充てたものとなっています。

 「ソフト」に関連する語句の訳出はここまで。



プログラミング programming

→納程(のうてい) 〈原〉

 「納」は「おさめる」、「程」は「手順、道筋、流れ」と言う意味で、プログラミングと言う行為を筆者は「動作手順を機械に埋め込む作業」と捉えてこのように訳出しました。

 職業、産業、分野としての位置付けで「プログラミング」のことを言うのであれば、「納程業(のうていぎょう)〈原〉」と呼称するのもよいでしょう。

 和語にするなら「のりおさめ〈原〉」ですかねぇ…。うーん。

  • 中国語:程序设计(chéng xù shè jì)〈中〉、编程(biān chéng)〈中〉

  • 台湾華語:程式設計(ㄔㄥˊ ㄕˋ ㄕㄜˋ ㄐㄧˋ / chéng shì shè jì)〈台〉

 中国語の「编程〈中〉」はおそらく「プログラムを組む」と言う意味の「编制程序(biān zhì chéng xù)〈中〉」の省略であると思います。

 以下に関連語句を訳出し、併せて紹介します。



・プログラマー programmer

→納程者(のうていしゃ) 〈原〉

 「納程プログラミングに携わる技術者」と言う意味の語句です。

 「納程プログラミングに携わる技師」と言う意味で「納程師(のうていし)〈原〉」との訳も思いつきましたが、技師は「エンジニア」と言う感じがし、「プログラマー」とは別ものではないかと思い、先頭には挙げませんでした。しかし他の職業名にて例えば「医者」と「医師」のように両用されている例もありますから、実際に用いる場合は「納程者〈原〉」でも「納程師〈原〉」でもどちらでも良いと思います。

  • 中国語:程序设计员(chéng xù shè jì yuán)〈中〉、程序(编制)员(chéng xù (biān zhì) yuán)〈中〉、编程员(biān chéng yuán)〈中〉

  • 台湾華語:程式設計員(ㄔㄥˊ ㄕˋ ㄕㄜˋ ㄐㄧˋ ㄩㄢˊ / chéng shì shè jì yuán)〈台〉、程式設計師(ㄔㄥˊ ㄕˋ ㄕㄜˋ ㄐㄧˋ ㄕ / chéng shì shè jì shī)〈台〉



・(電算機分野における)プログラム computer program

→演程譜(えんていふ) 〈原〉

 「指定された手順を実行する譜」と言う意味です。「演」の字には「演奏、実演」などのように、「行う、実際にする」と言う意味があります。また、「譜」はここでは「記述物」と言った意味合いで用いています。

 ややこしいですが、「プログラミング」と言う語句と、「プログラム」と言う語句とが意味するところは同一ではありません。
 「programming」は「動作手順を計画する作業」、「動作手順組み」と言う意味の名詞です。
 一方、「program」には「動作手順」と言う名詞としての用法と、「動作手順を計画する、プログラムを組む」と言う動詞としての用法とがあります。日本語では「プログラムする」、「プログラムされる」などと言う表現がありますが、これは後者の動詞での用法です。

 「プログラミング」および「プログラム(名詞)」、「プログラム(動詞)」の訳出にあたって筆者は、

・「プログラミング」と「プログラム(動詞)」でまとめて一語
 →「納程〈原〉」
・「プログラム(名詞)」で一語
 →「演程譜〈原〉」

と言う風にして二種類にまとめたいと思いました。これは例えば、「作曲(すること)」、「曲」、「作曲する」と言う三語があった場合に、

・「作曲(すること)」、「作曲する」
・「曲」

と言う風に二つにまとめるのと同様のことです。このようにしたのは、ただ英語の単語を日本語に置き換えさえすればそれでよいと言うものではなく、日本語の文脈に沿う形で翻訳したかったからです。
 ですので、「プログラムする」、「プログラムされる」と言う時の日本語は、「プログラム」と言うカタカナ語を含んではいますが、「演程譜する/される」、「演程する/される」と解すのではなく、「納程する/される」あるいは「(プログラムを)組む/(プログラムが)組まれる」、「書く/書かれる」などと解した方が適切であると思います。

 「プログラム」と言うカタカナ語について、過去には数学者の島内しまうち剛一たかかず先生の「算譜〈既〉」、また国語学者の水谷みずたに静夫しずお先生の「次第書き〈既〉」、「次第立て〈既〉」と言う訳が考案されていました。
 島内剛一先生はまた、「プログラミング」の語については「作譜〈既〉」との訳語を提案していました。

  • 中国語:程序(chéng xù)〈中〉

  • 台湾華語:程式(ㄔㄥˊ ㄕˋ / chéng shì)〈台〉

 演程譜プログラムについてもう少し説明します。
 演程譜プログラムは「ソースコード」と「バイナリーコード」との二種類に分かれるそうです。このうち「ソースコード」は電算機ではなく人側が作成するもので、「バイナリーコード」は人ではなく電算機側が参照、使用するものと言う違いがあります。例えばソースコードにて人が

<b>注意!</b>

と記述すると、バイナリーコードでは

00101100

(想像)

と言う感じとなり、そのバイナリーコードでの指示を受けて電算機が実際に画面に表示するのが、

注意!

と言う見た目となります。普段電子画面上で表示され、また目にしている文字や図形の配置、修飾、設計などは、皆ソースコードでの指令に基づいているわけであります。

 演程譜プログラムがソースコードとバイナリーコードとの二種類に分かれているのには理由があります。
 電算機は人が例えば「「注意!」←ココ ヲ フトジ ニ スル」などと指令をそのまま書いても理解できず、「00101100」などの二進数( = 0と1)の形で示されることで初めて、指令を理解、実行できます。しかし実情として、電算機に何か処理をさせたいと思った時に、人が始めから二進数のみを用いて「00101100」などと延々と指令を書き連ねるのは困難であると言わざるをえません。
 そこで、まづは人が二進数に比べれば記述するのが困難ではない表示形式(=「プログラミング言語」と言います)で指令を記述し、その固有の表示形式を二進数などに変換したうえで電算機に指令を実行させる、と言うやり方が編み出されました。電算機側の仕様に則った、一定の様式、体裁で目的の指令を記述する必要はありますが、二進数で指令を書き連ねるよりかははるかに現実的です。人が書いたプログラミング言語(=ソースコード)を、二進数(=バイナリーコード)に変換する仕様が電算機にはあり、この作業を「コンパイル(compile)」または「翻訳」と言います。
 この特殊な表示形式、納程プログラミング言語を理解した上で指令を記述する仕事を、納程者プログラマーと言う人々が担っているわけです。
 …と言うわけで、以下に「ソースコード」、「バイナリーコード」も訳出してみましたので紹介します。



・ソースコード source code

→・粗程稿/素程稿(そていこう) 〈原〉
 ・粗稿/素稿(そこう) 〈原〉
 ・原稿/源稿(げんこう) 〈原転〉

 一つ目の「粗程稿〈原〉」は「まだ電算機にとって本筋ではない、粗い状態の下書き」、「素程稿〈原〉」は「演程譜プログラムもととなる下書き」と言う意味です。
 二つ目の「粗稿/素稿〈原〉」は「粗程稿/素程稿〈原〉」と同義です。音訳ではないです。
 三つ目の「原稿/源稿〈原転〉」は安直に、「ソースコード」の「ソース」の直訳です。
 いづれも「動作や処理のよすがとなるもの」と言う意味合いを含ませるべく、「稿」の字を用いてみました。

 過去には島内しまうち剛一たかかず先生が「原算帳〈既〉」と言う訳を考案していました。

  • 中国語:源代码(yuán dài mǎ、源代碼)〈中〉

  • 台湾華語:原始(程式)碼(ㄩㄢˊ ㄕˇ (ㄔㄥˊ ㄕˋ) ㄇㄚˇ / yuán shǐ (chéng shì) mǎ)〈台〉



・バイナリーコード binary code

→・本程稿(ほんていこう) 〈原〉
 ・本稿(ほんこう) 〈原〉
 ・二進原稿(にしんげんこう) 〈原〉

 一つ目の「本程稿〈原〉」は「電算機が実際に扱うことになる、本式ほんしきの下書き」と言う意味です。
 二つ目の「本稿〈原〉」は「本程稿〈原〉」と同義です。
 三つ目の「二進原稿〈原〉」は「二進数に変換された原稿ソースコード」、または「(ソースコードからバイナリーコードへと)二つ目の段階に進んだ原稿げんこう」と言う意味の言葉です。

 ソースコードとバイナリーコードとの訳出における「粗-本」や「素-本」の組み合わせは、前者は工業製品の「粗削り→本削り」の製造工程より、後者は窯業(ようぎょう)の「素焼き→本焼き」の工程より、それぞれ着想を得たものです。

 「バイナリー」は「二進数( = 0と1)」と言う意味ですが、どうも情報技術者の間では、人によって「バイナリー」の意味する概念がまちまちで、例えば二進数以外の文字を用いて表記された演程譜プログラムのことをも「バイナリー(コード)」と称したりすることがあるようです。(以下の記事の「バイナリー」の項を参照してください)

  • 中国語:二进制(代)码(èr jìn zhì (dài) mǎ、二進制(代)碼)〈中〉、二进制编码(èr jìn zhì biān mǎ、二進制編碼)〈中〉

  • 台湾華語:二進位碼(ㄦˋ ㄐㄧㄣˋ ㄨㄟˋ ㄇㄚˇ / èr jìn wèi mǎ)〈台〉、二元碼(ㄦˋ ㄩㄢˊ ㄇㄚˇ / èr yuán mǎ)〈台〉

 「プログラミング」の関連語句の訳出はここまで。



ベーシックインカム universal basic income

→恒産保証制(こうさんほしょうせい) 〈原〉

 「恒産」は「一定の収入」と言う意味の漢語で、漢籍「孟子」より採用しました。「恒産保証制〈原〉」で「一定の収入を約束する制度」と言う意味です。

 「孟子」において「恒産」の語は「一定の収入」以外にもう一つ、「一定の働き口」と言う意味もありますが、今回はその一方だけを採用した形です。

 略称は「恒保(こうほ)〈原〉」でいかがでしょうか。

 訳語を思いついたはよいものの、果たしてベーシックインカムは実現可能なのでしょうかね。実現していないものや実現できないものに名称を与えてもしょうがないと言えばしょうがないとも思いますが、今回一応紹介しておきます。
 筆者などは、例えば将来、水と空気と太陽光とで十分に発電できるようになったり、あるいは雪のあの冷たさとゼーベック効果とで十分に発電ができるようになったりなどして、営能エネルギーが自在かつ容易に発電、供給可能となれば、今よりも生活費が安くなるかもしれないなぁ、でも人類が無尽蔵に営能エネルギーを生み出せるようになり、その持て余した営能エネルギーで自然破壊などをするようになったら、それはそれで困るなぁ…などと妄想してしまいます。
 しかし例え恒産保証制ベーシックインカムが実現しても、公共交通機関や基幹産業の整備や維持、食料生産などで人の労働は依然として必要ですから、代働機ロボット技術の高度な発展を遂げたりなどするまでは、人類は労働から解放されないでしょう。それに働くと言う行為が好きな人、働きたい人は、それら技術発展を遂げてもなお一定数いると思いますけどね。

  • 中国語:无条件基本收入(wú  tiáo jiàn jī běn shōu rù、無条件基本収入)〈中〉

  • 台湾華語:無條件基本收入(ㄨˊ ㄊㄧㄠˊ ㄐㄧㄢˋ ㄐㄧ ㄅㄣˇ ㄕㄡ ㄖㄨˋ / wú  tiáo jiàn jī běn shōu rù)、〈台〉

 現段階で中華人民共和国および台湾において、ベーシックインカムの施行事例はありません。



以上です。閲覧ありがとうございました。


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