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「遠い家族」前田勝さんの本を読んで深く深く考えた(基本ネタバレだらけ)その6

 前田さんが道をはずさなかったのは、お母さんの愛をきちんと記憶にとどめていたことも、大きいのではないか。
 良いことも悪いことも心に刻み、生きてきた人の瞳。いくつかのYou Tube で前田さんの動画を見たけれど、これだけの経験をしてきてもなお、彼の瞳は澄んでいる。
 これからはきっと良いことが、ゴールドラッシュのように押し寄せてくると良いな。そんなことを思った。
 それでもお母さんが好き、と言える前田さんのことをちょっと羨ましくも思う。
 私は、母のことが好きなのか嫌いなのか、まったくわからない40数年間を過ごしてしまったから。
 10代の頃から、
「なんなの? このヘンなヒト」
 と心の奥底で思ったことが何度もあるけれど、その度に、
「いやいや、親のことをそんなふうに思っちゃいけない」
 と自ら、そう考えるのを禁じた。
 その一方で、一度も抱きしめてくれず、ほめてもくれない母とどのようにつきあっていったら良いか、悩み続けていた。
 カウンセラーの川波先生により、なぜ母が私にそのような態度をとるのか解明された日から、すべては変わった。
 母は、私を支配し、うっぷんをぶちまける心のゴミ箱として使い、決して自分より上に行くことを許さず押さえつけていたことを知った時。
「私は、この人が嫌いだったんだ」
 と思えるようになって、本当に人生が楽になった。
 この本は、事件から17年以上経って出版された。
 どうして今?
 事件から距離を置き、冷静な眼で考えるには、時間が必要だったのだろう。自分の中で、落とし前のついていない感情もあっただろうし、リアルタイムでは生々しすぎて言葉にできないことも、あったに違いない。
 それでも、実に臨場感あふれる当日の描写は、あまりに衝撃が強すぎて何年経っても色褪せないからか、または前田さんが感受性が豊かで一つ一つをはっきりと記憶にとどめていたからだろうか。
 そのどちらでもあると思う。
 忘れてしまえば楽なことでも、細部に渡り覚えている。よけいに苦しくなってしまうのでは? と思う人も大勢いるだろうけれど、そうではなくて他の役割があるからだろう、と思う。

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