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「遠い家族」前田勝さんの本を読んで深く深く考えた(基本ネタバレだらけ)その4

 ここで、
「置いてやってるからって言って、偉そうに。何管理しようと思ってるんだよ」
 とか、
「いちいちうるさいな。人が何時に帰ってこようと、勝手だろ」
 など、人の善意を受けとめられない気持ちを持っていると、関係性が壊れてしまう。
 結果、人のことなどどうでも良くなるので、傷つけても平気な人間ができあがってしまうのではないかと思う。
 私も、母にされた虐待が辛くて、カウンセリングを受けたことがあるけれど、カウンセラーの川波(仮名)先生は、
「稀沙さん、よくもまぁ、こんなひどい体験をいっぱいしてきて、グレなかったねぇ。子どもも2人も産んで偉かったねぇ。普通、ここまでされたら、生きるか死ぬかって状態だよ」
 と言った。
 その時の私の答え。
「あんな人のために、グレて人生の時間を無駄にしたくなかったから」
 だった。
 前田さんより、ひねくれてはいる。
 でも。
 やっぱり私も、前田さんのように人からしてもらったやさしさは、きちんと記憶にとどめてもいるのだ。私の場合は、その数があんまりにも少ないので、なおさらに輝きを放っているのだけれど。
 自分の過去を振り返ってみても、ここまで色々あったなら、すべてに対して嫌気がさして、自暴自棄になってしまい、明日を迎える気力さえなくなってしまってもおかしくはない、と思うこともある。前田さんも、きっとそんな夜があったに違いない。
 もう一つ。
 これは、私の推測だけれど、前田さんは「人たらし」であったことも、グレずに済んだ大きな理由ではないかと思う。
 本編を読んでいて、先に書いた同級生の家にお世話になったくだりもさながら、数年ぶりに台湾に帰っても、必ず現地の友達と会い、楽しく過ごした、という描写が出てきて、
「あれ?」
 と何度も思った。
 どの国にいても、生粋のその国の人間ではないことから、そうとうにいじめられた、と書いてある一方、ちゃんと仲の良い友達も作っているのだ。
 もちろん、体験してきたことを語るのは、ものすごく勇気を必要とする。
 前田さんは、必ずしも全員に自分の生い立ちを話しているわけではない。
 

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