高齢者に"イラっ"としてしまう理由
高齢者介護サービスのお客さんは、当たり前だが高齢者である。
普通であればお客さんに対して怒鳴ることはない。
しかし、そのお客さん(高齢者)に対して声を荒げる介護スタッフはいる。「何で分からないの!」「もぉ~、早くしてよ」といった感じだ。
忙しいのは分かるが、声を荒げるのはいささか問題である。他の仕事であれば、どんな理由があってもお客さんを怒鳴るなんてあったら大問題になる。
もちろん、介護サービスにおいても問題だ。特に高齢者虐待という社会問題にまで発展してしまう。
それでも、介護サービスという高齢者を相手にしている仕事においては、怒りという感情が表に出てしまうことがある。 それはどんなベテラン介護士であっても必ずあることだと思う。
何だか他人事のようにお伝えしているが、このような記事を書いている私だって高齢者に対してイラっとすることはある。
次の方の仕事が間近に迫っているときは焦るし、疲労が蓄積しているときは「早く終わらないかな」と思うことだってある。介護という福祉事業であっても、それを営んでいる立場であっても、人間なので状況によってはネガティブ感情が湧く。介護をしているからといって聖人ではない、ただの一人の弱い人間だ。
しかし、ネガティブ感情が湧くのと、それを表に出すのとは話が違う。
ディズニーランドのスタッフが疲れているからといって暗い顔をしたり、来場者に「早く並べよ!」なんていったらぶち壊しだろう。お客さんにとって個人の事情なんて関係ない。
だからこそ、疲れていても一時的に踏ん張って笑顔で来場者をもてなす。
その対価として賃金を得る。それが仕事であり、稼ぐということだろう。
とは言え、無理に我慢する必要はない。仕事をするためにはコンディションは大切であり、本当にダメなら休むことだって選択すべきだ。
しかし、いくら肉体のコンディションが良くても仕事においてはイライラしてしまうことはある。となると、イライラの対象への捉え方を変えるしか術はない。
では、介護という仕事において、お客さんである高齢者に対してイライラしないためにはどうすればいいか? どう捉えればいいのか?
その前提としてお伝えしたいことは、「怒りはよくない」「高齢者に対してイライラしてはいけない」という考えは避けた方が良い。
むしろ「怒りが湧くことはある」「高齢者にイラっとすることはある」という事実を認めてしまったほうが良い。むしろ、怒りやイライラが湧き上がるのは普通だと思っていただきたい。
大切なのは、怒りが湧いたりイライラが生じたその場で爆発しないことだ。
「自分は怒っているな、イライラしているな」と自覚しつつも、「この場をやり過ごそう」とすることも大切だ。
その後で(あまり良くはないが)、他の介護スタッフに「さっき、〇〇さんの介助中に少しイラっとしちゃった。あはは」くらいに伝えるくらいに留めればいい。何もお客さんである高齢者に直接言う必要はない。
そもそも高齢者は身体機能が低下している。具体的には「聴力」と「理解力」が低下している。これは肉体的な問題であり、かつ自然現象なのでどうしようもない。
しかし、それを頭で分かっていても「こちらの話は聞こえている」「話が通じる」「理解してもらえる」といった思い込みをしてしまう。
特にそれなりに話が通じる高齢者相手ならば、自分と同じ身体機能と理解力をもってコミュニケーションが図れていると余計に思い込んでしまう。
そのため、少しでも話がちぐはぐになったり、相手(高齢者)が理解していないとなるとイライラが募ってしまう。
これは高齢者のご家族を見ていてるとよく分かる。ご家族は自分の親が耳も遠いし理解力も落ちていると分かっているのに、これまで通りのコミュニケーションをとろうとする。
それは、家族にとって目の前の親がどんなに年をとっても「全盛期の状態の親」を想定してコミュニケーションをとってしまうからだ。だからこそ「何で分からないのさ」「さっき言ったじゃん」と言った押し問答が始まる。
プロの介護士であっても高齢者の状態を履き違えてイライラするのだから、そうでない家族はもっとイライラするし、落胆することもあるだろう。
――― 本記事は、高齢者とのコミュニケーションにおいてイラっとする理由を考察してみたが、他にも考えられる要素はある。それを挙げているとキリがないので、今回はここまでとする。
まずは「高齢者に怒りやイライラすることはあっていい」ということ。
そして「怒りやイライラするのは、ついつい相手が高齢者として身体機能の低下を忘れてコミュニケーションをとってしまうから」が考えられるということである。
上記でもお伝えしたが、このように書いている私もイラっとする。自戒の意味も込めて本記事を投稿した次第である。
ここまで読んでいただき、感謝。
途中で読むのをやめた方へも、感謝。