ChatGPT、あなたは、これも出来るのね
やればやるほどChatGPTに軍配があがり人としてガッカリしそうな嫌な予感を抱えつつ、ビジネス教育領域でのChatGPTの能力を試す実験を続けます(自虐趣味になってきた?)。
前2回の実験報告はこちらです:
競争戦略の話題で2回続けたので、今度は人事施策で試してみます。
1.人事施策の『三題噺」を作らせてみた
企業の望ましい人事施策を考える上では、次の2つの理論が、従業員の動機づけに関する古典的な理論としてよく参照されてきました。
*ハーズバーグの動機づけ衛生理論
*マズローの欲求の五段階説
近年では、これに加えて
*エンゲージメント
が注目を集めています。
そこで、この3つを用いた「三題噺」として企業の人事施策の重要ポイントを考えてもらいました。それぞれの概要については、このあとにChatGPTが簡潔明瞭に整理してくれているので、そちらに譲ります。
2.実験内容
実験の内容は次の通りです。
2-1. ChatGPT への問いかけ
「エンゲージメント、動機づけ衛生理論、欲求の五段階説をもちいて、人事政策の重要ポイントを説明なさい」と、問いかけました。
2-2. ChatGPTの回答
以下に、回答を引用します。
[引用はじめ]
人事政策を考える上で、エンゲージメント(従業員の関与)、動機づけ衛生理論(ハーズバーグの二要因理論)、そして欲求の五段階説(マズローの欲求階層説)は、それぞれが従業員のやる気や満足度に関連する重要な視点を提供します。これらを組み合わせて説明すると、以下のようなポイントが挙げられます。
1. エンゲージメント:従業員の関与を高める
エンゲージメントは、従業員が仕事に対して感じる情熱やコミットメントを指します。エンゲージメントを高めることは、以下の理由で人事政策の重要な目標となります:
生産性向上: エンゲージメントが高い従業員は、自発的に高いパフォーマンスを発揮します。
離職率低下: 組織に愛着を感じることで、離職のリスクが低下します。
イノベーション促進: 強い関与心は新しいアイデアや改善提案を生み出します。
人事政策で重要なポイント:
明確なキャリアパスや成長の機会を提供する。
従業員の意見を尊重し、意思決定プロセスに参加させる。
公正な報酬体系を導入し、貢献度を正当に評価する。
2. 動機づけ衛生理論:満足要因と不満足要因の区別
ハーズバーグの動機づけ衛生理論は、仕事における満足と不満足を別々の要因で説明します。
衛生要因(不満足を防ぐ要因)
これが欠けると不満が生じるが、充足しても動機づけには繋がりにくい。例:給与、職場環境、人間関係。動機づけ要因(満足を促進する要因)
これが充足されることで、やる気や満足感が向上する。例:やりがい、達成感、自己成長の機会。
人事政策で重要なポイント:
衛生要因の管理: 公正な給与、快適な職場環境、適切な労働時間を確保し、不満足を軽減する。
動機づけ要因の提供: 目標を達成する喜びを感じられる仕事、責任を伴う役割、スキルアップの機会を提供する。
例: 「業績連動型インセンティブ」や「定期的なスキルアップ研修」を組み合わせることで、従業員のやる気を引き出す。
3. 欲求の五段階説:従業員の多様な欲求を考慮する
マズローの欲求階層説は、人間の欲求を以下の5つの段階に分けます。
①生理的欲求 → ②安全の欲求 → ③社会的欲求 → ④承認の欲求 → ⑤自己実現の欲求
①生理的欲求・②安全の欲求:
基本的な生活を支える給与や福利厚生、職場の安全性を確保する。例: 健康保険制度や産業医の設置。
③社会的欲求:
チームの一員であると感じられる仕組みを作る。例: チームビルディング活動、コミュニケーションを促進する社内イベント。
④承認の欲求:
達成や貢献が認められることを求める欲求に応える。例: 表彰制度やパフォーマンスレビューでのフィードバック。
⑤自己実現の欲求:
個人が持つ潜在能力を最大限に発揮できる場を提供する。例: リーダーシップ開発プログラム、自由なプロジェクト選択の機会。
人事政策で重要なポイント:
従業員一人ひとりの欲求の段階を考慮し、それぞれに応じた支援を行う。
従業員が「自己実現」に向かう過程を支えることが、組織全体の活力を高める。
4. 三つの理論を組み合わせた人事政策の方向性
これらの理論を統合して考えると、次のような人事政策が効果的です:
衛生要因を徹底的に管理(動機づけ衛生理論 & 欲求の五段階説の①②):
不満の要因を取り除くため、給与体系、福利厚生、労働環境を充実させる。動機づけ要因でエンゲージメントを高める(動機づけ衛生理論 & 欲求の③④⑤):
達成感、成長、やりがいを重視した業務設計を行い、承認欲求や自己実現欲求を満たす。従業員の意見を反映(エンゲージメントの視点):
定期的なアンケートやミーティングを通じて、従業員の声を吸い上げ、政策に反映する。
結論
人事政策においては、 基本的な欲求(衛生要因)を満たしつつ、動機づけ要因を活用してエンゲージメントを高める ことが重要です。特に、従業員一人ひとりのキャリアの可能性を広げ、組織の一員としての帰属感を育むことが、持続的な成長と成功につながるでしょう。
4o
[引用おわり]
2-3. ChatGPTの回答に対する私の評価
模範的と言ってよいと思います。それぞれの理論を簡潔明瞭に説明した上で、そこから導かれる望ましい人事施策を提示し、最後に、3つの理論を総合的に勘案しての施策を提起しています。
形式・内容ともに申し分なく、私ならこのまま研修テキストに採用します。もちろん、ChatGPT製と明示しますが。
3.ChatGPTは、ユーザーの「器」を試すものでもある
先の評価を書いていて、私の頭をよぎった思いがあります。それは、
※私よりも、もっと優秀な人だったら、違う評価を下すのではないか?
ということです。「もっと優秀」の内容を具体的に言うと、
(1)3つの理論について、私よりも深く理解している
(2)人事施策を立案施行した経験があり、実務的な観点から評価できる
ということです。(2)についてですが、私は人事部門の経験はありますが、既存制度の運用しか経験していません。その中で様々な問題意識を持ちましたが、それを活かして新しい施策を立案施行するには至りませんでした。
上で挙げたような優秀な人は、ChatGPTの回答に多くの誤解や抜けがあることを指摘するかもしれません。少なくとも、軽々に「模範的」などという評価を下すことはないのではないでしょうか?
つまり、ユーザーである私は、ChatGPTに問いかけ、それに対する回答を評価することで、私自身のビジネス教育者としての「器」を露呈しているわけです。
「三題噺」というフォーマットでは、ChatGPTへの問いかけは誰がやっても似たようなものになると思いますが、もっと自由にChatGPTに人事施策を考えさせる場合には、ユーザーの「器」に応じて問いかけの仕方と内容が変わり、それによってChatGPTが発揮する力も変わってくると考えられます。
かつて坂本龍馬は、西郷隆盛を
小さく叩けば小さく響き、大きく叩けば大きく響く人物
と評したと伝えられています。
ChatGPTも、ユーザーの叩き方によって響きを変える存在であり、ユーザーの叩き方にユーザーの「器」が現れるものなのかもしれません。
ここまでお付き合いいただき、ありがとうございました。
いったん心折れかけましたが、気を取り直しました。これからもChatGPTの能力を確かめる実験を続けていきます。引き続き、よろしくお願いいたします。
ここまではことごとくChatGPTに軍配が上がる恰好でしたが、次の記事では、人間にしかできない覚悟について論じました。ご覧いただけると幸いです。