2023年5月に読んだ本
1 ダンティール・W・モニーズ『ミルク・ブラッド・ヒート』押野素子訳★★★★★
巻頭の表題作、冒頭の一文から尖りすぎている。
「ピンクは女の子の色」。キーラはそう言うと、エイヴァと一緒に手のひらを切りつけ、ミルクがいっぱい入った浅いボウルに血を滴らせる。
最高。少女たちの残酷さ、複雑で面倒な関係、リアルな取引にゾクゾクする。女性は強さと弱さ、精神と身体、アンビバレントな欲望の極を振幅する。彼女たちはフラジールなのにタフだ。愛溢れる辛辣な語りにもっともっと振り回されたい。一度読んだら大好きになってしまう、そんな小説だった。アメリカ文学、特にルシア・ベルリンやミランダ・ジュライが好きな人は必読。
2 高原英理『詩歌探偵フラヌール』★★★☆☆
大学生の女の子と男の子のメリとジュンが詩歌を探して街を歩きまわる。独特のゆるっとふわっとしたしゃべり方が和む。東京の地名を文字った地名が出てくるが世界観は童話みたいで、ちょっとレイトン教授みたいな感じ。不思議な読書体験だった。
3 赤染晶子『じゃむパンの日』★★★☆☆
帯に「時を超えて生まれ育った京都へのおもい」と書いてあったので、京都大好きエッセイかと思ったのだけど、京都生まれで京都在住だから必然的に京都の話は多いものの、別にそんなことはなかった。
4 國松絵梨『たましいの移動』★★★☆☆
すいません、特筆すべきことがない。
5 水野しず『かくて生命は反目する』★★★★★
面白い。もっと読みたい。自費出版だから誤字が多くてもしょうがないのだけど、また商業出版で『親切人間論』みたいに出してほしい。
6 パトリック・マッケイブ『ブッチャー・ボーイ』矢口誠訳★★★★★
主人公の少年フランシーがどんどんと自分だけの狂気と妄想の世界へと入っていく、そのさまが何とも悲しい。しかしその凄まじい語りは人を読ませる、圧倒的なドライブ感。何でそんなことしちゃうんだよとキレて殴り飛ばしてくなる。あまり有名ではないが、名作。
7 千葉雅也『エレクトリック』★★★★☆
主人公は高校生だが、これは確実にある程度歳を取ってからでないと書けない小説だと思った。父、母、自分、妹からなる家族の微妙なパワーバランスについての描写が、あるあるでありつつ、なかなか言語化できない部分を言語化している。インターネット黎明期に自分が高校生で、しかもそのインターネットにアクセスできる環境にあったとしたら。私がインターネットをはじめて触ったときとは全く比にならない興奮があっただろう。インターネットと東京が夢として憧れとして未来としてある、そんな高校時代。羨ましい。私には全部なかった。