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2022年6月に読んだ本

先月よりは早いが遅い。

1 星野源『働く男』★★☆☆☆

音楽家・俳優・文筆家である星野源の仕事を本人がゆるっとまとめた本、みたいな感じか。荻窪のブックオフで購入。
正直ファン以外が読んで面白い本ではあまりない。しかしこの本を書き終えてすぐくも膜下出血で倒れ、文庫化のはじめには復活後に書いている。この本にはくも膜下以前のワーカホリックだった星野源の仕事が詰まっている。

2 佐川恭一『シン・サークルクラッシャー麻紀』★★★☆☆

ずっと読みたかったサークルクラッシャー麻紀!文フリで購入。
登場人物すべてが空っぽ。ろくな内面がないのだが、麻紀の内面のなさは凄い。童貞は女に内面など求めていないのである。これだったらヤリマン張本人から女友達として話を聞く方がよっぽど面白い。男側から書くヤリマンはただの偶像崇拝。だから面白くない。そして麻紀、内面がないだけでなくほとんど出てこない。全然出てこないじゃん…。拍子抜け。
佐川恭介は全体的にそうだが、小説が書けない人が無理やり小説を書いたって感じ。良くも悪くも上手さがまるでない。私は黒ギャルのAVを観ている描写がとても好きだった。佐川恭介のAVレビューが読みたい。

3 沖田瑞穂『すごい神話 現代人のための神話学53講』★★★★☆

新宿・紀伊國屋で購入。
神話の構造が現代のフィクションにも生きていることが分かる面白い本。基本的なフィクションの構造はほとんど神話で網羅されているのかも知れないと思った。

4 能町みね子『トロピカル性転換ツアー』★★☆☆☆

荻窪・ブックオフで購入。
初期の能町みね子は文体のテンションが高い。トロピカルと言いながらさらっと死にかけている。挿絵がかわいい。

5 米原万里『嘘つきアーニャの真っ赤な真実』★★★★★

これも荻窪・ブックオフ。荻窪のブックオフはでかい。
やはり米原万里はすごい。ストーリー展開もそこらの小説より断然面白い。きめ細やかで過不足ない描写もここまで来ると名人芸。一人の人物に対する裏腹な感情をここまで鮮やかに描き出せるなんて、この人は小説家としてもやっていけただろう。全然良さを伝えられないのがもどかしい。

6 越智啓太『すばらしきアカデミックワールド オモシロ論文ではじめる心理学研究』★★★★☆

その名の通り心理学の面白論文を集めて紹介したもの。京都の恵文社一乗寺店で購入。
ウケる~だけであとは完全に読者に丸投げ、という本ではなく、割としっかり反証論文なども紹介してくれているのでそこそこ読みごたえもある。私が面白いと思ったのはまず「セルフィーを撮るとき人は左顔を見せやすい、世界中どこでも」。すぐ自分の自撮りを確認。たしかに左にバイアスがある気がする。「倫理学者は図書館の本を盗みやすい」とかもウケる。こういう本読みたかった!という企画本。

7 原口侑子『世界裁判放浪記』★★★☆☆

今年は裁判の傍聴をしてみたいと思っていたこともあり購入。買ったのはたしか新宿・紀伊國屋。
思ったより裁判の記録が雑。本当に観光ついでにちょろっと見て回っていただけなのか。通訳をつけているわけでもなく、一つの裁判を最初から最後まで見ているわけでもない。なので放浪記として読むのをオススメする。中年に差し掛かった人生に悩んでいる元弁護士の女性がアジアやアフリカを放浪する話として読んだ方がいい。番外編の東京地方裁判所の裁判員裁判のルポの方は裁判ルポとしても面白い。

8 年森瑛『N/A』★★★★★

千駄木の往来堂書店で購入。往来堂書店は西荻窪の今野書店と同じく、一見街の普通の本屋なのだが、選書が普通ではない。明らかによい。
2ページ目ですでに面白い。生理を止めるための低体重、自分の身体という一番身近な他者に対するコントロール欲が一番端的に現れる女性性の思春期、なぜ自分の身体なのにこんなに思い通りにならないのだろうか、血や涙を流すことはどこまでも屈辱的だ、辱しめられている、「かけがえのない他人」を希求しながら同時に見せる身近な他人に対する冷酷さ、クラスメイトに様づけで呼ばれるそういう距離の取られ方、上手い…、「姉さん」と呼ばれていたことを思い出した、同い年だし何なら早生まれだからまったく「姉さん」ではないのに、マジョリティのカウンターパートとしてマイノリティが一括りにされることへの自然な違和感、マイナーであってもマイノリティではないという立場を一番に擁護できるのが文学なのかもしれない、コロナや戦争、暗殺に対して正しい感情を持てない時代のリアルがさらっと書かれている。もしかしたら宇佐見りんより凄いかもしれないと私は思った。

9 クラリッセ・リスペクトル『星の時』福嶋伸洋訳★★★☆☆

装丁が美しくて目を引いたので購入。新宿・紀伊國屋。
帯のコピーには「ブラジルのヴァージニア・ウルフ」とあるが、社会階層はこちらの方が断然低い。しかしダロウェイ夫人を彷彿とさせる何かはある。何だろう。基本女が家から出ないからかな。そしてこれもどこからか分からないがはっきりと南米を感じる。これは気候からかな。誰にも語られることのなかったはずの女の人生が語られているとは思うが、語り手である男の口ぶりがどうも鬱陶しい。

10 ハン・ガン『引き出しに夕方をしまっておいた』★★☆☆☆

ハン・ガンの詩集。新宿・紀伊國屋で購入。
心を病んでいてかつひらたい言葉で書かれた詩集を求めているならオススメするが、それ以外の人に積極的にオススメしたい作品ではない。ハン・ガンはもっと先に読むべき作品があると思ってしまう。まあ私がまだ成熟していなくてやさしい詩が好きでないというだけかもしれないが。

11 岡田悠『10年間飲みかけの午後の紅茶に別れを告げたい 部屋をめぐる空想譚』★★★★★

恵文社一乗寺店で目星を付けていたものを、新宿の紀伊國屋書店で購入。
この本のせいできかんしゃトーマスにハマってしまった。地球の歩き方の詩的な一節も面白い。バブが溶ける音が1/fゆらぎとは。
面白いのは面白いのだけどWEBライターが書いた文章だなって感じ。その域から出ない感じはする。章末に挿入されている小説風の文章ははっきり言って拙すぎて面白くないのでいらない。この本の前にもう一冊単著を出しているようなのでそちらも読んでみようと思う。

12 奥谷孝司・岩井琢磨『マーケティングの新しい基本』★★★☆☆

珍しく仕事の本も。これは自分で買ってない。
今まで読んだこういう類の本のなかでは面白い方だった。ああたしかにこういうのが面白いと思われる時代ですよねって感じ。Amazonの真似なんて誰もできねえよってところをこういう解釈でこういう風にすればできなくもないんじゃないですか、実際にここはこんなことをやってこういう結果を出しています、と示してくれているような本。

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