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雨と、紫陽花と、その日の天使

レインブーツを買ってから、雨の日が楽しみになった。

雨の日にしか履けない特別な靴
。雨が靴を通り越して足先に染み込んでしまう心配もなく、無敵になれるアイテムだ。

傘も気に入ってる。(ずいぶんと使い古しているのだけど)
どんよりとした空模様にパッと色をさすような、オレンジの花が描かれた傘だ。

私は休日に雨がふるとよく一人でふらふらと歩きに出かける。ポケットにスマホとイヤホンだけ入れて、レインブーツを履いてお気に入りの傘をさしたらどこでも行ける気がするのだ。
身軽な格好をして歩いていると、心まで色んなしがらみから解放された気になれた。雨が色んな視線から私を隠し、雨音は周りの声を消してくれた。日常、色んなものを感じ取って疲れていたことに、ふと気づく。

私が美術館や音楽を好きなのも、似たような理由なのかもしれない。
集中するほど、色んなことから解放される。

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毎年この梅雨の時期は何をしていただろうと写真を遡っていたら5年前、この紫陽花をもらったときのことを思い出した。

いつものように休日に思い立って、一人で美術館に行っていた日のこと。美術館の前で偶然、よく一緒に遊ぶ、Twitterがきっかけで仲良くなった子に会ったのだ。
その子とはよく美術館やクラシックコンサートに行くのだが、好きなものが似ていて行動範囲も似ているので、同じ日に時間差で同じ場所にいることがよくあった。

「いつか会うと思ってた」なんて笑いながら予想できていた遭遇を喜んでいると、彼女は手に持っていた紫陽花を「あげるよー!」と、偶然会ったにもかかわらず私にくれたのだ。
”こんぺいとう”という品種らしい。たしかに星みたいだ。

じめじめした夏の空気も吹き飛ぶくらい、一気に明るい気分になった。
家に帰って紫陽花を花瓶に移しながら、今日の彼女は”その日の天使”だったなぁと思ったことを覚えている。

”一人の人間の一日には、必ず一人、「その日の天使」がついている。その天使は、日によって様々な容姿をもって現れる。少女であったり、子供であったり、酔っ払いであったり、警察官であったり、生まれて直ぐに死んでしまった、子犬であったり。”
―中島らも



偶然会った人の笑顔や、たまたま目に入ってきた言葉、おいしそうな夕食の匂いに姿を変えてその日の天使はやってくる。

あなたの今日の天使はどんな姿だったろうか。





今回引用した中島らもさんのエッセイはこちら。


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