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令和6年読書の記録 安部公房『箱男』

 ダンボール箱を頭からすっぽりとかぶり、都市を彷徨する箱男は、覗き窓から何を見つめるのだろう。一切の帰属を捨て去り、存在証明を放棄することで彼が求め、そして得たものは?贋箱男との錯綜した関係、看護婦との絶望的な愛。輝かしいイメージの連鎖と目まぐるしく転換する場面。読者を幻惑する幾つものトリックを仕掛けながら記述されてゆく、実験的精神溢れる書下ろし長編。

↑文庫巻末解説より

 アー写に親近感ある安部公房さん、今年なんと生誕100周年だそうです。だから最近やたら新潮文庫で安部公房の本が出版されているんですね。最近よく見るな〜と思っていたのにはちゃんと理由があったのです。

 今月23日には映画「箱男」が公開されます。監督は石井岳龍さん。安部公房自身、生前、石井監督に対して「娯楽にしてくれ」と託していたもので、実は97年にドイツで撮影される予定だったらしい。その時に出演するはずだった永瀬正敏さんと佐藤浩市さんは今回も出演するそうです。永瀬正敏さんは箱男!佐藤さんは軍医!贋箱男は浅野忠信さん!めちゃくちゃおもしろそうやん!

 というわけで、その情報を知った私は映画を観る前に読んでおきたかったので、『箱男』を読んだのでした。巻末の解説に書いてある「読者を幻惑する幾つものトリック」にまんまとハマってしまったため、途中から訳がわからなくなり、それでも無理やりに最後まで読み終えたわけなんですが、やっぱり訳がわからないので、もう一回読んでみようと思ってますが、それはそれとして、私は箱男っていうのが、実はそんなに奇妙な人間ではないのではないかとは思いました。覗き窓に半透明のビニール幕を垂らしたダンボールを頭からかぶり、街をうろつく危ない男。そうやって他人のことを覗き見る自分は何者であるかいっさい明かさない。ネット社会を生きる我々(主語が大きくてごめんなさい)はみんな箱男なのかもしれません。

 物語のなかでは、覗き見する側の箱男が見られる側になったりもするんですが、そうやっていつでも立場が逆転してしまう危うさというのも現代社会に通じる気がします。いまはわざわざ箱をかぶって彷徨わなくても自宅で手軽に箱男になれちゃう。そういう時代が箱男にとって望ましいのかどうかはわかりません。みんな見たり見られたりして暮らしていますが、見る専門で何の責任もなく生きていけたら、それはそれで楽だしやめられなくなりそうであり、箱男がいた時代は箱をかぶって街を彷徨わなければならなかったのが、いまは自宅から一歩も出ずに箱男になれるわけです。そういうことを考えながらもう一度読んでみると、幾つものトリックに幻惑されずに読めるかもしれません。

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