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令和6年読書の記録 安部公房『飛ぶ男』

ある夏の朝。時速2、3キロで滑空する物体がいた。『飛ぶ男』の出現である。目撃者は3人。暴力団の男、男性不信の女、とある中学教師......。突如発射された2発の銃弾は、飛ぶ男と中学教師を強く結び付け、奇妙な部屋へと女を誘う。世界文学の最先端として存在し続けた作家が、最期に創造した不条理の世界とは。死後フロッピーディスクに遺されていた表題作のほか「さまざまな父」を収録。

↑文庫版裏表紙の作品紹介引用

 安部公房さんは、ただただアー写(というのかわからんけど)に親近感を覚えるという理由で『砂の女』をコロナ初年あたりに読んだのがはじめて。それ以前からもちろん名前は知っていましたがなかなか読むにまで至りませんでした。アー写の親近感などという動機で読み始めるくらいならもっともっと前に別のきっかけで読み始めてもよさそうなものなのに不思議なものです。

親近感わくアー写



 『飛ぶ男』も不思議な話です。『砂の女』もそうですが、安部公房さんの物語はどうやら不条理でありえない舞台設定であるにもかかわらず、その設定が事実存在するかのようなリアリティある文体というのが特徴らしい。いや、上記2作品をもってのみそう判断するのは早計でありますが、どうやらそういうところはあるらしい。初期の初期の『題未定』とかいう短編集も読んだことがあるのですが、それも確かそんな風な作品集でした。もっとわけがわかりませんでしたが。
 『砂の女』も割と初期の作品だったはずですが、この『飛ぶ男』は晩年というか、未完の遺作なんですよね。おそらくここからまだまだ壮大かつ変態な物語が続くのであろうと想像できるところで終わってしまっているのが悲しい。『飛ぶ男』は『砂の女』と比べてみても、世界観の異常さ、アホさ、奇妙さはそのままに、『砂の女』よりも読みやすくなっていたように思います。あのレベルの文豪でも日々、文章がブラッシュアップされとるんやな、ということを思ったのですが、それは私がそう思っただけかもしれません。新潮文庫の新しいやつを買ったから字が大きくて読みやすくなっていた、というだけかもしれない。

 『さまざまな父』では、父と息子が「透明人間になれる薬」と「空を飛べる薬」を分け合います。父が透明人間になり、息子が空を飛べる薬を手に入れるのですが、この息子が『飛ぶ男』になるわけですよね。そうじゃないのかな。透明人間になった父は服は透明にならないので裸にならないといけないし、何かを食べたら喉から体内に入っていく様子は丸見えだったりするから、結構大変だったりするのが面白い。そういう描写の一つ一つが『砂の女』の時よりも上手になってる気がするんですよね。どうなんでしょう。なんにせよ、新潮文庫の新しいやつ、めちゃくちゃ読みやすくてありがたいです。私の著書『1人目の客』も、これを読んだあとに作ったらもっとフォントを大きくしてたよ。大きい文字は読みやすい。
 読みにくい本を読んで「面白い」とおっしゃっていただいた皆さん、本当にありがとうございます。次はもっと読みやすくて面白い本を作りたいと思います。安部公房さんでさえ、死ぬまで成長しておりました。成長途上の私の伸び代はすごいと思います。今後とも、よろしくお願いいたします。

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というわけで、字は小さいけど面白いと評判の私の著書『1人目の客』とかわいいけど全然売れないでおなじみ1人目の客Tシャツはウェブショップ「暇書房」でお買い求めいただけます。

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