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山崎ナオコーラさんと鷲尾龍華さんの対談の1人目の客になれなかった話

 趣味はオープンしたお店の1人目の客になることです。近頃はNHK大河ドラマ「光る君へ」を観るのも生きる楽しみの一つになっております。源氏物語の作者・紫式部を主人公に据えたこのお話のおかげで、人生何度目かの源氏物語ブームが私のなかに巻き起こりました。

 最初は高校の古典の授業だったと思いますが、その後も田辺聖子さんの源氏物語に関する講義を書籍化したものや、現代の作家さんたちが大胆な現代訳に挑んだオムニバス短編集(タイトル忘れたけどこれもかなり面白かった)を読んだり、源氏物語そのものを最初から最後まで全部読んだことはないのですが、ある程度内容は知っております。子供の頃、プレーしたことないくせに攻略本の知識だけでドラゴンクエストについてめちゃくちゃ詳しいやつがいましたが、私はちょうど源氏物語について、あんな感じです。そこまで詳しくないのがかっこわるいのですが。

 なので、「末摘花?あー、あの不細工の話やろ?」「匂宮っていつも薫の邪魔して腹立つよな!」「明石の姫君って自分の子供を育てられないのかわいそうすぎひん?ていうか、他人の子を押しつけられる紫上の心情よ」「葵祭の場面、六条御息所の立場やったら俺、悲しすぎて立ち直れへん」などと知ったような口をきくことはできるのです。もっと勉強したい気持ちもありつつ、ほかのいろんなことにも興味があるのでそこばかり見つめていられない、そんな私をグッと源氏物語の世界へ誘ってくれたのが山崎ナオコーラさんの『ミライの源氏物語』です。

 当然のことながら源氏物語は平安時代に書かれたものなので、当時の倫理観で書かれています。現在の倫理観で読むと「?」と思う箇所が散見され、時に憤りを覚えることさえあります。光源氏の色恋は今でいうところの「不倫」だったり、もっとひどいとどうみても「性暴力」でしかない場面もあります。
 私は昔からその手の描写を「今だったらアウトだけど当時はそういう時代だった」としてそれからは思考停止して読んでおりましたが、例え当時の倫理観でそれらが「あり」であったとしても、例えば不倫された側の女性たちが全く心に傷を持たず、平気で暮らしていたのかといえば決してそんなことはないはずで、そういう「当然のこと」について、『ミライの源氏物語』は改めて向き合わせてくれました。

 そうかといってナオコーラさんは今の倫理観でもって光源氏の行いを断罪するのではなく、作者である紫式部がどんなことを考えながら執筆していたのかについて思いを馳せながら、優しい眼差しでもって、紫式部や彼女の描いた源氏物語のなかの世界について理解を示しつつ、その世界観について「おかしいやろ」という人たちの思いにも寄り添い、「いまを生きる私たちにはこういう読み方もできますよね」ということを教えてくれます。よくお金に汚いけど能力は高い政治家の先生のことを「清濁併せ呑む」なんて言いますけど、あんなのは悪いことをする奴らの誤魔化しに過ぎないわけなんですが、山崎ナオコーラさんの源氏物語の読み方を読んでおりますと、本来、こういうのを「清濁併せ呑む」と言うんじゃないのかしら、と思ったりもしました。

なんかいろいろ書いたけど
とにかく面白いですから!



 さて。
 なぜ、私がそんなことを延々と書き連ねているのかといいますと、本日、京都新聞社7階にて山崎ナオコーラさんと石山寺座主の鷲尾龍華さんの対談が18時から開催されるんです。
 それの1人目の客になるべく、17時10分頃には京都新聞社のある烏丸丸太町近辺にやってきたのですが、お腹が空いたのと、さすがに早すぎるのとがあり、近所のなか卯に入り、ざるそばの大盛りを注文したのですが、「これが大盛り?」っていうくらいささやかな量であったので、「これ大盛りですか」と店員さんに聞いてみたら当然ですよという雰囲気で「はい、そうです」とおっしゃったので、それならやむを得ないと諦め、三口ほどで食べ終えて京都新聞社へ向かいますと、まだ7階へ直通のエレベーターがある入口は閉まっており、中へ入れなかったのですが、とりあえず私はその入口前に「1人目」に待機したので、ここに暫定的ではありますが、今回の講演会の1人目の客を確定させました。

 それからすぐに係のおじさんが入口の鍵を開けてくださり、私は私の後ろに並んでいたおじいさん二人と一緒にエレベーターに乗り、7階で降りると「受付」のところにスタッフさんが数人待ち構えておられ、そのうちの1人の男性はどうやら私の「1人目の客Tシャツ」に気づいたようなのですが、気づかないふりをしておられました。
「18時からですのでしばらくこちらでお待ちください」といって案内されたのは受付のすぐ隣にある待合スペースで、私は間違いなく1人目に受付を済ませられるように、受付にいちばん近い椅子に座りました。
 私と一緒にエレベーターに乗ったおじいさん二人は私の対面、エレベーター寄りの椅子に着席されたので、安心した私はお手洗いへ行き、用を足してからおそらく二分もかからぬうちに待合スペースへ戻ったのですが、私が座っていた受付にいちばん近い椅子のところにはご婦人が二人着席してしまわれていました。

 開場してすぐに起立して早歩きで受付へ向かうという若干大人気ないことをすれば1人目の客にはなれるのでしょうけど、そんなことをしたら1ミリの悪気もないご婦人たちはさぞかし驚いてしまうであろうし、あまり品のいい行いでもないから、とりあえず、この待合スペースにやってきた1人目の客は私であるということで自らを納得させることにしました。

 18時の開場前に20人ほど座れる待合スペースはほぼ満席になってしまいました。ここにおられる皆さん全員がおそらく「ミライの源氏物語』に感銘を受けたのであろうと思うと1人目の客がどうだとか、どうでもよくなってきます。開場を待つ間、スマートフォンを触っているのは私くらいのもので、皆さん思い思いに読書されている姿も微笑ましかった。

 令和6年6月14日、18時30分から京都新聞社で開催される鷲尾龍華さんと山崎ナオコーラさんの対談の待合スペースに1人目に座ったのは私です。


1人目の客にはなれませんでした。

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 そんな私のオープンしたお店の1人目の客になる活動についてまとめた書籍『1人目の客』と、先日ついに初めて売れた「1人目の客Tシャツ」はウェブショップ「暇書房」でお買い求めいただけます。

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