令和6年読書の記録『地球にちりばめられて』
留学中に故郷の島国が消滅してしまった女性Hirukoは、大陸で生き抜くため、独自の言語(パンスカ)をつくり出した。テレビに出演したHirukoを観て、言語学を研究する青年クヌートは放送局に電話をかける。意気投合したふたりは、世界のどこかにいるはずの、自分と同じ母語を話す者を探す旅に出る。※以上文庫裏表紙より
『地球にちりばめられて』は若者たちの言語をめぐる旅を描く三部作の一部めです。確かコロナの1年目に読みまして、めちゃくちゃ面白いから早く二部が文庫にならんか、と待ち侘びておったところ、いつの間にか二部の『星に仄めかされて』は文庫化されており、それを昨年末に購入しましたので、二部を読み始める前に一部をおさらいしておこうと改めて読んだ次第です。
言語学者のクヌートが、パンスカを話すHirukoと出会い、二人は男性から女性へと「性のお引越し」をしているインド人のアカッシュや、エスキモーなのに故あってHirukoと同じ、いまは沈んでしまった島国出身の鮨職人を演じているナヌークたちと交流し、時にドイツ語、時に英語、そしてパンスカや沈没した島国(日本)の言語などで語らいながら、旅をする様が、ロールプレイングゲームをしているみたいで面白い。
やがて彼ら一行はHirukoの故郷である島国の言語を探す旅へ出発することになるのですが、こういう話を読んでいると、日本という国に日本語しか無いことが不思議に思えるし、本当は日本にもアイヌ語があり、沖縄語があり、宮古語と八重山語は別とされることもあるのに、「日本という国には日本語しかない」と書いても多くの日本人が違和感なくこの文章を通り過ぎてしまうかもしれないことの危うさを感じたりもする。
言語から言語へ旅をすることの面白さは、別にどっぷり語学を勉強していなくとも、それは例えば「愛してる」の言いにくさと「I love you」の口にしやすさを比べるだけでもわかる。中学英語を学ぶだけでも、意外と体感しているもので、これは、その体感をぐぐっと広げて深めてかき混ぜて物語に仕立て上げたような小説なのかもしれない。多和田葉子さんは、言語と言語を往来することによって浮かび上がる意味の齟齬で遊びながらリズミカルな文章を書くのが天才的に上手いからにやにやしながら読んでしまう。せっかく一部を復習したんだから、早めに二部を読み始めないといけない。
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