【書評】『都市と水』(岩波新書) 高橋裕 著
0.はじめに
高橋裕 『都市と水』を読みました。古めの岩波新書なので、新刊書店では扱っていないかもしれません。確か青森石江のブックオフで買ったものだと思います。
著者は河川工学を専攻し、『国土の変貌と水害』『自然の猛威』『クルマ社会と水害』などの本も書いています。
全5章の構成です。
・「水の戦後史」
・「都市化と水害の変貌」
・「水をどう利用するか」
・「自然の水循環をもとめて」
・「都市化社会の水文化」
となっています。
本稿では3章まで簡単に要約して紹介します。
1.要約・感想
1章
水の戦後史は便宜上3つの時期に分けられる、と著者は言います。
第1期は1945~59年。戦後の混乱から復興、そして高度成長の時代で、水害が多かった時代。洪水対策が優先される「治水」の時代でした。
第2期は1960~72年。高度成長全盛期で、都市への人口集中が加速し、工業・生活用水の需要が急激に増加。水不足が発生したため、水資源開発が焦眉の急となった「利水」の時代。
第3期は1973~現在(1988)。オイルショック以後の安定成長時代で景気後退、都市への人口集中はやや沈静化します。
それまでの経済至上主義的な開発姿勢への反省も生まれ、水と緑のまちづくりが流行。「水環境重視」の時代となりました。
河川工事のみならず、流域全体を治水の対象とする「総合治水」の概念が確立しました。
戦後の著しい住宅開発は地価の安さ、交通の便の良さが優先され、災害への耐久性はあまり評価されなかったようです。水害が起きても、そうした点は問題視されず、豪雨の激しさばかりが問題にされていたとのこと。
東京への一極集中はひどく、住宅不足が深刻化しており、宅地の災害適応力を考える余裕がなかったのかもしれません。
干拓につぐ干拓で低湿地を埋め立てることで地盤沈下が発生。それが災害の温床となりました。地下水の過剰取水も土地が災害に弱くなる原因に。
著者は、かつての水害と現代の水害、それぞれの原因を区別すべきだと主張します。なぜなら、土地の利用や開発の方法により、災害の程度も変わってくるからです。
1964年の東京オリンピックでは水不足が問題視され、多摩川だけでは足りず利根川の水も必要となりました。
東京の水不足問題はやがて地方の工業都市にも波及。ダム建設がブームとなります。
しかし、ダムの恩恵を受けるのは下流側の人間だけであり、上流側の人間は町の水没を甘受しなければなりません。これが社会問題となります。
その後、総合的な治水対策が施されますが、家庭や飲食店からの汚濁の比重が大きくなり、非常に広範囲かつ不特定だったため、対策に頭を抱えることになります。
治水・利水・水環境の保全は水の三本柱であるが、1つを重視すると他の都合が悪くなるという厄介な問題があることも指摘。その複雑かつ煩雑な問題にどう対応するか、それが重要だということです。
2章
1982年の長崎水害を例に、都市災害の特徴と対策を紹介しています。
ライフラインの発達によって生活は便利になりましたが、依存しているがゆえに、一度それが被災すると被害が拡大することが問題視されています。ライフラインが機能しなくなることを想定しておかなければならない、と著者は述べます。
治水技術の発達により、堤防ぎりぎりまで土地利用が可能になったものの、一旦洪水が起きると昔以上に被害が出るため、防災設備を過信することに警鐘を鳴らします。
長崎水害においては放置自転車が緊急車両の妨げとなり、救命・復旧に遅れが生じたらしいです。また、自動車の燃費や排気ガスは改善されているものの、洪水対策が考慮されていないことを問題としています。
電話の普及も、災害拡大の温床になったと考えています。被害が起きると住民から電話がひっきりなしにかかってきて、職務上必要な電話をすることができなくなる、と言います。
もちろん、貴重な情報を貰うこともあるが、大抵は防災業務の邪魔になるらしいです。
電話については現代の方がより発達しているので、この警告は肝に銘じるべきだと思いました。
これは情報化社会ゆえの災害であると著者は分析。電話一本で何でもできる反面、それが災害復旧の邪魔になることもある。電話がなければ、身の回りで解決できた可能性が大きいはずだ、と著者は考えているようです。
テレビで長崎の様子が放送されると、全国から被災地の人の安否を尋ねる電話が殺到。その大半は緊急を要するものではなく、生死を分ける人々の受信機会を奪ってしまったと言います。
これも気を付けなければなりませんね。
そして貯水池や多目的遊水地などの都市治水の例を紹介。地域ごとの防災対策についても触れています。
3章
1973年のオイルショックを機に、水資源も大量消費から省資源、合理的利用への移行が進められました。
80年代後半からの異常気象や少雨現象によって利用可能な水資源も減少傾向にあると指摘します。ただし、ダム建設が進むことで渇水被害もまた少なくなるため、実感被害は少なく感じられるようです。
農業高度化によって季節に関係なく野菜を栽培できるようになりましたが、それに伴い、年間を通じて水が必要となり、大量消費を促す結果となりました。
渇水に備えて貯水しておくことは可能ですが、そうすると平年の水使用量が制限され、利用効率が悪くなります。そのため、渇水時のみの利用を目的とした「渇水対策ダム」の建設計画が提案されました。
しかし、ダム建設のみで水需要を賄いきれないのも事実で、他の方法を考えていく必要があります。
その方法が水の再利用。石炭・石油とは異なり、利用後元の水質・水温に戻すことで水は再利用が可能です。その具体例がいくつか紹介されています。
まずは水道用水の雑用水利用についてです。上水道より水質の劣る水を、低水質でも構わない用途に再利用することを言います。元々水道水のうち、飲料はわずか1%、料理を加えても数%ほどしかないため、大部分の水利用においてはそこまで良い水質を必要としないのです。
ただ雑用水を再利用する場合、上水道とは別に配管が必要となるため、既存の建物の場合、改造は難しいです。そのため現実的には、新築のさいに予め二重配管することで、雑用水利用が可能な建物を作る方法が採用されます。
2.おわりに
『都市と水』の紹介でした。文明が発達すればするほど、水害の脅威も大きくなります。昨今の都市開発を見ていますと、どうも金儲けのことばかりで、災害への対策がおろそかになっている気がします。住民の防災意識も低くなってはいないでしょうか。
本著をよく読み、水害に備えたまちづくり、暮らしを目指してみませんか?
以上で紹介を終わります。最後までお読みいただき、ありがとうございました。
興味を持った方はサポートお願いします! いただいたサポートは記事作成・発見のために 使わせていただきます!