『和名類聚抄』で「〇〇」を調べてみた【番外編】
先日、折口信夫さんの『辞書』という随筆の朗読をstand.fmに上げた。下の簡単な解説記事でもお聞きいただける。
この文章の中に『和名類聚抄』(略して『和名抄』)という辞書が登場する。平安時代中期に編纂された。およそ千年前である。これがなんとWebで見ることができるのである!
『和名抄』自体は別の記事で紹介しているのでそちらを参考されたい。
すべて漢字で書かれているため読み解くのは容易ではないが、身近な単語の中には意味が取りやすいものもあるのではないだろうかと思い。
例1 膝
例としてまずは「膝」を取り上げよう。二十巻本では巻第三にある。
(*[]内は二段組で書かれている。以下同じ)
この辞書の形式について見てみよう。現代の辞書と同じく、見出し語が最初に置かれている。その後に説明が続くことも同じである。
説明の初めにはその言葉の出典が来る。大抵は中国の書物である。ここでは「野王」が相当する。「野王」は人名で漢語辞書『玉篇』の編者「顧 野王(こ やおう)」を指すと思われる。王という字が入っているが、皇帝ではなく学者であるとのこと。
次に[]で示した箇所を見よう。二段組の部分には語の(訓)読みが万葉仮名で書かれている。「音はヒザ」である。
その後に語釈ないしは解説が来る。正確な読みはわからないが、すね頭という説明は言い得て妙だと思う。
例2 膕
膝の裏のくぼんだ部分の名前をご存知だろうか。漢字では「膕」と書く。足の部位であるので、「膝」の近くにある。
まず意味は「曲(がる)脚の中なり」であろう。わかりやすい説明だ。
和名を見よう。万葉仮名で「ヨホロ」と書いてある。聞き慣れないかもしれない。それもそのはず、特殊な変換ソフトでない限り「よほろ」では「膕」と変換されないのだ。「膕」は「ひかがみ」で変換できる。
問題は『大素經』が何かわからないということ。とりあえずググってみたが、『黄帝内経』がヒットした。Wikipediaを見てみると、なるほど『黄帝内経太素』という写本があるらしい。これもWebで読めるのか!
……うん、この原稿を仕上げてからにしよう。
例3 鰐
前2つとはうって変わって「鰐」を調べてみよう。二十巻本では巻第十九にある。
『切韻』は漢字の発音と意味を示した中国の字書である。
和名は「ワニ」であるとはっきりと記されている。ちなみに「鱷」も「わに」を指す。
その後の説明をわかる範囲で書くと、「鼈に似て四本の足があり、喙の長さは三尺、歯はとても鋭く、虎および大きい鹿が水を渡るのを襲う」……怖い。絵本『わにのだんす』のだんすわにはそうではないと思う。
参考資料
今野真二「辞書をよむ」平凡社新書、2014
加藤良平「古事記・日本書紀・万葉集を読む」(最終閲覧:2022年2月21日)