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ありえない未来とは思えない。キッズファイヤードットコムを読んで。

海猫沢めろんさんの新刊『キッズファイヤー・ドットコム』読みました。

あらすじ

新宿歌舞伎町のカリスマホスト白鳥神威。ある日仕事終わりに家に帰ると玄関の前にベビーかに乗った生まれて間もない赤ちゃんが。赤ちゃんを育てるために、友人のIT社長・三國孔明に協力してもらい、クラウドファンディングサイト「KIDS-FIRE.COM」を立ち上げて「ソーシャル子育て」をしようとする主人公白鳥。もちろん炎上しまくるんだけど、炎上したことにより世界中にサイトの存在が認知されていく。果たしてこのサービスは世界にどのような影響を表していくのか...といった内容。


クラウドファンディングリターン内容

子供一人育てるのに3000万円かかるということで、クラウドファンディングの設定金額は5000万円。
内容としては、

【基本プラン】50万円
・動画メッセージ
・非公開のブログで子供の状態がチェックできる
・設置型カメラでいつでも子供の顔が見れる

【ゴッドファーザープラン】1500万円 
基本プラン + 命名権。子供にあなたの好きな名前をつけることができます。

【小学校プラン】1000万円
・小学校6年間の基本プラン+ランドセルがプレゼントできる
・中学校受験進路への介入が可能。
・抜けた乳歯がもらえる。

【中学プラン】10万円
・中学校3年間の基本プラン
・説教する権利

等々、子どものプライバシーなんのその、子供を一緒に育てられるようなリターンになっています。

ちなみに、小学校プランは1000万円なのに対して、中学校以降は10万円と値段が格段に安くなっているのですが、これは、中学生くらいになると子供は単なるクソガキだからだそう。あとは介護重要なので介護プランは1億円と破格の値段。

おすすめポイント1:スーパーポジティブ痛快主人公 白鳥神威

何と言っても主人公が良いです。

新宿歌舞伎町のカリスマホストであり、超ポジティブ人間。失敗することよりも成長しなくなることを恐れ、ちょっとでも大変なことが起こると、なんでも与えられた試練だと感じ取り、成長のチャンスだと受け取ります。

(ファミレスでカレーを頼んだのにスプーンが付いてなかった時も、手で食べるように仲間に言ったり)

そのせいか、玄関に置き去りにされた赤ちゃんを見ても、警察に届けるということはせずに、「よし、育てるか」という考えにすぐ切り替わります。


おすすめポイント2:文章から溢れ出る子育てあるある

海猫沢めろんさんも6歳のお子さんがいるらしく、子育ての描写はとても素晴らしく、リアリティに溢れています。

一番好きな描写はこちら。

やっと一段落ついたと思ったら、どこからともなく炊きたてのご飯のような匂いが漂ってきた。赤ん坊を見ると、おむつの脇からこぼれた黄色い便が、雪豹の毛皮を汚していた。

これは本当に。同じこと思っている人がいたので興奮して寝ている妻を起こしてしまった。(よくない)

また、例えば自分は普通の仕事はしていないと認識しているので、普通や常識といったものにはとらわれない性格のはずなのですが、赤ちゃんのことになると、こんなに夜泣きするのは普通なのか?とか常識と比べてしまうところとか。
(こういったことは作家の樋口毅宏さんも著作の「おっぱいがほしい」でも言っていたような気が)

他にも「赤ちゃんはこの世界全てがトイレである」という名言が出たり、オムツを探して夜の街を徘徊したり、子供禁止の飲食店に憤る話など、子育てあるあるがいたるところに散りばめられております。


おすすめポイント3:これはフィクションなのか?という話

もちろんフィクションなのですが、こういう未来がきてもおかしくないんじゃないかな?という感じはします。

実際に2013年に、借金35万円の妊婦さんが、twitterで口座を晒してお金を集めたこととかありました。

参考:http://www.ikedahayato.com/20131212/1588592.html

今まではご近所さんで協力していた教育。現代はもう少し踏み込んで、世界中の人から支援を集める「ソーシャル子育て」というのは、もはやこの国の課題なのかもしれないと思ってしまいます。


おまけ:6年後の現状を描いている。

そしてこの本、「クラウドファンディングが成功しました」だけでは終わっていないのがにくいですね。同時掲載の2作品目の「キャッチャーインザトゥルース」では、クラウドファンディングが行われてから6年後の2021年の状況が描かれています。

その後、ソーシャル子育てで成長した赤ちゃんはどのように育っているのか、白鳥は?三國は?それぞれのその後がしっかりと書かれています。また、2021年といえば東京オリンピックの次の年。その辺のことや、豊洲市場のことなども書かれており非常に面白い内容となっています。

そしてこのキャッチャーインザトゥルースの中で、その子供(KJ)がクラウドファンディングで唯一売らなかったものがあると言います。いったい何が売られなかったのか。そこがこの物語、ソーシャル子育てののキーポイントではないでしょうか。


最後に:

子育てというものは、もはや親だけで行う時代ではなくなっているのかもしれません。しかし一方では、産んだからにはしっかり育てなきゃいけないという現実もあります。

ただ現状の少子化について、こういう問題があるよ。じゃあ世間で何かできないかな。という「現状の不満や不安を何か変えることはできないかな」っていうのを考えて実行するのが社会の役割だと思います。みんなで優しい未来を作れるようにしていくことが大事なのではないかと思います。

また、子育てで一番辛いのは「孤独」だと思います。その孤独を一瞬でも和らげられるような、辛い時に肩をポンと叩いてくれるような、そんな存在は必要なのではないかと思っています。

この本がそんな存在のような、近くで寄り添ってくれるような感覚を、本を読んで覚えました。

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Koshi Kagawa
読んでいただきありがとうございます。

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