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#1 入社初日 〜期待と衝撃〜

通勤ラッシュを文字通り肌で感じ、降り立つそこは、まさに都会のビジネス街、高いビル群を見上げ、これからここで働くのかと期待と不安が入り混じる。

足早に行き交うサラリーマンの中には、着慣れないスーツを身に纏い、緊張した面持ちで、いかにも新社会人といった若者が僕以外にもちらほら混じっている。

まだ見ぬ同期がこの中にいるかもと思うと少しワクワクする。

いよいよ今日が社会人生活、その第一歩!
僕の記念すべき入社初日だ!!

採用面接の時と同様に来客口からオフィスへ入ろうとすると就職活動中お世話になった総務部人事課長の田代さんがエントランスですでに待っていてくれた。

知った顔を見て、緊張で張り詰めていた気持ちが少しほぐれるような気がした。

田代さんの案内で会社の中に入り会議室に通された。

まだ他の同期は来ていないようだった。
部屋に入り、席につくなり早速、簡単なオリエンテーションが始まった。

そこでいきなり思いもよらない衝撃の事実が田代さんから告げれる。

「もう気づいてるとは思うけど……あのー、今年の新入社員澤村くん1人なんだよ(笑)」

(………………えっ???僕1人…??)

「いやーねー、実は澤村くんの内定が決まった後で会社の体制が変わることになってね」

(はっーぁ…?!えっ?どゆこと??) 

些細な問題であるかのように田代さんは笑顔で淡々と話を続ける。

「でも、安心して、体制が変わっても仕事内容はそのままだし、福利厚生も変わるわけじゃないからさ!あくまで体制上の話しだから!」

(いやいやいや、仕事内容とか、そうゆうことじゃなくて、新入社員が僕1人……)

(たしかに、僕が内定をもらった段階で他の人は決まっておらず、最初の内定者とは聞いていた。でも、今年の内定者第1号だって、2号、3号と続く言い方をしてたじゃないか!!例年は十数名程度採用してるって言ってたじゃないか!!)

(僕の思い描いていた社会人生活が……
同期と一緒にランチしたり、飲み行ったり、くだらない話とか、仕事の愚痴とか、熱い話しとか、できないってことか…??)

(女の子の同期なんかいたりしちゃったりして、可愛かったりしちゃったりして、なんかあったりなかったりしたりしなかったりするやつわ????)

(……いやいやいや!落ち着け!ここはわりとお堅い会社だ。別にもともと女の子とどうこうなんてのは期待はしてなかったが、が!しかしよ!それにしてもよ!それにしたって、まさか1人とは……)

僕は何も答えれず、ただ、頭の中で色んな考えがものすごいスピードで駆け巡っていた。

暫しの沈黙も気にならないほど、想定外の状況に頭の中は混乱し、目の前にいる田代さんからはただ、呆然としてるように見えていただろうか。

こんな時に冗談を言ってる訳ではないことは分かっている。しかし、どうにも受け入れられず、今更変わることのない事実を再度確認した。

「えっと……今年、この会社の新入社員は僕だけなんですか…?」

「そうなの!1人!
なんか寂しいよねー(笑)」

(いや、軽るぅーーー!!!)

ひと呼吸を置いて、状況を飲み込むために僕はまた質問した。

「会社の体制変わるからって僕1人というのは…どうゆう?」

「それはねー、会社の体制が正式に変わるのが、この4月からでさ、もちろんそれ以前には公表はできない訳よ。そうなると就活してる段階での採用情報と入社時の体制が違っちゃうから、まーウソの情報という訳ではないけど、採用段階ではこうゆう体制ですって学生に説明して、入社したら違ってますってわかってて採用を続けるわけにもいかないし、かと言ってその前に決まってた澤村くんの内定を取り消す訳にもいかなくてね。」

(なんかそれっぽい理由だけどもさ…、こうなると分かってたんなら教えてくれよー…そしたら、別の選択をしてたかもしれないのに…)

僕はもう1つ別の会社からも内定をもらっていた。
そちらの会社では営業職で採用されていた。
僕の性格や雰囲気はどちらかと言うと営業職向きだと思う。それを裏付けるように、社会人生活の中で幾度となく営業と勘違いされ、幾度となく技術っぽくないと言われることになる。

しかし、学生時代、好きでもない数学や物理の勉強を頑張って、一応、大学は理系の学部に進み、なんとか無事に卒業した。

就職活動では、職種にこだわらず受けていたが、最終的に営業職と技術職、1つずつ内定をもらえた。

どちらの会社もいわゆるちゃんとした会社でそれなりに名の通る会社と言う意味では大差ないように見えた。

単純に営業職技術職の2択で考えた時、せっかくここまで理系でやって来たんだからと言う思いもあったが、最終的にはどっちの方が自分にとって困難で挑戦的かという基準で熟考した結果、技術職で採用してくれた今の会社に入社することを決めた。

だけど!新入社員1人という寂しさや不安
までのしかかってくるとは想定外だよ!

(どーやら僕は選択を間違ったようだ……)

つい、そんな思いが込み上げてしまった。

それから、田代さんは何事も無かったかのように今後の流れや必要書類などの説明を進めたが、まったく内容が入ってこなかった…
ただ、新入社員1人、同期がいないという事実を飲み込むのに必死だった。ついさっきまでの期待やワクワクが完全に不安となり、背後から押し寄せて僕の背中は丸くなり、顔は下に向いていた。

「じゃこれから入社式だから!」

(えっ? あ、そりゃそーか…)

「1人なんだけどちゃんとやるからね!」

田代さんはどこか得意げにそう言って笑顔をみせた。僕の動揺など意に介さず、あえて淡々と進める田代さんに社会人としての厳しさを教えられている気がした。

(そーかー…1人の入社式になるかー、新入社員、僕1人なんだから当然そーなるかー…うわぁ…なんか嫌な予感するわ…)

不安と緊張が更に高まる中に田代さんに案内され、いざ入社式へ…


つづく

次のエピソードはこちらから!
#2入社式〜孤独との戦い〜」

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