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退職や転職などの大きな決断は、心が落ち着いているときに行おう(『荘子』徳充符篇)

今回取り上げるのは『荘子』徳充符篇からの言葉。

唯だ止のみ能く衆止を止む
(読み:タだシのみヨくシュウシをトドむ)

『荘子』徳充符篇

静かな心を持つことで、世界の真の姿を把握することができる、という意味。

つまり、物事の本質を見抜くには、まずは自分の心を落ち着かせなければならないということですね。


私は、人の心には一枚のフィルターがあると思っています。

自分の心の状態に応じて姿を変え、私たちの見るものに影響を与える、そんなフィルターです。

例えば、日常のありふれた風景を見た場合。

自分の心がポジティブなときは世界も明るく見えますが、心が疲れているときは逆に世界が灰色に見えたりします。

より正確に言うならば、色がついていることに気づかない感じでしょうか。

私の実体験としては、自分のメンタル不調が治ってはじめて、周囲の木々が鮮やかに色づいていたことに気づいた、という経験があります。

それまでは周囲の色が全く目に入っていなかったのです。

記憶を思い返してみても木々や空の色がはっきりせず、まるでモノクロ写真を見ているような気分になり、そこではじめて、今までは本当に調子が悪かったのだと実感しました。

同じものを見たとしても、そのときの自分のメンタル状態によって、物事の見え方・感じ方はガラッと変わってくるのです。


これは景色だけではなく、物事の捉え方でも同様だと思っています。

挨拶するタイミングを逃しただけなのに、「挨拶できない自分はダメだ……」と感じたり、普段は気にしないような些細なミスで絶望感に陥ったりしたことはないでしょうか?

心の調子が悪いと、何でもない物事でも深刻に捉えやすいもの。

こういった心のフィルターが悪い方向に作用しているときには、大きな決断は避けた方が良いでしょう。

自分の心の調子に引っ張られて、物事の本質を見失っているからです。

荘子は以下のような例え話をします。

人は流水に鑑みる莫くして、止水に鑑みる
(ヒトはリュウスイにカンガみるナくして、シスイにカンガみる)

『荘子』徳充符篇

人は流れる水ではなく、静止した水を鏡として用いる、という意味。

漫画やアニメなどで、主人公が湖の水で自分の姿を確認するシーンがありますが、あれと同じです。

川の水面に自分の姿を映すことは難しいですが、静かな湖などであれば、湖面に自分の顔をはっきりと映し出すことができますよね。

心も同じこと。

心が荒れていたり、ざわついていたりすると、自分の考えをまとめることが難しくなります。

自分の目で見たことを、正しく心の水面に映すこともできません。

心が静かで澄み切っている様子のことを「明鏡止水」と呼びますが、そのような境地に立つことで、はじめて周囲の真の姿を捉えることができます。

そのため、荘子は「静かな心を持つこと」を大事にしているのです。

大事な決断をするときこそ、心のコンディションを整えましょう。

どうにもならないと感じていたことも、静かな心を持つことで解決策が見つかるかもしれません。

例えば、仕事が辛くて悩んでいる場合は、いきなり退職や転職をするのではなく、一回休職を挟んでみるのがおすすめです。

実際に私も休職をしたことがあります。

傷病手当金を受け取りながらメンタルを整えることができたので、きちんと自分の中で納得のいく決断をすることができました。

焦って決断するくらいなら、少しでも時間を稼いで、心を落ち着かせることを優先したほうが、後悔することが少なくなると思います。

唯だ止のみ能く衆止を止む
(読み:タだシのみヨくシュウシをトドむ)

『荘子』徳充符篇

静かな心を持つことで、世界の真の姿を把握することができる、という言葉をご紹介しました。

この時期は、新年度に向けてさまざまな決断をする方が多いと思います。

心の水面が穏やかになれば、周囲の物事の本質だけではなく、きっと自分の本当の気持ちにも気づくことができるでしょう。

大きな決断をする際には、心を落ち着かせてから決断するようにしていきたいですね。


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凪平コウ@古典・歴史愛好家
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