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声の魔法!🪄vol.4 声の 「大きさ」について深掘りしてみる
声の大きさを鍛えるには
前回記事はこちら。
前回「大きさ」と「速さ」について考えてみましたが、せっかくですのでそれぞれもう少し詳しくお話ししたいと思います。
まずは「大きさ」について。
ただ大きな声を出すだけだと説明しましたが、ではどうやって大きな声を出せばいいのかということを、身体の仕組みについて解説しながらみていきましょう。今回の記事はちょっと面倒な内容ですが、一緒に頑張りましょう。
空気をたくさん蓄えるために
胸郭と胸式呼吸
前の記事でも、声の大きさは吐く息の量(呼気量)で決まるといいました。大切なのは呼吸であり、その呼吸を支える主な器官は肺です。我々は肺に息を取り込み、それを吐き出して生きていますが、その吐き出す息が「呼気」であり、この量が多ければ大きい声に、少なければ小さい声になります。
例えるなら肺は風船です。大きく膨らませることで中には空気がたくさん入り、そこから出す量も増えるわけですから、まずは肺を大きく膨らませることが大切です。
ではどうやって肺を大きく膨らませたらいいのか。
その働きを担うのが呼吸筋と呼ばれる筋肉です。肺はとても大切な臓器のため、肋骨でぐるりとその周りを囲まれていますが、肺自体に自力で収縮する力はなく、肺を守るための部屋である胸郭を呼吸筋が動かして、肺を膨らませたり縮ませたりしています。
肺の収縮に関係する主な呼吸筋に外肋間筋(がい・ろっかんきん)と横隔膜(おうかくまく)があります。外肋間筋は肋骨に張り巡らされ、肋骨を外へ押し広げる働きをし、横隔膜は肺の下部に位置して、肺を引き下げる働きをします。これが胸式呼吸と呼ばれる呼吸方法の仕組みです。なお、横隔膜は「膜」と名前がついていますが、筋肉のひとつです。
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息を貯める量を増やすためには肺の容量を増やす必要がありますが、肺自体を鍛えて大きくすることは残念ながらできません。
では何を鍛えればいいのかーー。それはずばり筋肉です。外肋間筋と横隔膜が肺を広げてくれるわけですから、この2つの筋を鍛えて、外へ下へと肺を広げていくことになります。つまり、声を大きくするには呼吸筋の筋トレが必要なわけです。
腹腔と腹式呼吸
呼吸方法には胸式呼吸のほかにもうひとつあります。それが腹式呼吸です。「胸式は胸で、腹式はお腹で呼吸をするんでしょ」と言われますが、でも、不思議に思いませんか? 肺に空気が入ることはわかりますが、お腹に空気を入れるってどういうこと? 胃やその他の内蔵が膨らむの?
結論から言うと、胃やその他の内臓は空気の入れ物にはなりません。胃が膨らむことはあるでしょうが、それは食べ物や飲み物が入ったときだけです。「腹式呼吸はお腹でする呼吸」とよく言われますが、実はお腹に空気を入れているわけではないのです。
腹式呼吸に関する感覚と理論の話
「でも、腹式呼吸をするとお腹が膨らんだりへこんだりするよね?」
はい、その通り。私たちも腹式呼吸を教える際に「息を吸ったときにお腹が膨らんで、吐いたときにへこむ」と説明することが多いです。お腹に手を置いて、その動きを確かめる方法も一般的です。
あのとき膨らんでいるように見えるのは腹腔(ふくくう)です。人間のお腹のあたりには内臓が詰まっていますが、がっちり固定されているわけではなく、ある程度空間があります。それが腹腔。腹腔の上は横隔膜、下は骨盤です。
では、その腹腔に空気が入って、お腹が膨らんでいるのかと言えば、いいえ、違います。腹腔には内臓が収まっているわけですから、そこに空気が入ることはありません。腹式呼吸でお腹が膨らんでいるときに何が起きているのかといえば、ただ単に横隔膜が下へと下がり、それによって内臓が前に押し出されているだけです。なお、腹腔の下は骨盤という骨ですから、がっちりと固定されており、動くことはできません。上から押され、下には逃げられず、居場所を求めた内臓が前へと出る機序がおわかりいただけるのではないでしょうか。
胸式呼吸において、横隔膜が下へと下がることで肺の容量が大きくなると説明しました。この理論は変わりません。つまり腹式呼吸とは、胸式呼吸で起きる横隔膜の働きを、さらにもうひと働き強くしている呼吸と説明することができます。また、息を吐くときには横隔膜が弛緩して肺を押し上げますが、腹式呼吸の場合、横隔膜が上がるのを腹筋群と呼ばれるお腹周りの筋肉が助けます。この一連の動きがあたかもお腹で呼吸をしているように見えるわけです。
なお、腹式呼吸をするときは外肋間筋の働きは多少抑えられます。完全な胸式呼吸とは別の呼吸と言えますので、腹式呼吸とあえて呼ばれているのだと思います。
でも実際のところ、お腹で呼吸しているのではありません。それでも感覚的に「お腹で呼吸をしましょう」と説明されることが多いです。「横隔膜をさらに下げて、腹腔を押し広げましょう」と論理的に話されてもよくわかりませんから、この場合は感覚的な説明の方がむいていそうです。
結局のところ、どうやって声を大きくするのか
さて、魔法をかけるお時間です。
やはり腹式呼吸を使用する方が、横隔膜の可動域(動く範囲)をさらに広げることになるわけですから、使える空気の量が増えて、大きな声が出せるようになります。また息を吐くときには肺の収縮を担う呼吸筋に加え、お腹周りにある腹筋群によって押し上げる力も加わりますから、呼吸の土台が整い、いわゆる「いい声」になります。
腹式呼吸を極めたい場合は上記でも案内した通り、「息を吸ったときにお腹を膨らませ、吐くときにはお腹をひっこめる」動作からまずはやってみましょう。お腹に手をおいてやるのがお勧め。また寝ている間は人間は自然と腹式呼吸になっていますから、感覚が掴みにくい方は寝て試し、徐々に身体を起こしていきながら慣れていくとよいでしょう。
しかしながら腹式呼吸は一長一短では身につきにくいもの。どうしても身につかないという方は、胸式呼吸を支える呼吸筋を鍛える方法もあります。肋骨に手を当て、深く胸に息を吸い込むと、肺が肋骨を押し上げる感覚が掴めます。その呼吸を深く、長くしていくことで、肺が広がり、呼気量がアップして、大きい声が出せるようになります。
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呼吸を制する者は声を制す
腹式呼吸と胸式呼吸の説明をしました。いい声になりたいと思うのなら、やはり腹式呼吸は最強です。単なる息の量の話だけでなく、発声時にお腹周りの腹筋群を使えるというのはかなりのアドバンテージです。プロとアマチュアの一番の違いは、この呼吸と、別の記事で案内予定の共鳴の2つを使いこなしているかどうかではないかというのが私の持論。そう、ここにも滑舌は入っていません。
人前で話をするとき緊張しやすい、声がふるえる、早口になってしまう、という方は、場慣れする練習よりもまずは呼吸を見直すことが大切。急がば回れの精神で、遠回りでも目標へと近づく魔法が呼吸法の習得です。