見出し画像

3歳児が「オレ」と言い出した

息子が3歳7か月のある日突然、自分のことを「オレ」と呼び始めた。

保育園のお友達の影響なのは間違いない。けれど、みんなが最近急に「オレ」を使い出したわけもなく、おそらく入園してからずっと、年長のお友達が「オレ」と言っているのを耳にはしていたはずだ。

それが、あるとき急に何かのきっかけで「オレ」スイッチが入ったんだろうなと思うと、なんだか面白い。身近なお友達も言い出したからなのか、急に「ボクよりオレのほうがかっこいいな」という意識が芽生えたのか。

「それはオレもできるから、オレにかしてくれたら、オレがやったげるわ」など、今までの「ボク」をはるかに上回る連発ぶりなので、言いたくてしかたないんだろうなぁと笑ってしまう。たまに「ボ……オレは」と言い直したりするのも微笑ましい。

自分の呼び方を変えるのって、照れくさいものだ。
私は幼い頃、自分で自分のことを「〇〇ちゃん」と、親が自分を呼ぶ方法で呼んでいた。幼稚園の途中ぐらいで、「女の子は自分のことを”わたし“と呼ぶものなんだな」と学び、外ではもっぱら「わたし」を使うようになったが、家ではしばらく「〇〇ちゃん」を貫いていた。小学校低学年を過ぎ、さすがに自分で「〇〇ちゃん」は恥ずかしいと感じ始めてからは、親との会話では極力一人称を使わずに話すようになった。一人称を使えないと、けっこう不便だ。もしかすると、親とあまり会話をしなくなった原因のうち15分の1くらいは、そのことが関係しているかもしれない。

今思うとなぜそこまで頑なだったのか不思議だが、そこには「照れくさい」という言葉では表現し切れない、複雑な感情があった。我が子が急に一人称を切り替えれば、親はきっと驚いたり、馬鹿にしたり、からかったり、何かを分かった気になったり、寂しさを覚えたりするだろうと勝手に想像し、そんな反応にさらされるのは嫌だと思っていたのかもしれない。

さすがに大学生くらいになると、親の前でも「わたし」を使えるようになったが、一人称を避ける癖はアラフォーの今でも消えないし、やむをえず「わたし」と言うときには、ほんのわずかの抵抗感が心をかすめる。

そんな自分のウジウジした自意識過剰さを思うと、「今は自分のことをこう呼びたいからこう呼んでるんだ」という息子の堂々たる姿勢は、頼もしく、まぶしい。これからも変な自意識をこじらせることなく、親の目を気にせず、思うがままに自己表現していってほしい。

早くに「オレ」デビューした息子は、これからどんな一人称の変遷を辿るのだろう。周りの影響を受けながら、「オレ」と「ボク」を行き来するのかな。あるいは他の呼び方も導入されたりするのかな。特に気に留めないフリをしながら、心の中でこっそりニヤニヤしながら、温かく見守っていきたい。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?