【0027】えむしたのこと「さすがに指先がつめたくなった」
Youtubeへ投稿するうたってみた録音のため、カンナさんにスタジオを一晩貸して欲しいと伝えたら、
「あんたたち、結局全然来ないでほんとうに大丈夫なの。不安しかないんだけど」
軽く叱られた。明日も一緒に話せるように、電話ではなくてディスコードという音声通話アプリで繋いでいたから、すぐに明日がフォローに入ってくれたのだけれど、危うく喧嘩するところだった。
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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。
小説「えむしたのこと」
300円
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