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【0028】えむしたのこと「わたしはここまで魅せられていなかった」

 カンナさんに曲名を隠しておく必要は特になかったのだけれど、なんとなく言いそびれたまま、この日は通話を切った。手をつないでいなくちゃ足りない部分を補いあえないようなわたしたちが、一緒に歌うと決めた曲は九年前に発表された、とあるボカロプロデューサーによる別れの曲だった。正直、ふたりで歌うにはあまり適さない曲だという自覚はあって、絶対に反対はしないだろうけれど、カンナさんがいったいどんな反応をするか不安が拭いきれず、自分からは言いだせなかった。

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ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶の水が澱みはじめた頃、えむちはようやく今回の失踪が普段の気まぐれとはどこか違うのではないかと察する。不安は的中しており、明日の体には常盤色化と呼ばれる異変が生じはじめていた。植物の蔦を模したようなしみが皮膚に広がり、やがて全身を覆ってしまう奇病。一方、えむちはある事件をきっかけに人前で歌うことができなくなっていた。移り変わってゆく、彼女たちの季節を追う物語。

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