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逢坂志紀掌編集

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筆者、逢坂志紀の掌編、短編集。
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2018年10月の記事一覧

それと君が好き

「ヨーグルト買ってきて」

そう、LINEの通知が入った。これからあなたのところに行くよ。あなたの住むマンションのすぐ近くのコンビニ。あなたの顔を頭に浮かべて、商品棚に目をやる。

最近ヨーグルト飲料のCMをよく目にする。でもヨーグルトって多分カップ入りのスプーンで食べるヤツだよな。なんか前に言ってたもんな、忘れたけど。ぼんやりそんなことを考えているとまたスマホが震える。

「それと君が好き」

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会いたくて

 毎年、同窓会の日には特別にめかしこむ。別に同級生女子とのヒエラルキー争いのためではない。会いたい人がいるからだ。私が通っていたのは私立大学の付属の中高一貫校だから、基本、中学からの同級生が高校でも、そして大学でも同級生となり、今となっても同窓会で集まる。

 でも、私の会いたい人は、高校までしか同級生ではなかった。成績が頭一つ抜けていた彼は、私たちの進んだ大学への進学の権利を放棄して、有名大学に

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夢破れ、花は咲き

「はじめまして、山田花梨です」

 そう言って目の前の美女は笑った。切れ長の目、控えめな鼻梁、少し薄い唇、いまどき珍しいロングヘア、美しい。大人数で利用する居酒屋の座敷の一角で美女は笑った。それはまるで真っ暗闇の世界に柔らかく咲く花のようで、オレの感情は心を置き去りに昂った。

 野暮な質問であるとは承知の上だが、ここで一つ伺いたい。何かに酷く落ち込んだどこかからの帰り道、アスファルトを突き破って

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感情は心を置き去りに

青年は悩んでいました。自分のパートナーである少女を自分は救えているのだろうかと。

少女は大病を患っていました。少女の両親も同じ病で既にこの世を去り、少女を愛する青年が少女を救うしか残された道はなかったのです。

病室のベッドで伏せる少女に青年は問います。

「オレは君を助けられているのか?」

「うん、助かってる。あなたがいてくれて、私は嬉しい」

少女は微笑んで応えます。しかしそれ

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