感情は心を置き去りに

青年は悩んでいました。自分のパートナーである少女を自分は救えているのだろうかと。

少女は大病を患っていました。少女の両親も同じ病で既にこの世を去り、少女を愛する青年が少女を救うしか残された道はなかったのです。

病室のベッドで伏せる少女に青年は問います。

「オレは君を助けられているのか?」

「うん、助かってる。あなたがいてくれて、私は嬉しい」

少女は微笑んで応えます。しかしそれだけでは青年の心は満ち足りません。青年は少女の病を治す特効薬を作り出す力もなければ、延命のための投薬治療に費やす財力もありません。

もしかすると少女は気持ちの上では、青年に救われているのかも知れません。しかし青年は、少女の気持ちだけでなく、その病に犯された体をも救いたかったのです。

青年は言います。

「オレは本当に君の力になっているのか?」

病でもはや命が風前の灯となった少女に、自分の優しさなどなんの役にも立たないではないか、青年はそう思っていました。

青年は少女と歩んでいく未来が欲しかったのです。

ですが青年にはその未来を描く力がない。そのことに青年は絶望していたのです。

少女は微笑んで言います。

「力になっていないとでも思ってるの? あなたがいなければ、私は病室で看護師さんと天気の話をして、主治医の先生と病気の話をして、自分の向かっていく暗い未来にしか目を向けられない」

でもね、と少女は続けます。

「あなたがいてくれると、私は病気を忘れられるの。あなたがいてくれると、心があなたでいっぱいになるの。こんな先の短い命の私といることを強いるのは心苦しいんだけどね、あなたと離れるのは死ぬことよりもツラいの」

満面の笑みのまま、少女は涙を流し、両手を広げて「ぎゅっとして」と言いました。

青年はおずおずと手を広げ、ベッドに半身伏せったままの少女の体を抱きました。

少女は言いました。

「ありがとう、これで幸せなの」

青年は自分の無力を改めて実感し、しかしそれ以上に少女の言葉の意味を深く考えました。

青年は自分は背伸びをしているのだと気付きました。自分の出来ないことをやろうとして、自分の出来ることを投げ出してしまいそうになっていたことに気付いたのです。青年は少女を最期まで看取りました。それが自分達の幸せなのだと、涙ながらに青年は感じました。

少女の最期の言葉は「あなたは幸せになってね」でした。しかし青年は空の上にいるであろう少女に言います。

「気付いてなかったのか? オレは幸せだったよ。君と過ごした日々が宝物だ。哀しいけれど、君といたことを後悔したりはしないよ。君もそっちで元気で。オレは君の分も生きてから、そっちに行くよ。それじゃ、サヨナラ」


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