安心・安全の先にある美味しさ—減農薬で作るいちごの新たな価値
いちごの直売所を運営する中で、私たちが大切にしているのが「いちごのブランディング」です。
農園で育てているいちごは、自家製有機肥料と減農薬で栽培しています。この栽培スタイルには深いこだわりと理由があります。
収穫量ばかりを重視する県の指導
栃木県の普及所では、いちご栽培において「収穫量を増やして収益を上げること」が重要視されます。しかし、現場の指導は20年前の資料や方針に基づいたものが多く、担当者も農業経験がない場合がほとんど。平均気温や気候が変わっているのにも関わらず、昔のやり方がそのまま指導されています。
大量の農薬を使って、手間をかけず収穫量を増やすことが「正解」とされています。でも、私はそうは思っていません。実際、携帯会社は3社あるのに、農協は一社独占状態。競争がないため、新しい取り組みや品質向上のための工夫が生まれにくいのが現状だと思います。
減農薬と味・品質へのこだわり
農薬のすべてが悪いとは私は思いません。多くの科学者が時間をかけて開発し、人の安全性を考慮したものですから。しかし、私たちが目指すのは「収穫量」ではなく「味」と「品質」です。
農協では「味」を評価する仕組みがなく、いちごの表彰も「収穫量が多かった人」のみが対象。しかも、農協での表彰者は農協への出荷量が多い人が選ばれるため、他の販売ルートがある農家はそもそも評価の対象外です。こうした仕組みでは、農協出し以外で収益を上げる農家が、新規いちご農家の指導者になるのも難しいのです。
私たちが減農薬・有機肥料栽培を行う3つの理由
1. 小さな子どもに安心・安全ないちごを届けたい
小さな子どもが食べても安心できるいちごを作りたい、これが一番の理由です。農薬の安全性は体重に応じて決まります。体の小さな子どもは大人よりも影響を受けやすい可能性がありますし、長期的な安全性のデータが取りづらいことから、できるだけ減農薬で育てることが大切だと考えています。
※ただし、農薬の使用自体を否定しているわけではありません。
2. 美味しさにこだわるための有機肥料
私たちの経験上、有機肥料は味に直結します。いちごを美味しくするために、毎年いろんな肥料を試し、最もおいしい組み合わせを見つけています。詳しい内容は企業秘密ですが、複数の肥料をブレンドすることで、いちごの甘みや風味を高めています。美味しいいちごはリピーターにつながるので、多少コストがかかっても味の向上は最優先です。
3. 他の農園との差別化
一般的な栽培方法とは異なる「減農薬・有機肥料」栽培は、他の農園との差別化にもなります。スーパーで売られているいちごとは違い、直売所ならではの味や安全性を感じてもらえるので、ここでしか味わえないいちごを作り続けています。
減農薬栽培にたどり着いたきっかけ
初めていちご農家を始めた頃、年間にかかる農薬の金額の多さに驚きました。しかも、いちごが大きくなってきた頃に農薬をかけた結果、実がダメになり、ミツバチもいなくなるという大ダメージ…。そこから、「どうすれば農薬を減らせるか」を真剣に考えるようになりました。
その結果、「予防のための農薬をやめ、苗そのものを強くして病気にならないようにしよう」との結論に至りました。そこで始めたのが自家製肥料と、農薬ではなく液肥で苗を強くする方法です。完全に農薬ゼロにはできませんが、減農薬にすることは可能になりました。
農協のシステムと味への意識
農協のシステムでは「リピーターを増やすための味の向上」が無視されがちです。大量に収穫することが優先されるため、いちごのブランド力が下がり、結果的に農家の収入が減少する可能性があります。私たちがこだわりを持って育てた味の良いいちごも、市場に出せば他のいちごと同じ値段で並びます。
この仕組みでは、農家に「味の向上に力を入れる必要はない」と思わせてしまうと思います。
味の評価は第三者機関に挑戦
味の品質をしっかり評価してもらいたいと考え、「全国いちごソムリエの大会」に毎年挑戦しています。糖度だけではなく、風味や食感、香りなど総合的な美味しさを評価してもらうことが目的です。今のところ、「とちあいか」が入賞していますが、他の品種でも入賞を目指して味を向上させていきます。
安心・安全で美味しいいちごを作り続けたい
私たちはこれからも、安心・安全で美味しいいちご作りに挑戦していきます。減農薬や有機肥料での栽培は手間もかかりますが、だからこそ味と品質にこだわり、一度食べたら忘れられないいちごを皆さんにお届けしたいと考えています。
続く
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