お茶の名称、複雑すぎ問題(前編)
こんにちは、湿気でジメジメした日は爽やかなお茶が飲みたくなりますね。
私は長崎で国産発酵茶専門店「 紅と香 」(こうとこう)を営む、店主の茶苗です。
今日はお茶の複雑すぎる名称や区分についてお話したいと思います。
国産の発酵茶専門家としてお仕事している私ですが、未だにお茶の名前って色々あって難しいなぁと思っています。
お茶のマニアの方も初心者の方もぜひ読んだ後にご意見や感想などお聞かせいただけたら嬉しいです。
現在使われているお茶の区別や名称について
皆さんがよく口にしているお茶ですけれど、名前や種類がたくさんあって一体どうなってるの?と思った方はいらっしゃいませんか?
それもそのはず、専門家の私からみても難しいと思うのですから・・・。
まず、よく耳にする言い方を整理していきますね。
私が考えるに、お茶は以下の区分や理由で名称が変化します。
・発酵度(発酵の度合い)
・産地(茶を生産した場所)
・品種(茶の品種名)
・製法、栽培方法(製茶工程、栽培の特徴)
・シーズン(茶の葉を摘んだ季節)
・部位(茶のどの部位を摘み使用したのか)
・品質(特徴や品評会の受賞の有無)
・その他(加工やブレンド、ブランド名など)
ざっと挙げてみただけでも、こんな区分で名前が変わります。
みなさんの馴染みのある言い方や名前がどの区分に当たるかわかりますか?
発酵度の違い
お茶は、発酵度によって6種類の色に分けられています。発酵度が浅い順に緑、白、黄、青、紅、黒、以上の6種類です。
緑茶→不発酵茶、茶葉を摘んだ後すぐに酵素の働きを止めてつくるお茶
白茶→微発酵茶、少しだけ発酵させたお茶
黄茶→微発酵に加え、特殊な熟成をさせたお茶
青茶→半発酵茶、半分発酵させたお茶、烏龍茶に多い
紅茶→完全発酵茶、発酵度が高いお茶
黒茶→菌やカビなどを使った発酵をした後発酵茶
みなさんがよく言っている「緑茶」や「紅茶」という言い方は発酵度の違いを表す名前です。
しかし、ここで問題があります。それは「発酵度」がとても曖昧になっているという点です。
これ、国産紅茶です↑
え?紅くないですね…と思われた方、鋭いですね。
最近の紅茶の流行として、浅い発酵度のものが増えています。(国産、海外産問わず)
これよりもっともっと、緑茶や白茶に近い発酵度のものまで「紅茶」として売られているのが現状です。理由としては、春摘みの爽やかな香りを表現したいと思う農家さんが増えてきたからです。
発酵度で区分されるのであれば、本来上記の写真のお茶は「半発酵」になりそうですが、茶農家さん曰く「紅茶の製法でつくったから紅茶です。」なのだとか。
えええっ?? 発酵度の区分はどうしちゃったの??
と戸惑いがあります。
紅茶に限らず、どの発酵度のお茶でも同じ様子で、今のところとても発酵度だけでお茶の区分がハッキリと別れていないのが現状です。
なぜこんなことが起こり得るのか、それは作ったお茶の発酵度をいちいち測定しない為です。
また製茶して、製品になった後でもゆっくりと時をかけて熟成によって紅みが増すようなお茶もあるからなのです。
製造した直後は黄色がかったゴールドの水色(すいしょく)でも寒さが増してきた秋冬になると紅くなる紅茶は存在します。
海外産の紅茶、和紅茶と言いながら茶の水色(水色)をみて、んんん???となることは専門家でもよくあることです。
その度に発酵度での区分への疑問で頭が混乱します。
産地について
茶の産地によって、名前が変わります。
日本で生産されたお茶は、八女茶、知覧茶、宇治茶、静岡茶、狭山茶、嬉野茶などなど場所の名前がつけられることがあります。
また、大きく括れば「日本茶」という言い方もそうだと言えます。
しかし、「日本茶です」と言って紅茶が目の前に出てきたら、多くの方が「あれ?」とお思いになるのではないでしょうか?
大勢の方の「日本茶」の認識は、ほぼ緑茶だと思います。
ですが、本来は日本で作られたお茶のことを「日本茶」というのであれば、紅茶でも烏龍茶でも白茶でもほうじ茶でも番茶でも、製造方法がどうであれ、国産のお茶であれば当然「日本茶」ですよね。
でもなんだか不思議な気持ちになりませんか?
産地の町の名前がつくお茶も全く同じことが言えると思います。
産地の名前に関しては、茶畑の場所と製茶した場所でどちらを名乗るか?という問題があります。
長崎県の東彼杵町でつくられていたお茶は、昔は佐賀県の嬉野茶としてブレンドされていた経緯があります。(東彼杵町と嬉野市は隣あわせなのです。)
現在では東彼杵町で生産されたお茶は「彼杵茶」としての認知が進み、嬉野茶と区別されるようになりました。
しかし有名な産地の名前を名乗った方が高値がつく、商品がよく売れる、といった理由から厳密に線引きは難しいようです。
インドのダージリンと隣国のネパールでも同じ問題は起きていますし、中国の福建省や雲南省の方でも同じです。
それもそのはず、国境や県や町の堺を示すラインは地図上だけなのです。現地では、ここは○○町だから○○茶、数歩歩いて隣の畑は××町だから××茶ということになってしまうのですから。
同じ○○茶と言えど、何十キロと離れた場所、気候や標高の違う山で作られるものもあれば、同じ山で距離として百メートルも離れていない畑の茶が別の名前になる…なんてことは馬鹿げているなぁと思うのです。
そしてその名前によって市場で有名産地はブランドとしての扱いが変わる、買取価格に大きな差がでるなんてこともあるのです。
多くの方々が、産地で茶の特徴を語るのを目にします。
大きな産地という括りで、その地域の特色ある茶づくりが進められているのは確かにあるのですが、実際は一件一件の茶農家さんの努力や栽培管理、製茶技術には割と差があって、飲み比べると全く別物に感じます。
古くからの茶の生産地の農家さんは、よくその土地と歴史をプライドに持っていらっしゃるのですが、ではその古くから伝わる製法・栽培方法を厳密に守り貫いているかと問うと、そのような農家さんは残念ながらほんの一握りです。
茶の産地の特徴やイメージは変わらず、生産現場や製茶方法は常に変化し近代化しているのが現状です。(生産の効率化や機械化が悪いことと言っているわけではありませんよ)
地名の付くお茶は厳密な線引きで区別できるものなのでしょうか?
断言するには多くの戸惑いを感じます。
品種の違い
日本には119種もの茶の品種が登録されています(2019年3月時点)
やぶきた、さえみどり、あさつゆ、おくゆたか、さやまかおり、つゆひかり・・・などなど。
それぞれが異なる性格や香味をもち、日本茶の豊かなバリエーションを生んでいて、近年ではその個性を楽しむ「品種茶」を取り扱うお茶屋さんが増えてきています。
栽培適地、香りの系統、品質の特性、耐寒性、収量差、早晩性などの違いは茶農家にとって製茶する茶種、栽培管理のしやすさに大きくかかわることですから、非常に重要と言えます。
ブレンドによる茶匠の仕事にほれぼれするお茶もあって、一方で品種による特徴を味わえるというようなより生産現場に近い消費の仕方もできるのであれば、日本茶はより面白いものになるでしょう。
品種名の積極的な明記が新たな価値になることは間違いありません。
栽培方法や製法による名称の違い
お茶をつくるのは、茶畑の栽培や管理からはじまり、工場での様々な製茶工程を経てやっとお茶になります。
特定のお茶の名前は、栽培の条件を満たすことと、製茶の工程をこなしていくことでやっとその名前で呼べるのです。
玉露、かぶせ茶、浅蒸し茶、深蒸し茶、ほうじ茶、釜炒り茶、烏龍茶、などなど
これらの名前がつくには栽培の条件を満たすことであったり、製茶をしていく工程の順序を守ることが求められます。
1番わかりやすいのは「ほうじ茶」なのではないでしょうか?
焙煎を施し、お茶の香気成分であるピラジンを引き出せば「ほうじ茶」です。
緑茶の製造工程で出てきたいわゆる「デモノ」と言われる部分を焙煎してほうじ茶に仕上げる農家さんもいれば、新芽の摘採時期を過ぎた「ばん茶」を焙煎してほうじ茶にする農家さんもいますし、紅茶を焙煎して「ほうじ紅茶」をつくる農家さんもいます。
焙煎という工程を行ったことで「ほうじ茶」という名前をつけられる、ということになります。
製茶工程に加え、栽培の条件を満たすことで名乗れるお茶があります。
例えば「玉露」がいい例です。
茶の旨み成分を引き出すために、摘採前の新芽に茶畑を覆うように遮光を施し(覆下栽培)20日間ほど日光を遮ることが玉露というお茶をつくる上で最も大切な条件となっています。
この条件に満たない場合、「玉露」は名乗れず、「かぶせ茶」という名前になります。
烏龍茶も種類は様々です。
半発酵茶であればみな烏龍茶と言われがちですが、本来は烏龍茶にも製茶工程の細かい条件がありそれぞれの工程の違いで変化します。
例えば日干萎凋という、お日様の光(紫外線)を照射して葉の水分を抜く作業を行ったか、打圧刺激を加えて葉の香りの経路を引き出したか、酵素の働きをとめる加熱方法はいつのタイミングで行ったのか、葉を揉み酵素の働きを促す揉み方の違いはどうか…
烏龍茶の中でもそうやって工程の順序や種類でたくさんの名前がつき区別されます。
はぁ〜。
ため息が出るほどお茶の種類の多さに驚かされちゃいますね。
この写真は店主が作った烏龍茶です。
右手前から銀針、真ん中が包種、左奥が店主オリジナル烏龍(新しい作り方を試しました)
お茶をつくるのは楽しいですよ!
ここで一旦前編を終了します、後半へ続きます〜。