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哲学の道

【過去の投稿です】


●池田晶子・陸田真志(むつだしんじ)著『死と生きる~獄中哲学対話』<新潮社>(99)

陸田氏は殺人犯だ。しかも自分勝手な理由で引き起こしている。拘置中、哲学書等を読み耽り、さまざまな事を考えた。考え詰めた。生と死、イデア(真実在)、幸福、そして、人を殺した自分は今後どうすべきか・・・形而上的結論として「善く生きる」事を決断する。

池田晶子さんのコラムにも啓発され、新潮社経由で手紙を出した所から交流が始まった。双方の書簡で本書は成り立っている。

陸田氏は、哲学に関しては素人なだけに、思考の道筋が読み取りやすい。時には試行錯誤し、池田さんから厳しい指摘を受ける局面もある。但し、アドバイスを受け入れる部分も、あくまで自分の意思を貫こうとする部分もある。この辺りが一人の考えを納めた書物や、哲学問答とは違う、生々しい思考過程だ。一読して筋が通っているようでも、池田さんの指摘を読むと誤った部分や不足した部分が納得いく。

具体的なやり取りを書くとネタばらしになるので割愛。一つだけ書いておく。「殺人犯」や「死刑囚」という陸田氏の立場が、彼が思考する上で重要なファクターであるべき・・・普遍的真理に到達する為に必要なのは「自分ならではの立ち位置」なのだ。つまり、誰でも、真摯に内省する事で哲学の道が開けるんだなあとの感慨を改めて持った。

池田さんの著作は何冊か読んだが、本書のようなパターンは初めて。脇道や迷い道を含め、思考の道筋が見える稀有な一冊。

♪James Brown "Think"


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