見出し画像

46歳 剣道5段 髪質を褒められる

四柱推命だと今年から大殺界に入るとのことで、気をつけてはいたのだが、
年始にギックリ腰をやってしまい、家族皆で江の島に行くはずが、私一人だけ自宅で待機するハメになってしまった。
腰の痛みが快復に向かい始めた矢先、
今度は、朝方にボトルキャップを捻っただけで左肩に痛みが走り(パチンと音がした)
何とか年始の稽古には赴いたものの、稽古後に左肩の筋の痛みが倍増し、
もう竹刀が振れないほどになってしまった。
会社から不意の夜勤も命ぜられ、
そのまま遠方の大型現場も始まるしで、さすがに気が滅入ってしまい、
スピリチュアルな動画などをみて星の位置が悪いのだと嘆き、
こいつぁ心が弱ってきてるな、と痛感していた。

星の運命など、我が刀で一閃してやろうと息巻いていたが、刀も握れないのではお話にならない。

この流れを断ち切るべく、
気分転換に会社近くの美容院に髪を切りに行った。
店構えが洒落ていたので、以前から気になっていた美容院だった。
ネット予約限定らしく、
朝いちばんに予約を入れた。
雰囲気だけで行ってみよう、と決めてみた美容院だった。
私から見れば、結構思い切った決断だったが、髪はまた伸びるのだから、
ハズレだったとしても 
まあ、いいだろ、ぐらいな気持ちだった。
それぐらい今の私には、
普段と違う流れが必要だった。
予約した10時少し前に着いたのだが、お店の中に遮光カーテンが閉められて、入口ドアの前に人ひとり入店できる隙間があるだけだったので、
「あれ、まだ準備中かな?」と思ってしまったが、注意深く見てみると、
店内に照明もついているし、
時間はもう9時55分を過ぎている。
おそるおそる入口ドアを開けて、声を掛けてみると、アコーディオンカーテンの裏から
小柄な女性が顔を覗かせ、挨拶してきた。
マスクをしていたので目元だけしか伺えなかったが、くっきりとした目元をしたチャーミングな女性だった。

「お待ちしておりました、どうぞ」
「カーテンが閉めてあったので、まだ準備中かと思いました」
「日の光が店内に入ると、髪のラインが見えづらくなるので…今の時間は閉めてるんです」

お、プロやな? と思った。
今まで通った髪切り屋さんにはない発言だった。

そのスタッフさんは自分の名を告げると、
丁寧にお辞儀をし、私にクロスをかけてきた。

「どんな感じにしますか?」
「まったくノープランで来たので、今46歳なんですが、40歳ぐらいに見えるようなマイナス5歳くらいの髪型で」とふざけて言うと
( ̄∇ ̄;)ハッハッハ、と笑ってくれた。
ほぼ苦笑いだったが…。

この美容院は当たりだった。
サイドを刈り上げるところからもう今までとは違っていた。
部分部分で刈り上げる長さを調節していた。
「あれ、なんか良いな」と思った。
サイドの刈り上げが終わると、トップ全体を霧吹きのようなもので濡らしはじめた。私にはどういう理由で髪を濡らすのかは分からなかったが、これから厳粛な儀式が始まるような雰囲気だった。
何回かハサミを入れるごとにハサミにも霧吹きをかけていた。
ハサミを入れるたびに髪の毛の向きなのか、癖なのか、を確認しているようだった。
そろそろ仕上げに差し掛かった時に思いがけない言葉を頂戴した。

「お客さん、本当にきれいな髪の毛ですね」

私の髪の毛を触りながらそのスタッフさんは言った。
初来店だったので、そのようなリップサービスのようなことも言うのかな、とも考えたのだが、まじまじと私の髪の毛を見つめながら言うので、どういう顔をしたらよいのか、わからなくなってしまった。

「職業柄、いろんな人の髪を見てますけど…ホントお綺麗です」

(👆有頂天になりながら聞いていたので、たしかこんなことを言っていたはず)

ここ数年、肉体の衰えに嘆くばかりで、
人から容姿について褒められたことがないので顔が赤くなってしまった。

「ホントですか、そんなこと言われたことないから…嬉しいです!」

もうすでに学生時代の自分に戻っていた。
小春日和のような温かいものが胸の中で膨らんできた。
こんな温かい気持ちになれて2450円とは良いお店を見つけたものだ。

こちらのお店はスタッフの指名もできるらしい。次回は、指名させていただこうと思う。
指名料はかからないようだ。
椅子がひとつしかないマンツーマンの美容院なので、二人きりの時間となる。
46歳ともなれば、人間の心の有様はすこしぐらいはわかっているが、
ほんのちょっとぐらい素敵な勘違いをしても良いのではないだろうか…。










いいなと思ったら応援しよう!