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おばあちゃんのいなり寿司

わたしは小さい頃から、
祖母のつくるいなり寿司が大好きだった。
揚げは油を抜きすぎないほうが好き。
甘辛い味付けで、どんなお店のいなり寿司よりも祖母のつくったいなり寿司の方が美味しかった。
寿司具もオリジナル。
祖母の所属している◯◯の会みたいなところでつくっているちらし寿司の具で、その具もまた美味しい。
そのままちらし寿司で食べても美味しいけれど
やっぱりいなり寿司が大好き。

ある日、母とうどん屋さんでいなり寿司を食べた時に、
「おばあちゃんのつくったいなり寿司の方が美味しい」
と、ふと呟いたのを、
母が祖母に伝えると、とても嬉しそうな顔をしていた。

そんな大好きな祖母のいなり寿司。
今ではもう食べられなくなった。
祖母が認知症になったからだ。
自分で自分のごはんを作ることもままならない。
レンジを使うこともできない。
祖母のいなり寿司を最後に食べたのは、
いつだっただろう。
わたしは県外の大学に進学したので、なかなか地元に帰ってこなくなり、祖母にいなり寿司を食べさせてもらうこともなくなった。
こうなるとわかっていれば、帰省するたびに、いなり寿司をお願いしたのに。

そして最近、車のない祖母のために
母が一緒に買い物に行ったらしい。
仕事から帰ってくると、ちょうど母も帰ってきて
「はい、これ」
と買い物袋を渡された。
中身を見ると、惣菜やパン、そしていなり寿司が。
「おばあちゃんが◯◯のためにって」
祖母がわたしのためにいろいろと買ってくれたらしい。
お礼の電話を祖母にかける。
「いろいろと買ってもらったみたいで、
 ありがとうね。」
「いいのよ〜
 ◯◯ちゃんが好きだと思って」

びっくりした。
祖母は、わたしがいなり寿司を好きなことを覚えていたのだ。
まだ初期の認知症ではあるものの、日付の感覚がなかったり、家族の名前がすぐに出てこないこともある祖母。
そんな祖母が、わたしがいなり寿司を好きなことを覚えていてくれたのがとても嬉しかった。

わたしの名前を忘れてしまう日もそう遠くはないだろう。
でも、この日のことを覚えていれば
きっと、大丈夫。
祖母の優しさを感じて心が温まった一日だった。


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konoka
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