思いがけない嬉しい事
17時15分を過ぎて、「お疲れさまでしたー」と続々と帰る人たち。
パソコンの電源を落とし、ぬるっと帰る支度をする。
「晩ご飯は家にあるもので済ませられそうだから、まっすぐ帰るか…」と、デスクを去るにあたって息を吸い込んだとき
横からズンズンと人が向かってくる気配がした。
後輩のY君であった。
彼は課のなかきってのお調子者である。
明るく元気で、それが誰に対しても同じ調子なものだから、私は彼に心を開いている。
「先輩、二郎系ラーメン行きませんか?部活前にSと行くんです。」
彼と同期のS君も、私のデスクの向こうにいて「行きましょうよ!」と無邪気に言う。
「え、私、飲み会とか、複数人で出掛けるの苦手だからな…」誘ってもらった嬉しさで満更でもない顔をしつつ、不安な感情も嘘じゃない。
家族以外の複数人で飲みとか出掛けるとか、
楽しかった記憶があまり無いのだ。
その場の空気全体を円滑にする為に、自分に調整かけることは、皆んなにも自分にも少しずつ嘘をつく行為を伴う。そのとき、削られる感覚になるのだ。
我が子をはじめて保育園に預ける母のような表情は、
「部活が19時半に始まるので、その前にラーメン食べるだけなんで!」という後輩2人の渾身のキャッチフレーズに押し流される。
2時間弱という時間の制約をお守りを胸に、
私は気持ちを固めた。
後輩A君も呼ばれ、私は後輩の男の子3人とラーメンに行くという、異色のイベントに参加した。
その後、ラーメンを食べて定時には解散。
別に、特筆するようなことのない、
通常の一幕。
なのかもしれないけれど、私にとってはサプライズな出来事で正直とても嬉しかった。
何人かで飲み食いすることを毛嫌う私だからこそ、誘われることは無いし、
誘ってもらったとしても二つ返事で断ればそれでお終いなのが通例だ。
だから、今回の後輩の誘いや後輩たちの一押し二押しは正直有り難かった。
行ってみたいのは本当だから。。
そして行ってみて楽しかったのも、後輩たちの人柄とか優しさあってのものだ。
保育園から帰ってきた架空の我が子を私は抱きしめる。「楽しかった?」「楽しかったよ!」「そうか、よかった〜!」大丈夫、笑っていた。
そんなことがあって、
少し大袈裟かもしれないが、
人生って何が起こるかわからないと改めて感じたのだ。
本当に、規模の小さい話で申し訳ないのだけれど、
自分の人生に起こるはずのなかったことが起きることが、生きていれば、ある。
きっとこれからもあるのかもしれない。
人生におけるサプライズのボーナス。
その為に生きるわけではないのだけれど、
そういう出来事を尊いと思えて仕方ない。