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『言語の本質』今井むつみ・秋田喜美
言語と言うものがどのように成立したのか、なぜ人間だけが言語を使うのか。この問題について、専門分野の異なる二人の学者が共に手を組んで追究した論考です。極めて興味深く面白いです。
議論と発端となるのはオノマトペ(擬音語あるいは擬態語)です。オノマトペがアイコン性(対象との間に類似性のある記号)を持つものであると言うのは何となく分かるのですが、異言語のオノマトペは通じないと言うのは驚きでしたし、これを含めた多角的な分析からオノマトペが言語的であると導く議論の過程にも驚かされました。
ここから著者たちは、幼児がオノマトペから言語を習得していく過程を、多くの実験結果を踏まえて分析を重ねつつ、言語の成立と進化について議論を深めて行きます。そこで重要な概念として登場するのがアブダクション(仮説形成)推論と言う、誤りを含む可能性がありながら新たな知見を産み得る思考方式です。この存在が人間と他の動物との違いを決定付けていることを、これまた多くの実証実験の結果によって結論付けているのです。この議論の中では、今話題の生成AIについても触れられています。
議論の結論自体も興味深いのですが、それを導出するための思考の過程や、それを裏付けるための実験の手法も、非常に面白いです。また、著者二人がそれぞれの専門の観点から議論を重ねることによって、絶大なる相乗効果を生み出していることもよく分かります。終章でまとめ上げられた言語の本質の大原則など、感動的ですらありました。
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