メロスが親友を裏切る話

先日大学時代の友人の結婚式にお呼ばれした。

特別仲が良かったわけではないのだが、共通の友人繋がりでわたしを呼ばないわけにはいかなかったのだろう。


ちなみにその共通の友人は欠席した。

わたしがどれだけ気まずい思いをしたかはお察しの通りである。


現在わたしは未婚なので、人の結婚式を見るとわたしも結婚式したくなる。

結婚式したい。

そこでふと考えたのは、友人は誰を呼ぶべきなのか


先の友人の結婚式に呼ばれていたゲストを分析したところ、

小学校時代の友人…1名

中学時代の友人…3人

高校時代の友人…3人

大学時代の友人…13人

社会人時代の友人…0人

であった。ちなみに新婦である。

一方の新郎友人分布はこれまた全く違ったものだった。


なるほど、だいたい20名友人をお招きするのがいいのか。

と考えて固まる。


わたしにそれほど友人がいるとも思えない

小学校時代友人だと思っていたほとんどの人からは嫌われている。そりゃ中学受験して地元の中学には行かなかったわたしの陰口など言い放題共感し放題というものだ。

唯一いまだに親交のある「当時の親友」に関しても呼んでいいものなのか迷う。なぜなら彼女の結婚式にわたしは参加していないからだ。


中学・高校は一貫校に通っていたので、わたしの場合は一緒くたに考えなくてはならない。そこでの友人は多く見積もって3人である。


大学時代は華々しかった。たくさんの友人や先輩・後輩に囲まれてモラトリアムをこれでもかと堪能したほどだ。これなら優に80名は超えるであろう!!

…………9人だった。


社会人時代!!これはもう!!8年も同じところで働き、たくさんの同僚たちに囲まれてブラック企業を生き延びたものである。これなら優に100名は超えるであろう!!


………12名だった。


それでも合計25名だ。上出来ではないか!!


改めて考えると、各時代においてそれなりに友人はいたし、それなりに楽しかった。しかし時と共に次第にFacebookの繋がりで満足し、ろくに絡むこともなく、あの頃にすがっているだけになってしまった己が切ない。


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『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦著

【こんな人におすすめ】
〇 本当の友情というものを知らない人
〇 鬼ごっこで逃げるのだけはめちゃくちゃ得意だった人
〇 何が何でも走るメロスに一切共感できない人
〇 1日1回「その声はわが友李徴氏ではないか」って言って遊んでる人
〇 文豪の名作が現代風に生まれ変わるならどんな風になるのか気になる人
〇 「坂口安吾」という名は知っているが作品は読んだことがない人
〇 『百物語』をやったことがある人
〇 人には言えない性癖があるよ~って人

太宰治が著した『走れメロス』は有名である。中学2年生の国語で習ったのではないだろうか。

「メロスは激怒した」で始まるあれである。

いつ聞いても物語のこの始まり方は痺れる。グッとくる。たまらない。


簡単にあらすじを説明すると、人間不信に陥った都の暴君の行いを目の当たりにしたメロスが激怒して暴君のもとに乗り込んだ結果、死刑を言い渡されるも、妹の結婚式のために買い物に都に来ていたメロス、妹の結婚式には出たいとのことで人質として親友のセリヌンティウスを差し出し、都と実家を制限時間内に往復する話である。運動量の多い作品だ。

いや主題は違う。

友情の大切さだったと思う。

メロスはセリヌンティウスのために走り、セリヌンティウスはメロスを信じて待つ。ここが一番大事なことだと思うのだが、森見登美彦の『新釈 走れメロス』は違う。


メロスにあたる人物「芽野」、簡単に人質たる親友を裏切るのである。

それはもうものの見事に。

なんなら開始5分で裏切る。

すぐマンガ喫茶に入って長編マンガを夜通し読み漁る。

セリヌンティウスにあたる人物「芹名」も「あいつは戻って来ない」と断固信じている(?)。

暴君にあたる人物「長官」、「え?え?どういうこと?」ってなって、何とかして約束を守らせようとメロスにあたる人物を追いかける。

芽野逃げる。

芹名信じる(?)

長官約束守らせようとする。


なんたる新釈。これぞ新釈。

中途半端に原文をなぞったような駄文とは訳が違う。


もういっそ別物!!!!


というわけでもない。

なぜなら、芽野も芹名も互いのことを信頼しているのである。

パラドックスにも程があるが、そうとしか言いようがない。

芽野は芹名のために裏切り、芹那は芽野を信頼しているからこそ待たない。


相変わらずくだらない森見登美彦流文体である一方で、ポンポンと次から次に物語が展開していくのはさすが森見登美彦、原作に忠実な展開の仕方である。

一風変わった「新釈」をぜひとも一読していただきたい。

それ以外にも

『山月記』

『藪の中』

『桜の森の満開の下』

『百物語』

のパロディも収録されている。どのように現代風に改変されているかは読んでからのお楽しみ。

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