小説「ホテルローヤル」著・桜木紫乃 読書感想文
釧路のラブホテルを拠点に綴られていく老若男女の過去と現在を描いた短編集。
地元で人気のスポーツ選手だった同級生の青年にヌード撮影を頼まれる女性の諦観がやるせない「シャッターチャンス」。
やっと家族を手に入れた女性が夫の家業のために複数の男性たちに身を差し出す「本日開店」。
廃業するラブホテルの一人娘が在庫のおもちゃを取りにきた業者に想いを発露する「えっち屋」。
欲しがったものにかかるお金や人間関係に疲弊した女性が急きょ手元に残ったお金で夫をラブホテルに誘う「バブルバス」。
尊敬している上司が長年妻と交際していることを知った傷心の高校教師と親に捨てられた女子高生の当て所ない旅路がゆるゆると進む「せんせぇ」。
周囲の大人や男性に都合のいい女性として利用されてきたラブホテルの掃除婦が抱く情弱さが悲しい「星を見ていた」。
ラブホテル経営へと乗り出す貧しい看板屋と彼に若さという燃料を体を繋げることで焚べ続ける少女の無邪気さが鈍く光る「ギフト」。
桜木紫乃さんの作品を読むのはこれが初めて。
性的なことを書きながらもどこか少女っぽさの残るいい意味で垢抜けない文章でした。
桐野夏生−(迫力×毒)=桜木紫乃という感じでしょうか。
登場する数人が中学を出てそのまま地元で働き、生活が苦しいまま、浮き上がることもない。
何となく桜木紫乃さんの親世代にあたる人々から影響を受けているのかなと思いました。
私の親戚にも中卒だったり文盲だったりした人がいましたが、だいたいそのくらいの年代でした。みんな亡くなりましたが。
「星を見ていた」の主人公の名前がミコで、他人事とは思えない気持ちで読み進めました。
中卒で働き、縁遠かったものの年下の男と結婚。
3人いる子供は中学を出ると家から去り疎遠に。
やがて夫は体の不調を訴え働かなくなるが、性欲だけは旺盛。
そんなミコに周りは同情をし親切にしてくれます。
みんなが自分に優しいのは「ものを知らなくて」「あまり賢くないから」ということをミコが気づいていないのにはイラッイラしました。
というか、この小説に出てくる女性たち全員に言えることかもしれん。
ただそれは彼女たちが望んでそうなったわけではないことくらいは私もわかっているわけで。
環境と親は選べんもんね。
私も田舎者だから、もし自分の育った環境が「女の子は賢くなくていい」とか「進学なんてしなくていい」とか「男に好かれるように」と小さい頃から仕込まれるようなところだったら、このような人生もあったかもしれないわけで。※しかしながら、地元徳島の女子の進学率は日本一で男子のそれを唯一抜いています…。だからちょっと想像しにくいのですが、桜木紫乃さんの親世代くらいなら考えられるかもしれないと思っています。
何か女性がこんな人生を歩まなくていい世の中になればいいな、なんて思ってしまう作品でした。
何やろう。やっぱり親や環境のせいで辛い目にあっても、そのまましっとり言う事聞かないで、ひと暴れしてくれる宮尾登美子×五社英雄作品のほうが私にはしっくりきます。おちょやんもしかり。
北海道の女性ってか弱いのかなあ。