爪が輝くと小さな魔法がかかる
人は「先」を整えることが大事だと聞いたことがある。
頭の部分である髪だったり、指先の爪だったり……。
あと、曲がることで角になる部分の
ひじや膝もだろうか……。
先の部分にこそ、
その人の品格があらわれる。
だから整えておきたい部分だ。
しかし、仕事や子育て、家事などに追われる身には
そのわずかな磨くという時間と手間さえ取れず難しい。
日常のあれこれに追われてしまい、
自分を手入れする時間など
なかなか取れない。
それどころか、睡眠時間さえ
削る日だって多い。
だから髪は数か月に一度
美容室でストレートパーマとカットを行い、
簡単に朝から手間をかけずに
整えられるようにしておく。
爪だって、もともと伸ばすのが苦手ということもあり、
少し伸びたなと思ったら
爪切りでバチンバチンと切っておしまいの
お手入れともいえないやり方だ。
もちろんすぐにはがれてしまうマニキュアはしないし、
はがれないというジェルネイルにも
憧れて一度お試しで
やってみたことはあるが
オフするのが手間に思えて、
もう再チャレンジすることはなかった。
だけど、ある日家族で温泉旅館に泊まった時に
大浴場の洗面室にあった
ガラス製の爪磨きが目に留まった。
誰でも試せるようにと
洗面台の横に商品の紹介文とともに
爪磨きが置かれていた。
ガラス製の爪磨きを手に取り
手の爪にあててこすってみた。
爪磨きを当てたところが、
艶を放ち
きらきらと光った。
お手軽に使えていいな、と
思ったわたしは、
その旅館の売店にあった
ガラス製の爪磨きを早速見に行った。
あまり旅行先で自分のために
物を購入することはないけれど、
これは欲しいなと思った。
そして購入した。
普通の爪磨きは粗くけずってから、
綺麗に仕上げ磨きをするという風に
順番があるが、
ガラス製の爪磨きは
順番のプロセスはなしで
一回で磨いていく。
時短をしたいわたしには
この一度で済む便利さがいいな、と思った。
購入してから、
バックの中のポーチにしのばせ、
朝、出勤前に立ち寄るコーヒーショップで
コーヒーを飲みながら、
小さなガラスの爪磨きで
ささっと爪を磨くのを習慣にした。
1分ほどの短い朝の習慣になった。
そんな短い朝の習慣でも、
少しだけ日々の過ごし方に変化をもたらした。
爪を磨き、指先が光る。
それだけのことで、
自分のきらきらしている爪先が目に入った時、
雑多なことに追われて忙しくても
美しさに心が動いた。
そして、保育園でお世話している4歳の女の子が、
わたしの指先をじっとみて
「きらきらしていてきれい」
とつぶやいた。
その女の子はおませなかわいい女の子で、
ちょっと子憎たらしい口を利く時もある。
そんな女の子が、
真剣な表情で呟いたのだ。
爪がきらきらしている。
わたしが思っている以上に
身体の先が整っていることは
人から見られており、
そしてお手入れができているということは
自分の気持ちも周りの人の気持ちも
ステキな一瞬を感じさせることなのかもしれない。
それはちいさいことだけれども、
魔法がかかる一瞬かもしれない。
そう思い、今朝も50歳になった年齢相応の手の爪に
ガラス製の爪磨きを
ささっとかけて艶を出して輝かせている。