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斎王からの伝言

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「第五世界の兆し」からの創作小説です
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2020年7月の記事一覧

斎王からの伝言[創作]9

9 流刑地

 2013年3月下旬、コウは日本の最南端である波照間島に来ている。去年の12月から沖縄、石垣島、西表島、黒島とアルバイトをしながら八重山諸島をめぐり、念願の島にやっとたどり着けたのだ。
 
 波照間島がコウにとって最終目的地となった理由が二つある。
 一つ目が、国立環境研究所が1993年から地球環境モニタリングステーションを建設して大気の観測をしている事だ。高精度の二酸化炭素の濃度測

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斎王からの伝言[創作]8

斎王からの伝言[創作]8

8 転職願望

 12月中旬、エマは自宅に居た。パソコンの前に座りプログラミングスクールをネットで検索している。今年(2012年)から中学校の技術家庭科で「プログラムによる計測・制御」が必修になっていたので、ますますその能力が必要になるだろうと考えていた。今すぐ仕事に就けるとは思わないが、将来的に準備だけはしておこうと学べる所を探していた。
 
 エマは人と関わる事に酷く苦痛を感じるため、家に引き

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斎王からの伝言[創作]7

斎王からの伝言[創作]7

7  幽玄

[幽玄]…奥深くて、はかり知れないこと。趣が深く味わいが尽きないこと。

 8月下旬、ミキは京都に来ていた。両親の説得と病院の引き継ぎで、能楽師になると決意してから準備が整うまで半年も掛かってしまったが、目処がついたところで予約した[ヴィパッサナー瞑想10日間コース]に参加するためだった。能楽の修行を始める前に、心身をニュートラルな状態にして、深い瞑想体験を味わいたいと考えていた。

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斎王からの伝言[創作]6

斎王からの伝言[創作]6

6 善く生きる

 3月上旬の土曜日、午後からチラホラと雪が降っていた。コウはお気に入りの紫色のコートを着て、メディアテークに来ている。図書館、イベントスペース、ギャラリー、スタジオからなる公共施設だ。一階にはカフェがあり、パニーニを注文して図書館で借りた本を眺めながらパクついていた。

「お待たせ~」身長180㎝の巨漢がコウの目の前にやって来た。黒いコートで何故か頭に年中サングラスを乗せている。

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