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ラブカは静かに弓を持つ【読書記録#10】
著、安壇美緒さん。2022年刊行。
第6回未来屋小説大賞受賞
第25回大藪春彦賞受賞
第20回(2023年)本屋大賞第2位
第69回読書感想文コンクール(2023年度)、高等学校の部の課題図書の1つにもなっています。
内容
主人公は橘樹。
20代半ばの男性で、全日本音楽著作権連盟の社員です。
橘は閉じた性格で、人付き合いが得意な方ではありません。
そんな彼に命じられたのは、ミカサ音楽教室への潜入。
橘が所属している全日本音楽著作権連盟(全著連)は、国内の音楽著作権を管理している会社です。
全著連は、「音楽教室で演奏される音楽にも著作権が発生する」として、大手の音楽教室から著作権使用料を徴収しようとしています。
しかし、一方で大手音楽メーカーのミカサ側は「音楽教室での演奏には著作権が及ばない」として、全著連を提訴することに。
そこで橘に課せられた任務は、「2年間ミカサ音楽教室に通い、ポップスなどの管理楽曲が不正利用されている現場を押さえる」ことでした。
5~13歳まで、チェロ歴のある橘。
ミカサ音楽教室のチェロ講師、浅葉桜太郎(あさばおうたろう)の元で、レッスンを開始します。
音楽教室から著作権使用料を徴収するとかしないとかっていう話は、JASRACとヤマハ間で実際に起こったできごとですよね。
「ラブカ」とは
タイトルで気になっていた「ラブカ」。
なんだろう、って思っていたのですが。
実在する生き物でした。
深海サメです。なかなかに強面のサメ。
作中では、橘が発表会で弾く楽曲として登場します。
それが、「戦慄き(わななき)のラブカ」。
チェロ講師の浅葉桜太郎(あさばおうたろう)が提案してきた曲です。
同名の映画(架空)の劇伴になっているという、「戦慄きのラブカ」。
映画のあらすじは、諜報機関に所属している孤独な男が潜入先の敵国で自分の居場所を見つけるというもの。
「あの、ラブカってなんですか?」
「醜い魚の名前だよ。ラブカっていう深海魚」
素性を偽って平穏な市民生活に潜り込んでくる敵国側のスパイのことを、作中でそう呼んでいるんだって、と何も知らない浅葉が言う。
なんだか、橘の境遇とすごく似ています。
「ラブカ」って、きっと橘のことを指していますよね。
そして、「静かに弓を持つ」の「弓」は、チェロの弓。
橘がチェロを弾いている画が想像できます。
自分の「居場所」ってどこだろう?
作中で出てくる「戦慄きのラブカ」。
「諜報機関に所属している孤独な男が潜入先の敵国で自分の居場所を見つける」映画の楽曲。
それこそ、この本のメインテーマなのではないかと思いました。
もともと、主人公の橘が所属しているのは「全著連」です。
序盤で、上司に「著作権に関する訴訟で、全著連とミカサのどちらが勝つと思うか」と聞かれた際には、はっきり「全著連」と答えています。
なのに、2年間レッスンに通ううちに、敵方であるミカサ音楽教室で「自分の居場所を見つけ」てしまうんですよね。
橘にとっては「潜入」っていう意識はそこまで強くなくて、上司に言われたから「レッスンに通っている」っていう意識だったのかなと思うのですが、チェロを弾いたり浅葉や他のレッスン生と交流することで、彼の心がほぐされていくような感じがしました。
浅葉と、浅葉のもとに通うレッスン生には、橘の本当の身分は明かせません。(潜入だって、ばれてしまいますからね)
橘は、職業を「公務員」と偽りながら、コミュニティになじんでいきます。
でも、約束の2年は近づいていて、裁判の日も間近に迫ります。
自分の素性が、もうすぐバレてしまう。
そんなとき、どうしたらいいのか。
任務を全うして潔く潜入先を裏切れるのか。
読書感想文コンクールの課題図書
「ラブカは静かに弓を持つ」は、第69回読書感想文コンクール(2023年度)の課題図書に選出されています。
選定理由が、ホームページに載っていました。
【選定理由】
主人公の目や耳を通して、音楽の本質に読者に触れてほしい。また音楽を通して変化していく、主人公の苦悩や想(おも)いを読者に感じ取ってほしい。
キーワードは、「音楽」なんですかね。
でも、私はそれ以上に、「自分の居場所」について考えさせられる小説だなと思いました。