「夢はお店を出すこと」夢を10年先のばしてでもたずさわり続けたい「飛行機の裏舞台」羽田空港グランドサービス小林さんインタビュー
飛行機の安全を守り、かつ時間どおりに運航させる裏方として、「グランドハンドリング」という職種があります。出発するときに飛行機を車で押し出すけん引から、着陸した飛行機の誘導、貨物の積み入れ・積み下ろし。さらには手洗いでおこなう機体洗浄まで、その仕事の幅は広く、資格は100以上と言われています。
国内線となれば、到着してから30分〜1時間という短時間で次のフライト準備を確実におこなう彼らは、まさに空の旅を支える地上のプロ集団。今回そんなグランドハンドリングの分野で、貨物を扱って10年になる羽田空港グランドサービス株式会社の小林さんに、お仕事の醍醐味と、この職業との出会いについてお聞きしました。
■ 動物から高級品まで。日々扱うものが変わる現場
--- 貨物を担当されているそうですが、どんなものを扱っているんですか?
わたしが扱っているのは、ほとんどが特殊なものです。犬やネコはもちろん、ライオンなどの動物の輸送もしますし、車のボンネットや、時にはベンツも扱います。高級品は日常的に目にしているので、感覚がおかしくなりましたね(笑)
事前にご予約を頂いている貨物が、締め切り時間までに届いていないと、皆さんがよく耳にする「○○便にご搭乗の○○様」と同じように、お客様へ連絡をします。
締切時間まで間もない中で、「もう着きます」と言われても、空港周辺道路は広いので、指定便に乗せられるかどうかの判断も含め、なかなか大変なんです。(笑)
--- 人を探す以上に、大変そうですね。1日何便ほど担当されるんですか?
勤務はシフト制なんですが、9時から17時半の勤務だと、1人20〜25便を担当しますね。担当の便は、路線で決まるというよりも、時間で決まります。
いまメインでやっているのが、お客様の貨物をコンテナに積む「積み付け」という作業なんですが、肝は一個ずつ搬入されたものをいかにうまく積んでいくか。毎日、同じことのくり返しの作業と思われがちですが、貨物はその日にならないと何がやってくるのかわかりません。その日届いた貨物たちを、どうすればうまく輸送できるか、頭を使いながら貨物を積んでいっています。
--- 直前まで貨物の中身はわからない、けれど安全性と時間は求められるってなかなか大変なお仕事ですよね。
はい。それだけに、遅れてきた貨物をオンタイムで載せることができたときはテンションがあがりますね。
以前、動物のラマの輸送をお願いされたんですが、ラマが大きすぎて、コンテナに入らなかったことがありました。いろいろと考えをめぐらした結果、フォークリフトであげて、木箱の下部を5センチ切れば入るんじゃないか、と。実際やってみたら、うまくラマを入れることができました(笑) 指定の便に搬入できたときは、達成感がありましたね。
■ 飛行機の裏舞台デビューは「機内清掃」
--- 小林さんは、入社してからずっと貨物を担当されているんですか?
いえ、入社後すぐに担当したのが、機内の清掃でした。到着して、お客さん、CAさんが機内から出ていくのを待ってから、シートポケットにある雑誌を交換したり、トイレや、CAさんが食事や飲み物の準備をするギャレーという場所のそうじをしたりするんです。
大型機と小型機でちがいますが、ボーイング777だと15人のチームで、10分ほどでおこないますね。チームで競いながら、どちらがいかに早くキレイにできるか勝負していました。仕事なんですけど、スポーツみたいな感じでとても楽しかったです。
--- ピリピリした雰囲気なのかと思っていたので、意外です(笑)
当時のチームメンバーが同世代だらけだったこともありますね。週3〜5回くらい遊ぶほどの仲の良さでした。仕事をやるときは全力でやる、脱力するときは思いっきり休むという、メリハリのある一体感がとても居心地がよくて、10ヶ月間でしたが、ほぼストレスなく働けました。
その後は、機内食や(機内でお子さまに配る)おもちゃの詰め合わせを作るケータリングの仕事を経て、それから貨物をずっと担当しています。
--- 機内そうじに、機内食などのケータリング。仕事の幅が広いだけに、新しい仕事に触れやすいのもいいですね。
はい。貨物に配属されて1年くらい経ったあとに、成田にあるビジネスジェット機の整備補助作業を兼務した時期もありました。ビジネスジェット機は、全席がビジネスクラスで全部革張りのシートなんです。そのシートをはずしてゴミをとったり、消毒したり、本当に大そうじです。大変でしたが、成田と羽田は雰囲気や環境もちがうので、リフレッシュしながら仕事をすることができました。
他にも、国内の別の空港や、ときには海外の空港の研修にも参加できます。いろいろと新しい現場や、新しいものに触れられる機会を手にできるのは、この仕事の魅力の一つかもしれませんね。
■ 気づけば10年。本当は「つなぎのバイト」のつもりだった
--- ところで、小林さんはここが一社目ですか?
いや、2社目です。以前は和食のお店で働いていたんですが、そのお店が閉店することになってしまって。料理やお酒の勉強はしていましたし、将来的には自分の店を出すのが目標だったので、この際だからと閉店後に姉とお店を出そうと計画していました。
だけど、入居する予定だったビルのオーナーが変わり、新しい家賃じゃあまりにもお店を出すのが難しくなっちゃって……。だから、とりあえずつなぎのバイトをしながら計画を立てることにしたんです。
--- つなぎのバイトがもしや……
そう、ここなんです(笑)つなぎでやり始めたら、あっというまに10年が経っていました。本当は、よく友だちと海に行くほどの海好きだったので、クルーザー関係の仕事でつなごうと思っていたんですけど、そこの募集はすでに締め切られていて。その隣にあった募集がいまの会社だったんです。
--- 航空業界で働いている方って、空が好き・飛行機が好き・旅が好きの方ばかりというイメージだったので、おどろきです(笑)
そうですよね。わたしのまわりで働いている人だと、空港や乗り物が大好きな人か、まったく興味がない人に分かれます。就職活動でエアラインを受けたけど落ちて、でもどうしても空港で働きたくて、という人もいますね。
今じゃエンジン音で機体がわかるようになったり、これをすると飛行機によくないということがわかってきましたが、小さいころは空港へよく足を運んでいたわけでもないし、飛行機にもすごい興味があったわけでもない。でも、小さいころから「立入禁止」とか、入っちゃいけないところに入りたい欲求は強くありましたね。そういう意味では、空港も入れる人や場所が限られているんですよね。
--- たしかに、飛行機が飛ぶまでの世界ってなかなか知りませんよね。
そう、空港の裏側って限られた人にしか知らない世界が広がっている。その世界をこの目で見てみるのもいいな、と。わたしはおそらく好奇心が強くて、やりたいことが次から次へと増えちゃう人間なんですよ。だから、チャンスが転がっていて、新しい仕事をとっていける空港での仕事はわたしに合っているのかもしれません。
もちろん、最終的にはお店を出したいとは思っていますが、あせって出すよりも、タイミングがきたときに出せればいいかなと思っています。グランドハンドリングでも飛行機のけん引をはじめ、やりたいことがたくさんありすぎて、1日が足りないくらいなので(笑)
■ さいごに
--- 小林さんから見て、グランドハンドリングはどんな方が向いているのでしょうか。
いやというほど確認作業があるので、几帳面すぎるとこの仕事はかなりストレスがかかると思います。
確認作業にかけられる時間も限られているので、一個一個の作業を確実にできる人が向いているように思います。私が几帳面ではないので(笑)
(文・写真:misaki)
★ 今回のインタビュー記事は、いかがでしたか?
グラハン(グランドハンドリング)には、他にも様々なものがあります。
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空港を支えるプロ裏方の情報が盛りだくさんのサイト「空港の裏方お仕事図鑑」では、他にもたくさんのインタビューを掲載しています。ぜひご覧ください!
空港の裏方お仕事図鑑 URL: http://hataraku.jfaiu.gr.jp/
ライター:misaki
91年福島県生まれ。大学卒業後に地域活性の仕事を、その後転職したWeb制作会社では、企業のオウンドメディア運用に従事。フリーとなった現在はWebのみならず、新聞や書籍の編集も行う。25カ国へ足を運ぶほど旅好きで、一番スキな国はギリシャ。