超過密の福岡空港で、会社の垣根を超え運航支える特殊車両整備 使命感と誇りを胸に秘めたスペシャリスト/株式会社JALエアテック 山﨑さんインタビュー
九州の「空の玄関口」である福岡空港は、国内線・国際線の双方に対応し、その発着便数は国内屈指を誇ります。さらに高まる需要に応えるべく、2025年の完了へ向けて旅客ターミナルを始めとする空港の再開発が進められています。
みなさんも空港の展望デッキから、航空機以外にたくさんの車両があるのを見たことがありますよね。それらの車両は、航空機の旋回や後退、航空機への電源や燃料の供給、荷物の積み込み・積み出し、乗客の乗降などに欠かせないもの。その特殊車両の整備・点検・修理を、航空会社の枠を超えて手掛けるJALエアテックの山﨑さんに、仕事と職場の魅力について、お話を伺いました。
■凄腕の先輩たちに憧れて、気がつけば17もの資格を取得
山﨑さんが所属するのは「施設GSE事業部」。GSEとは、「Ground Support Equipment」の略で、航空機地上支援車両を指します。山﨑さんは入社18年目を迎え、身に付けた幅広い技能でセクションチーフとしてチームの8人のメンバーとともに車両整備の業務に日々あたっています。
[福岡空港では山﨑さんの他15人が交代で特殊車両整備を行う]
空港の特殊車両とひと口に言っても、航空機をけん引する車両、乗客用の階段が付いている車両、貨物用のベルトコンベアを載せた車両など、さまざまな用途に合わせた多種多様な形状の車両があります。さらに、福岡空港では、全国でも珍しく系列会社の枠を超えて、乗り入れ航空会社のさまざまな特殊車両の整備を、山崎さん達JALエアテックのメンバーが一手に引き受けているため、それらすべてを手がける豊富な専門知識と高度な技能が必要となります。
--- 特殊車両整備の仕事に就くきっかけは?
子供のころから車や機械いじりが好きだったことから、将来は整備の職に就こうと、自動車整備の免許が取得できる工業大学に進学しました。ですから、いざ就職活動になると、まわりには自動車業界を目指す人はたくさんいましたね。でも、当時は自動車ディーラーに整備士として技術畑出身で入社しても、大卒は数年で営業職に配属されるケースが多くあったことを知り、悩んだのですがそちらには進みませんでした。現場仕事やデスクワークは好きなのですが、どうしても人と話すというか、セールストークが苦手で、営業は自分には向かないだろうと。ずっと整備の現場に携わりたかったことが第一です。
卒業後も就活を続けましたが、就職氷河期も重なり苦労しました。そんなとき、大学の恩師に当社を紹介され、話を聞いてみると、いろいろな機械を扱って特殊車両の整備を行えることや、ずっと工具を握って現場で整備の仕事を続けられることを知り、当社への気持ちが高まり選考を受けました。無事採用が決まり、新卒でしたが中途採用の方と一緒に入社しました。
自分の場合、正直いって学生時代は、飛行機は少し縁遠い存在と思っていましたね。今の空港の仕事は、あくまで自動車整備が入口でした。
--- 入社してみて、イメージと違っていた点はありましたか?
福岡空港の車両整備業務は全国でも珍しく、JALエアテックがJAL関連だけでなく、ANAやスカイマーク、スターフライヤーなど他社の特殊車両の98%を整備しているのは、入社後に知りました。
それと入社前は、ターミナルビルの華やかな印象、ラウンジの高級感などを空港のイメージとして捉えていたのですが、ターミナルとは離れた空港の一角にある整備場は、そのイメージとは全く違って、昭和の町工場のようなものでした。当時は米軍飛行場時代の建物に手を加えて使っていましたから。自分は、もともと機械学科ですし、暑い寒いも嫌いではないので、それよりも仕事の面白さが勝っていました(笑)。
[1年前の建替えまで現役だった写真左の整備場は、米軍板付空港の名残り]
今は、1年前に整備場の建物が新しくなって設備も充実し、会社側も色々対策をしてくれているので、以前よりは格段に働きやすい環境になっていますね。とくに熱中症対策は、ドリンクはもちろん、スポットクーラーを配備したり、環境は良くなってきています。
--- 大学での整備知識は入社後の特殊車両整備に役立ちましたか?
特殊車両は、一般的な自動車とは構造が異なる部分が多いので、大学時に取得した整備ライセンスは勉強どまりで身についていなくて、基礎知識でした。ほとんどは先輩方の動きを見て覚えていった感じですね。
入社当時は、空港内の荷物用ベルトコンベアやX線検査機、トーバーとよばれる飛行機をプッシュバックする棒などの整備を担当する機材課が車両課と分かれていて、最初の5、6年は機材課で整備にあたりました。
[まだ新しさの残る整備場の前で仲間と]
でも、その後に組織が変わって、特殊車両も扱うようになったときには分からないことも多くて困りました。機材課での経験はあっても車両の整備経験は応援程度しかなくて、ただ年次的にも「新人」ではなくなっていた分、「こんなことも分からないなんて」と聞きにくくて。
それでも、熟練した先輩や同僚に、いろいろな場面で助けてもらいながら技術や知識を身に着けていきました。自分も早く一人前にならなければ、という思いで仕事に取り組んでいました。
--- 腕を磨き続けて変化したことや、成長した実感はありますか?
自分たちの技量を目に見える形で表せるものでは、これまでに取得してきたいくつもの資格証があります。私の場合、現在は17の資格をもっています。ガス溶接、電気工事士、フォークリフト運転、高所作業車運転、大型特殊車両運転など、いずれも業務に必要となるものなので、ひとつずつ勉強して取得してきました。
業務上必要な資格の取得なので、取得費用の負担や受験時の業務時間調整などで会社が全面的に応援してくれて助かりました。今の私があるのは会社のおかげでもあります。資格証が増えていくと、自分の身に付けた技能の幅が拡がっているのがひと目でわかるので、自らの成長を実感できる指標ともいえますね。
変化といえば、昔は目の前の車両や機械だけを見て仕事をしました。だから、整備士として100%修理することにこだわっていました。でも、今は、実際に車両を使うオペレーターを透かし見ながら、彼らが車両をどう使って、お客様を安全に飛び立たせるのかを考えて仕事をするようになりました。これは、仕事を通じたり、一緒に飲みに行ったりするなかで各社のオペレーターやコントローラー、グラハンの人たちの仕事が分かってきたのが大きいかもしれません。
他にも、以前は車両故障の整備などは職人技的な部分もあるので、センス:知識=9:1といった感じで仕事を探求していました。でも、車種がどんどん増えたりするなかで、職人の勘を研ぎ澄ませての修理にはいつか限界が来ると感じて、今ではセンスと知識を半々に考えるようになりました。マニュアル化などによって、幅も広がったと思います。
■どんなに困難な状況も乗り越える職人プロ集団の底力
--- 特殊車両整備のスペシャリストとして、やりがいや楽しさを感じるのはどんなときですか?
福岡空港の機材をほぼすべて扱っている我々が、この空港を支えているという自負があります。ただ、私たちの車両整備は、スペシャリストとして「普通が最高」でなければいけない仕事です。だから、日ごろ仕事の発注を受ける航空会社のラインコントロールの車両担当者から、特別に評価を得ることが少ないですね(笑)。
そもそも車両整備業務は、各社から依頼を受け計画を立てた定期点検を実施するのに加えて、突発的な故障への対応を迫られながら、過密発着のある福岡空港の航空機運航に影響を及ぼさない仕事を常に求められます。それに、福岡空港のスポットでは、JALの次にANAが入ることが往々にあるので、どこかの会社を優先するのではなく、福岡空港全体が回るかを考える必要があります。
それに旅客のお客様に接することは余りありませんが、私たちが車両に対して行う点検や修理が、みなさんの安全と快適な旅を支えていると実感はあります。
また、地方の空港ではこれまで、地元の自動車修理工場に特殊車両の整備を依頼していたのですが、海外部品の増加や車両が多種多様になってきたこともあり、それが難しくなってきました。そのため、福岡空港の車両整備の豊富な経験や技能の高さが認められて、私たちが九州各地や山口県の空港に整備に行くことが増えたのですが、ほかの空港のインフラ整備に関わる技術支援で私たちに声がかかったこともありました。いろいろな方面から頼りにされるのは、ありがたいし、嬉しいものです。
■技術への信頼、子猫騒動や九州各地や山口の地方空港への技術支援にも
信頼されているといえば、数年前にJALの支店長から「子猫をなんとかしてほしい」と連絡が入る珍しい一件がありました。話を聞いてみると、JALの飛行機が止まっているランプに子猫が迷い込んでJALの職員が見つけて捕まえようとしたところ、子猫が近くにあったANAの2tカーゴトラックの中に逃げ込んでしまったと。覗いてみるとラジエターの羽の周り部分に子猫の姿は見えるのですが、向こうも必死なので、色々試したけれど捕まえられなくて困っているので助けてほしいと。
早速、たくさんの工具をもって現場に駆け付けると、JALとANAの人達がずらりと車を取り囲んでいて、異様な雰囲気でしたね。そんな中で車両の一部を慎重に解体、子猫を無事に救出したときには、両社から集まっていた人が声をあげていました(笑)。各社でターミナルが分かれていない福岡空港らしいエピソードだと思います。
■学び続ける刺激に満ちた仕事と社員思いの環境が成長を促す
--- 福岡空港で働くことの良さは何でしょうか?
個人的には、飽きることがない仕事であることが魅力だと思います。もちろん町の自動車整備では味わえない、車種の豊富さや特殊性もあります。それに、福岡空港では、車両と器材の整備をできて1人前なので、縦割り作業になるほかの空港にくらべて幅広い経験を積める職場といえるでしょう。さらに、JALだけでなく、航空会社の垣根を越えて多種多様な車両を整備します。そのため、新たな技術により多く触れて刺激を受け続けるので、飽きることなく仕事に向き合うことができます。そういう状況を楽しめる人には魅力的な職場だと思います。
[福岡空港にしかないJAL/ANA共用のトーイングカー]
それに、働きやすさという点でもおススメです。休日が不規則と思われがちな車両整備の仕事ですが、福岡空港のJALエアテックに関しては、9時17時勤務で残業もほとんど発生しないので、土日休みの週休2日でしっかり休めます。ここは、地元の自動車ディーラーの整備士さん達にも羨ましがられます。このあたりは、普段から航空会社との信頼関係があってこそだと思います。それと、通勤時間も他の空港に比べて短くみんな30分程度ですね。
[整備場事務所にあるくつろぎスペースに集まったメンバー]
このようなモチベーションを高く保ちながら、高水準のパフォーマンスで働くための環境づくりは、自分の今後のチャレンジとしてもっと改善していきたいと思っています。残業ゼロ目標はもちろん、職場の皆が月に1回は有休をとれるように働きかけをし、雰囲気作りにも努めています。それと、福岡空港はこれからもっと航空会社の乗り入れが増えて、特殊車両整備の重要度が増していくので、ディーラーなどで働いていた自動車整備の知識や技術がある方にも、ぜひ来てほしいですね。会社では中途採用にも力を入れていますので、HPとかチェックしてもらえると嬉しいです。
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展望デッキとはくらべものにならないほどの大音量と迫力で整備場の前を通過してゆく航空機。整備場を背景に、仕事中の作業着ではなくワイシャツ姿でカメラの前に立った山﨑さんは「秋から冬にかけて、正面に見える国際線ターミナルビルの向こうに沈んでゆく夕陽がきれいなんですよ」と、ひと言。遠くを見つめるそのまなざしは、明日の自分自身を見すえているようにさえ感じられました。
(文:堀 雅俊、写真:梅本昌裕)
★ 今回のインタビュー記事は、いかがでしたか?
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空港の裏方お仕事図鑑 URL: http://hataraku.jfaiu.gr.jp/
ライター:堀 雅俊
東京での編集プロダクション勤務とフリーライター経験を経て、2015年に出身地である北九州へ活動の拠点を移す。人物取材を数多く手がけ、文化人、芸能人、企業トップ、研究者、専門職スタッフなどを対象とした取材記事およびコラムを幅広いジャンルの媒体に寄稿。北九州ライターズネットワーク会員。https://www.facebook.com/writerznetwork/
カメラマン:梅本 昌裕
北九州のタウン情報誌専属カメラマンとして勤務した後、2005年よりフリーとして活動を開始。現在も北九州市で、情報誌やホームページ向けの写真を中心に、企業PR写真、北九州市PRパンフ、イベント記録のほか、動画やドローン空撮などの撮影も手がける。