「お客さまの“一生の思い出”を作る仕事」接客にマニュアルはなし!経験で磨く一期一会のおもてなし / ANAエアサービス松山 佐々木さんインタビュー
空港では、多くのスタッフが私たちを出迎え、見送ってくれます。その中でも、グランドスタッフは、チェックインカウンターで私たちを最初に迎えてくれる存在。空港の“顔”と言っても過言ではありません。チェックインカウンターだけを見ていると、華やかな仕事に見えますが、その実態は……!?
今回は、愛媛県の松山空港でグランドスタッフとして働く、株式会社ANAエアサービス松山 佐々木さんに、お仕事の内容や“やりがい”などを伺ってきました。
■ グラハン・貨物を経て、地元愛媛でのグランドスタッフデビュー
--- グランドスタッフのお仕事内容を教えてください。
お客さまの手荷物のお預かり、搭乗手続き、搭乗ゲートでのアナウンスなど、旅客業務全般を担当します。お客さまが空港に到着してから、飛行機に乗り込み、出発するまで関わる仕事ですね。勤務時間内に、複数の持ち場をローテーションしていきます。
--- その中でも一番好きな業務はありますか?
搭乗ゲートでのご案内やお見送りが好きですね。飛行機に近いので、空港で働いているということや、飛行機の運航に自分も携わっていることが実感できるからです。お客さまへの対応がメインになる、カウンター業務も好きですね。様々な方と接する機会があるので、接客が好きならやりがいを感じられる業務だと思います。
--- ベテランスタッフのように見えますが、経験は長いのでしょうか?
実は、グランドスタッフになってからは、まだ1年半くらいです。入社してからそれまでの約9年は、グランドハンドリング業務(以下、グラハン)に従事していました。
元々はグラハン希望で入社したんですよ。高校の修学旅行で沖縄に行ったのですが、そこで初めて空港の仕事を見る機会がありました。飛行機をプッシュバック(※1)している様子を見て、「こんな仕事もあるんだな。」と興味を持ったのがこの業界を目指すきっかけでした。
※1プッシュバック…自力でバックができない航空機を、トーイングカーという特殊な車輛を使い、駐機場から押し出すこと
高校卒業後は大阪の航空専門学校へ進学し、就職は地元愛媛でと考えました。無事当社、ANAエアサービス松山に就職し、希望通りのグラハンに配属され、社会人のスタートを切りました。その後は貨物業務も経験して、大阪(伊丹空港)へ2年半ほど出向。松山空港に戻ってきてから旅客業務のグランドスタッフを担当することになったんです。
■ 「一期一会の出会いなれど……」お客さまからの忘れられないメッセージ
--- 元はグラハン志望だったということは、旅客サービスに異動になったとき、抵抗感はありましたか?
正直、少し残念に思う気持ちはありましたね。でも私は「もっと明るく楽しく」がモットーなので、どの部署に行っても、その業務を楽しもうと考えることができました。グラハン、貨物、グランドスタッフの仕事には、それぞれの面白みややりがいがあります。貨物のときは、「俺は貨物で生きる!」と思っていましたが、今は「旅客サービスで目立とう!」と思っています(笑)
--- グランドスタッフのお仕事には、どんなやりがいがありますか?
お客さまに「ありがとう」と言われるのが嬉しいですね。この一言をもらえることが、さらに良い接客を目指すモチベーションにも繋がります。
旅客サービス課に配属されて間もない頃、高齢の女性で、車椅子に乗ったお客さまをご案内することがありました。搭乗手続きをしたあと、搭乗ゲートまで色々とお話しながら車椅子を押していたのですが、お客さまが「お手洗いに行きたい」とおっしゃったので、お手洗いにご案内しました。その後、飛行機に搭乗する間際に手書きのメッセージをいただいたんです。
メッセージには、『一期一会の出会いなれど、また会いたいと思う人に』と書いてありました。お客さまには、「あなたが対応してくれて良かった。また会いたいと思うから、このお手紙を差し上げます。これからも飛行機に乗る機会があるので、その時はよろしくお願いします。」とおっしゃっていただいて。
そんなに感謝していただいたことは初めてだったので、今でも鮮明に覚えています。「自分の仕事は間違っていなかったんだな、これを糧に頑張って、次にお会いするときはさらに良いサービスをしたい。」そう思いましたね。
--- 佐々木さんにとっても、良い出会いになったんですね。“接客”のマニュアルなどはあるのでしょうか?
接客に関してのマニュアルのようなものはありません。
経験を積み上げていくことで接客法を磨いたり、先輩の対応を見ながらそれを取り入れてみたりすることで、身につけていきます。様々なお客さまの対応をしますし、毎回同じことが起こるわけではないので臨機応変に対応するためには、自分で磨いていくしかないですね。
これは職業病のようなものなのですが、プライベートで出かけているときに、他人の接客を観察してしまうことがあります。
良い接客は自分にも取り入れたいし、悪い接客は反面教師にもなります。ただ、「なんだこの接客は!」と必要以上に苛立ってしまうときもあるんですけど(笑)
--- 他人から接客法を学び取ることもあるんですね。
そうですね。特に、ホテルの方の接客法は見習いたいと思います。
ホテルで働いている方々は姿勢良くビシッとしているので、それだけでもホテルのブランドや雰囲気を作りだしていますよね。ANAのカウンターでも雰囲気はすごく大事なので、私もビシッと立ち、お客さまをお出迎えしたいと思っています。
後輩から学ぶこともあるんですよ。いつも絶えずニコニコしている後輩がいて。お客さまのニーズを汲み取るのが上手で、自分からアクションを起こせるんです。爽やかで、その後輩がいるだけでその場の空気が明るくなるのがわかります。私もそうでありたいと思いますね。
■ 「空港で働く人みんなが知り合い」小さな空港ならではのアットホーム感
[佐々木さんが働いている松山空港のロビー内]
--- 接客をする上で、嫌な思いをすることもありますか?
ときには厳しいご意見をいただくときもあります。飛行機の整備不良などで欠航になってしまったときは、振り替え輸送の手配をするのですが、そこでどうしても怒りがおさまらずご意見を頂戴するお客さまもいらっしゃいます。それぞれの事情があって、「この時間のこの飛行機」を選んでいただいているので、ご予定を変更していただく必要があることに対しては、本当に申し訳なく思います。
謝罪をしただけでは、お客さまが失った時間を取り戻すことができません。一人ひとりのお客さまの振り替え輸送の手配をすることで、チェックインカウンターには大行列ができてしまいます。それがさらにお客さまにご不便を感じさせてしまうこともあるんです……。
--- そういったお客さまに対しては、どのような対応をしていますか?
慎重に、より丁寧な接客を心がけています。そして、丁重に謝罪するところから始めます。次に、ただ謝るだけでは何もわからないままなので、お客さまのお話をしっかりと伺います。そうしているうちに、「聞いてくれてありがとう」と笑顔で帰られていく場合もありますね。
--- 人間対人間だと、どうしてもストレスが溜まってしまうこともありますよね。
そうですね。そんなときには、飲みに行ったり、趣味のゴルフをしたり、何かしらの気分転換をしています。あとは、家族の存在が支えになっていますね。
--- 同じ職場の方と飲みに行くのでしょうか?
もちろんそれもありますが、松山空港は地方空港なので、会社関係なく空港で働くいろんな会社の方と飲みに行くことも多いです。ゴルフに一緒に行くこともあります。小さな空港ならではかもしれませんが、空港で働く人みんなが知り合いなんです。アットホームというか、人と人とのつながりがとても温かい職場です。
旅客サービス課のみんなも仲が良くて、その分チームワークも良いです。
スタッフの中に中国語を話せる女性がいるんですが、彼女が休みの日に中国国籍の方がいらっしゃった場合は、みんなであたふたしながらもiPadの翻訳ツールや中国語表記の案内ツールを使って、お互いにフォローし合いながら業務に取り組んでいます。
■ 2020年の東京オリンピックに向けて
--- 外国人のお客さまも多いんですね。
アジア系を中心に、欧米からもたくさん松山空港にいらっしゃいます。
2020年にはオリンピックもあるので、それに向けて英語を勉強したいと思っているところです。英語が話せないと、きちんとした会話のキャッチボールができないですよね。それだとお客さまも不安になってしまう。もし自分が海外へ行ったときにそうだったら……と考えると、不安にはなりたくないですよね。
ジャパンクオリティの「おもてなし」をできればいいなと思っています。アナウンスも、英語でできるようになればと。お客さまにとっても、自分にとっても良いことだと思うし、必要なことだと思います。
--- 普段のアナウンスは得意ですか?
よく噛んでしまいます。(笑)アナウンスの途中で頭が真っ白になって、次に何を話すのかわからなくなってしまったことも……。
この経験を踏まえて、端的に伝えることや、自分の頭の中でしっかり練ったものをイメージしてから、アナウンスに臨むようにしました。それでも噛んでしまうことはあるんですけどね(笑)
--- これから、どんなことにチャレンジしていきたいですか?
運航管理や総務系、人事、特に人材育成の仕事もしてみたいです。人と関わることが好きなので、自分が指導した人材が成長する姿を見られたら、嬉しいだろうと思います。
プライベートでは、今年1歳と5歳になる子どもがいるので、家族との時間をしっかりと作って、一家の大黒柱として、良き父親として成長していきたいです。シフト勤務で、出勤が早かったり、帰宅が遅かったりするのですが、早く帰れる日は子どもと一緒にお風呂に入るようにしています。休みが合えば、子どもを連れてお出かけすることもあります。
■ サプライズでお客さまの一生の思い出を作る
--- 松山空港の好きなところはどこですか?
一番飛行機がよく見える、3階の展望デッキです。一般の方にも人気のスポットで、飛行機好きの方なら、よく写真撮影に来られていますよ。あとは、夕陽が沈んでいく様子がとてもきれいで、着陸のときは感動的です。飛行機好きの方にはたまらない職場だと思いますよ。実際に、私の周りにも飛行機好きの方が多いですね。
--- グランドスタッフを目指す方へのアドバイスをお願いします。
飛行機好きの方なら、自分の好きなものの近くで働ける良い仕事です。そして、グランドスタッフは、接客の楽しさや、やりがいを存分に味わえる職業だと思います。
様々なお客さまがそれぞれの事情で飛行機をご利用されるので、自分自身も多種多様の接客が経験できます。たとえば、ハネムーンでご利用のお客さまなら、接客の際にサプライズのあるおもてなしをすることでで、自分の接客がその方の一生の思い出になることもあります。単純な“接客”だけではなく、その一歩二歩先に踏み込んだ関わりが持てる、素晴らしい仕事です。
もちろん、「人対人」の仕事なので、複雑な問題に対応する難しさもあります。それはどの業種でもそうですが、それ以上にやりがいやおもしろさを味わえると思います。空港で働いているというだけで、日々様々なことに出会える楽しい仕事だということは、自信を持って言えますね。
(文・写真:吹原 紗矢佳)
★ 今回のインタビュー記事は、いかがでしたか?
グランドスタッフには、他にも様々なものがあります。
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【グランドスタッフってどんな仕事?】:https://note.mu/koku_aruaru/n/n5d7a9b57333d
空港を支えるプロ裏方の情報が盛りだくさんのサイト「空港の裏方お仕事図鑑」では、他にもたくさんのインタビューを掲載しています。ぜひご覧ください!
空港の裏方お仕事図鑑 URL: http://hataraku.jfaiu.gr.jp/
ライター:吹原 紗矢佳
1985年兵庫県生まれ。愛知県在住のフリーライター。大学を中退後、放浪の人生を送る。17歳の年の差婚を経て、ライター業に辿り着く。普段は愛知県を中心に、ローカルメディアや病院情報誌などで執筆。車やバイクなど、乗り物全般が好き。今回の取材を経験したことで、飛行機・空港の新たな魅力にハートをわしづかみにされる。