薄いからすぐ読める仏教書5選
薄い本はそれだけで魅力的だと思います。
薄い本が、内容まで薄かったらかなりがっかりしますけど、「薄い本なのに人生変わった!」みたいな読書体験があると、その薄さがものすごい魅力に変化します。よくぞそこまで簡潔にまとめてくれましたね、ありがとう!という気持ちになります。
今日ご紹介するのは仏教の本です。
ちょっと難しい仏教の哲学を薄い本で学べたらうれしいと思いませんか?
お釈迦様ご自身も言説の中で「顛倒(てんどう)」という表現をなさってますが、仏教の哲学的な教えは世の中一般の常識的な認識と「逆」になることが多い(いや、逆だらけ)なので、そこが『わからなさ』の一端を担っていると思います。
そういう組み込まれた『わからなさ』をうまく回避し、かつ、仏教の本質を伝えることは高度な文才を必要とすると思います。
今日ご紹介する幾つかの書籍は、仏教をこれから勉強してみたい方にも、また、他の分厚い仏教書を読んでみたけど消化不良になっている方にとっても読んでみる価値のあるものかも知れません。
自分なりの拙いコメントを付けて5冊紹介させていただきます。
釈尊のさとり ー 増谷 文雄 (著)
仏教学者の中では非常に有名な存在でいらっしゃる鈴木大拙先生という方がおられます。仏教の研究を英語圏の人々にもわかりやすく伝えようと活動された方です。この本は、そのお弟子さんでいらっしゃる増谷文雄先生の著作です。
冒頭を鈴木大拙先生が英語で講演されたときのエピソードから始まります。
この本は今日ご紹介する本の中でもずば抜けて薄いです。
その上、我々日本人の感覚・価値観をベースにして話が進んでいきますので、導入編としてはとても読みやすいと思います。
文中に引用される仏陀の言葉をガイドに、さまざまな仏典(お経)を読んでみるのも良いと思います。こういった薄くて簡潔な内容の本で仏教のアウトラインをつかんで → 仏典を散策していく、というやり方ですね。無理がなくておすすめの勉強法です。
ブッダが説いたこと ー ワールポラ・ラーフラ (著), 今枝 由郎 (翻訳)
仏教には様々な流派がありまして、この本で解説されているのはインドから南アジアに伝わったテーラワーダ仏教という流れに属する教えになります。
ラーフラ長老は20世紀中盤にフランスで活躍されたスリランカ出身の学僧さんです。
テーラワーダは初期の仏典に忠実に、脚色を廃し、なるだけお釈迦様の言葉をそのまま伝道するというスタイルを基本にしています。
現在、日本にいらっしゃるスマナサーラ長老の著作(たくさんあります!)と合わせて読むと、テーラワーダの考え方がよくわかると思います。
このテーラワーダ式の瞑想方法のうち、ヴィパッサナーと呼ばれる「観察瞑想」をアメリカで広めた僧侶たちがいました。彼らの活動は、現在「マインドフルネス」の文脈で大いに注目されています。
このラーフラ長老の本は1959年発刊ですから、そういった現在のテーラワーダ仏教の活躍につながるルーツを知るための本として非常に価値ある書籍だと思います。
ヴィパッサナー瞑想 ー マハーシ・サヤドー (著), 星飛雄馬 (翻訳)
ヴィパッサナー瞑想(観察瞑想)とはなんぞや、どうやるんだ?という疑問に最もストレートに答えてくれるのがこのマハーシ・サヤドー長老の講話集です。実際に瞑想指導をしている場面を言語化したものになります。
とにかく実際にトライしてみたい!という方には文句なしにおすすめの一冊です。
ちなみにほとんど同じデザインの表紙で「初級編」と「上級編」があって紛らわしいです。ヴィパッサナー瞑想に初めてトライされる方は「初級編」を購入されることをお勧めします。
空海「般若心経秘鍵」 ビギナーズ 日本の思想 ー 空海 (著), 加藤 精一 (編集)
個人的な意見ですが、テーラワーダ仏教の教えは少し「ストイックすぎる」きらいがあります。
もうちょっと緩く、おおらかに、かつ、多様性を受け入れるような哲学のほうが性に合うという方にはインドから中国を経て日本に伝わっている大乗仏教の教えのほうがフィットするかもしれません。
大乗仏教の「教えの海」の如き広くて深い世界をどこから勉強していくか、というのはかなりの難題ですが、「薄くて、わかりやすい」という点に注目して空海の「般若心経秘鍵」ビギナーズ版をチョイスしました。
うれしいことにこの本は漢字にフリガナが付いてます!なんでこれがこんなにうれしいかというと、仏教用語は日常使っている単語と漢字は一緒でも、読み方とそれに紐づく概念・意味が全く違うことが多々あるからです。意味や概念などは時間をかけて吸収していくにしても、いつもと違う読み方をすぐに憶えられるフリガナの存在は本当にありがたいです。
般若心経秘鍵というのは空海が大乗仏教の根本経典のひとつである「般若心経」に寄せたコメント・解説集になります。般若心経自体がえらく短いお経になりますが、大乗仏教の「空」の考え方のエッセンスがギュッと濃縮されたお経になります。
そこに空海独自の視点が加わることで、より読みやすいものになっていると個人的には思います。
大乗仏教のイントロダクションとして一読してみる価値のある本だと思います。
ウィトゲンシュタイン 「私」は消去できるか ー 入不二 基義 (著)
最後は変化球で締めたいと思います(笑)
ウィトゲンシュタインという哲学者の言う「独我論」は突き詰めれば、釈尊のおっしゃった「無我」と共通の概念なのではないか?というのがテーマの本だと、僕は解釈しました。「独我論」と「無我」の共通性を維摩経の空思想を通して読み解いていきます。
こう書くと非常に小難しい本のように思われてしまうかもしれませんが、そんなことないです。ウィトゲンシュタインの哲学や仏教書を少しでもかじったことがある方なら楽しく読めると思います!
こうした「ミクスチャー本」の面白いのは、既存の知識セットから全然別の領域へ旅を進めることが可能になるところだと思います。
僕の場合は仏教を先に勉強して、そのあとでウィトゲンシュタインの思想に出会いました。はじめて論考を読んだときに「あれ?これ仏教思想にリンクしてない?」と思いながら読んだのを覚えています。その後Amazonで検索したら入不二先生がドンピシャのテーマでこの本を書いてらして、心の中でニヤっとしちゃいました。
西洋哲学から仏教への間口としても、こんなに薄くてこんなにわかりやすく楽しんで読める本は稀だと思いました。
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ざっと駆け足で紹介させていただきましたが、お楽しみいただけましたでしょうか?
なにかの参考になれば幸いです。
SN